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「私!三雲君狙い!」
「あんなにお気に入りとか言ってたくせに、やる事えげつねーぞ真琴!」
ついにランク戦当日。ブースに転送される前の打ち合わせはいつも通りカゲやユズルのふらふらマイペースどものせいで打ち切り。もう仕方ないから、私は三雲君を取りに行くと大きい声で言えばヒカリに怒られてしまった。なんで怒られないといけないのか。飴と鞭は使いようでしょと言えば、ちーちゃんにまで苦笑される始末。
「今日の解説、のんと風間さんかー……ちょっと荷が重いよね」
「真琴ちゃんなら大丈夫だよ〜リラックスリラックス!」
「だね、ヒカリの指示頼りで頑張ろう皆」
「打ち合わせの意味ねーだろー!」
大丈夫、大丈夫。深呼吸をして笑えばこの緊張とおさらばできる。そう、ヒカリやちーちゃんの笑い声を聞いてリラックスしとけばいいのだ。何回だってランク戦の前になると慣れない緊張感が襲ってくる。転送されたらすぐに視覚共有して全員の位置を覚えて…やる事が多いのもそれの原因の一つだ。
どっ、どっと襲ってくる緊張が胸を鷲掴みにする。あぁもう面倒だ、ぐっと息を飲み込んで、胸元にあるミリタリージャケットのチャックを上まで締めた。こっちを見てるカゲがまるで私を睨んでる。何だよその目ムカつくんだけど、と視線をよこせば、カゲは鼻で笑いながらソファから立ち上がり私の頭に手を置いた。
「いつになったら、慣れんだよ。お前の副作用と俺のがあれば楽勝だろ」
「……真琴さん、無理はしないでね」
優しいんだか何なんだか。カゲの手に少しだけ緊張をほぐして、ゆっくりゆっくりと息を吐き捨てた。ユズルが心配してる顔をみせる。あぁ、いつもはツンツンしてるくせに、こう言う時だけ可愛いなこの子達は。
いけるかも。そんな気持ちを抱きながら、目を開ける。転送まであと少し、余裕だな。そんな気持ちになれた時の私は、無敵なのだ。
目を開けた。転送が終わった。MAPは市街地B、天候は雪。寒くないのに雪のつめたさだけは感じる謎の空間。東隊がMAP指定をしているはずだから、きっとあの二人のどちらかが考えたんだろう、東さんはこういうの好きじゃないだろうし。
さて、皆の場所はどこだ。まずはバックワームを起動させて、他の隊に知らせないように自分の存在を消した。
「ヒカリ、視覚共有して」
「おっけー任せろ!」
「カゲ、私三雲君行っていい?」
周りには誰もいない。影浦隊も他の隊もうまく均等にばらけたようだ。内線越しにカゲを呼ぶ。彼は舌打ちをこぼして、たった一言「行け」と告げると、レーダー内を動き出した。
共有された視覚はちーちゃん、カゲ、ユズルの三人。一瞬ぐらりとゆれる視界のあと、なんとか足に力を入れて踏みとどまった。全員が動き始めたレーダー内、私だけがいまだにここに立ち尽くしている。
「真琴、大丈夫か!?」
天候が悪いと私の脳内電波が悪くなったりするのだろうか。明らかに脳に入り込む情報の多さに眩暈がして気持ち悪い。内線から聞こえてくるヒカリの言葉に頷いて、一度深呼吸をした。
ユズルの声、ちーちゃんの声もきこえる。ミリタリージャケットのチャックを口元まで上げて、全ての息を吐き出した。
「大丈夫、走るね。ちーちゃん一発ぶちかまして」
地面を蹴った。ちーちゃんの「おっけー!」と明るい声を耳に流しながら、空閑君に向かってる正体不明の存在に辿り着くように、走った。
地面の揺れる音が響く。空中から炸裂するメテオラが当たり一面に降り注いでいくのを笑いながら見つめた。残念、誰にも当たっていない。
「一番近いのニノさんだった!やばいやばい!ユズルヘルプミー!」
「ゾエさん頑張って」
二宮君に一番近いのはちーちゃんとユズル。共有してる視覚から見えるのは、二宮君のアステロイドの軌道だ。ヘルプに行くか、三雲君をとりにいくか、一瞬の悩みに足は止めない。
「なるべく粘って死ね!そのぶんカゲと真琴がフリーになるし!」
「俺ぁ玉狛の空閑と遊んでくるぜ、あいつが一番面白そうだ」
「真琴の援護だな、カゲ!」
「ちげーよ」
この子達の戦闘になっても漫才っぽくなるその会話はいつになっても健在だ。面白くて笑っていれば、カゲに名前を呼ばれた。雪の上を走るのは意外に楽ではない。バッグワームに忍ばせた武器もいつどこで誰に見られているかわからないのだ。一番怖いのは雨取ちゃん、彼女に撃たれないようにだけ、気をつけなければ。
カゲに呼ばれた名前に反応して、何?と声をかける。トップランカーの攻撃手の彼のマイペースな戦いぶりを、援護するのは大変なのだ。こっちにこいとか言われたらどうしよう。三雲君の点が欲しいのに、なんて思いながらたどり着いたのは、建物。音が聞こえるその中には、どうやら二宮隊の子達もいるらしい。
「空閑がいた、そっちは任せる」
「…赤坂りょーかい」
隊長直直のご命令だ、これはどうにかして三雲君の点をとらないと。ジャケットの下に隠した口元は笑っている。
困ったな、三雲君は人気者だ、私一人だけのものではないらしい。犬飼君達からの集中攻撃は見ていて可哀想だけど、今回ばかりは同情もしてられない。
取りに行きますか、大将の首。
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