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自分が教えていた子の成長が見れるのは刺激になった。孤月の扱い方が最初から上手い子だった訳ではないから。色々なトリガーに手を出していいんだよ、なんて無躾なアドバイスをできる立場ではないし、精一杯頑張っていた彼女の成長をこの目に収めることができたあの瞬間は、初めて東さんの気持ちを理解できた気がした。
あぁ、先輩になるってこう言う事なんだな、って。高校生は吸収が早い。まだ20の私が言えることではないけど、それでもやっぱり羨ましいと思うぐらいには、まだまだ伸び代があると言うのは良いことだ。
「荒船君、今日はごめんね。奈良坂君も」
「いえ、赤坂さんに呼ばれたらきますよ」
「狙撃手転向ですか?」
教え方がうまそうな人トップ3の内2人に連絡をしたのは、イーグレットの使い方を教えて欲しかったから。東さんは次の対戦相手だから除外。もしも対戦相手ではなかったら、東さんにすぐに声をかけていたと思うけど、この際良い。
狙撃手合同訓練が終わった後、狙撃場にいるユズルのそばに近寄って教えてもらおうと思ったら、なんだか三雲君のところの雨取ちゃんといい感じにお話をしていた。これは邪魔しちゃいけないと思って慌てて隠れたけど、なんだろう、自分の子供のそう言う場面を見た親の気分だった。
仕方ない。ユズルは諦めよう。奈良坂君、荒船君なら教えてくれそうだなと思って連絡すれば、まだ近くにいるとのことで。年下に頼るのは少しばかり気がひけるけど、感覚じゃなくて頭で動く二人なら教えてもらっても分かりやすそうだなと思ったから。だから当真君とかは絶対無理。ユズルと感覚派だけど彼よりはマシだし、何より同じ隊だからやりやすそうだった。
二人はトリガー姿のまま、人のいなくなった合同訓練所の入り口に来てくれた。狙撃手転向ですか?なんて聞いてきた荒船君に、口を手で覆いながら笑い返す。
「まさか」
「赤坂さんが狙撃手になるって言われたらニュースですよ」
「あはは、そうかな」
「カゲに嫌気がさしたらいつでも荒船隊に」
「狙撃手三人と赤坂さんだったら怖いもの無しですね、荒船隊」
二人ともそこまで私を持ち上げてどうしたいのだか。以前村上君に言われた年下キラーとの言葉が思い出される。年下キラーというよりは年下に気を遣ってもらってるだけでは?少しだけ首を傾げて、イーグレットを出しながら席に行き構えた。
「完璧に当てたいわけじゃないんだ」
ただ次のランク戦までには扱えるようになりたいだけ。どう撃ったら良いのか、どこらへんを持ったらブレないのか、とか。そこら辺を。
「すみません、後ろ失礼しますね」
荒船君の手が私の肩と腕に伸びる。しゃがんでいる私の頭に彼の顎が乗った。背の高い荒船君が後ろにいると、少しだけ威圧感がある。一瞬ビクッと肩を揺らせば、小さく笑った奈良坂君が私の横に立って、構えてるイーグレットの先端を少しだけ下に下げた。
「この状態が、真ん中に当たる状態です」
「なるほど…結構下だね…」
荒船君みたいにオールラウンドを目指してるわけじゃないし、そこまで緻密さを求めてるわけではない。ただ、当たらないよりは当たった方がいい。頭の中で考えている次の試合でやってみようとしてる戦い方をイメージして、片手を外してみた。
「片手で撃つとしたら?」
「んー…結構重いですからね、牽制ぐらいならできるかもしれないです」
「そうそう、そんなんでいい」
片手を外して、もう一度イーグレットを構える。荒船君の片手が私の前にある柵を掴んで、ぐっと身体が近づいてきた。
構えてる手毎、イーグレットを掴まれる。横に立っていた奈良坂君もしゃがんで、私の腕を下からすくうように支えて、このまま撃ってみてくださいと言った。
バンっ。
一音、弾の放たれた音が響いた後、遠くにある的の真ん中に穴が空いた。
「やっぱり難しいなぁ。当てようとするのはやめようかな」
「でも中々センスありますよ」
「荒船君、褒め上手」
私の手から手を外して、肩をポンと叩かれた。奈良坂君も小さく笑いながら、狙撃手転向もありですね、と続けていった。
私としてはまずそうやって、私を褒める前に出来るだけ距離をとって欲しいところだ。弟と同世代だった子達に、ここまで距離を詰められるのはあまりいい気がしないから。嫌なわけじゃないけど、揶揄っても良いことなんて無いだろうに。
「赤坂さん、もしかして次のランク戦で使うんですか?」
荒船君の言葉に顔を後ろに振り返った。キャップを被り直した荒船君が、目をパチクリと瞬きさせて、少しだけ距離を取る。思いのほか近かったせいか、彼は頬を赤くして照れていた。
まだまだ高校生だから、ふざけてたとしても素直な反応をするところはウブだな、と思った。思わず笑ってしまった私を見て、荒船君の顔がムッとする。
「うん、使おうと思ってて」
「へぇ……それは楽しみですね」
奈良坂君がそう言いながら、私の腕から手を外した。しゃがんで近い距離はそのまま。高校生にしては大人びてる顔の二人に謎に挟まれるこの空間。どうしたものかと思いながら、もう一回撃ってみるから見てくれる?とお願いすれば、二人は立ち上がって私から距離をとった。
二人とも、頬は薄らと赤い。なるほど、これが年下キラーと呼ばれてる所以か。そんな事を思いながら、的を見つめた。可愛い年下ではあるけど恋愛対象には残念ながら見れないので、ニヤニヤしている顔を隠すために、真剣さを出してみる。
的には当たらなくていい。ただ真っ直ぐ撃てればOK。さっき支えてもらった重さを思い出しながら、指をトリガーに引っ掛けた。
「真琴さん、探したよ」
「あ、ユズル」
どれぐらいの時間が経ったのか。からかってきていただけなのか、二人はあれから私に近づきもせずに、後ろに立ちながら一言一言アドバイスをくれた。少しだけ顔が赤かったのも、まぁまだ高校生だし、なんて思いながら、これが年下キラーってこと?と頭に疑問符を浮かべる。
ふと聞こえたユズルの声に顔を後ろにやれば、ユズルが呆れながら私のところに近づいてきた。荒船君達に頭を下げてお疲れ様ですと言うところは、礼儀正しい彼らしい。
「教えるって言ったのに」
「ユズル、雨取ちゃんと良い感じだったし」
「なっ…!」
「へぇ…玉狛のか」
奈良坂君の言葉に、ユズルがきっと睨みをきかせた。頬は赤い。そうかそうか、初恋か。あの時の弟と同じぐらいの歳で、恋をしてるユズルはなんて可愛いのだろう。
ニヤニヤしてる私を見て、ユズルが背中を叩いてきた。まだしゃがんでる私になんてことを。ずっとこの体制でいたから疲れてるのに。
尻を床につかせて、手から離れたイーグレットを片付けた。ずっとトリオンを削るのも疲れる。体力のない自分に笑いながら、立ち上がろうと足を踏ん張れば、私の前に手が三つ差し出された。
一つは荒船君、もう一つは奈良坂君。真ん中にある小さな手は、ユズル。
「……赤坂さん、どーぞ」
「赤坂さん、立てますか」
「え、何これ。私今すごいモテ期?」
「からかったら可哀想じゃん」
「お?ユズル、お前カゲの隊だからって口悪くなってるんじゃないのか?」
荒船君の悪態にもクールに対応するユズルに小さく笑う。
入隊して、このチームにやってきた時なんてもう少し弱々しい手だったのに。まだまだちっちゃい手だけど、少しずつ成長してるのが、老婆心ながらにも嬉しいと思った。
手を伸ばして、ユズルの手を握る。荒船君と奈良坂君にドヤ顔を見せてるユズルは子供っぽくて、そんなユズルに目を顰めてる二人もやっぱり子供っぽい。ボーダーとはいえ、隊員とはいえ、高校生と中学生だ。
守るべき存在の彼らにとって、私がどんな存在であろうとこの手は守らないといけない。
4年前、そう覚悟を決めたのだから。
「じゃあ戻ろっかユズル」
悔しそうにユズルを見下ろしてる二人の名前を呼ぶ。教えてくれてありがとう、コツ掴めたからあとは練習してみるね。そう告げれば、二人は笑いながら私の名前をそれぞれ呼んだ。
「いつでもカゲが嫌になったら荒船隊へ」
「また気になる事あったら連絡してください」
「ありがとー、カゲがまたやらかしたら考えとくね」
あの人の尻拭いはもうごめんだ。笑いながらそういえば、二人も同じように笑ってそれじゃあと頭を小さく下げた。
ユズルの手が離れて、私の前を歩く。その小さな背を追いかけながら歩いて、狙撃場を出た瞬間、ユズルは私の名前を呼んで、雨取さんのことは秘密にして、と耳まで赤くしてそう言った。
「ん、わかったよ」
なんで可愛らしいのだろう。もしもまだ弟がいたら、こんな会話をしたのかな。
ありもしない事を思いながら、私はユズルの後ろを歩いた。
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