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「え?太刀川君と真琴について?」
そう言ったのは、加古望。赤坂真琴の親友である。二人は高校一年生の頃に出会った。四年半前の大規模侵攻後、ボーダーに入隊した者はそこそこにいた。その中にはあのA級1位の隊の隊長である太刀川慶や、かつてのA級1位の隊を率いた東春秋がいた。曲者達が揃いも揃って同時期に入隊している。
その中に、赤坂真琴はいた。風間や東、嵐山など今のボーダーを引っ張る男達に紛れ込んで、その頭角を少しずつ表していく途中で、彼女は加古望と出会う。
東を経由して出会った二人は、最初はそこまで仲良くはなかったらしい。
ミステリアスな美人、何を考えてるかわからないタイプの加古と、真面目で世話焼きの赤坂は、最初はお互いにお互いを合わないと思っていた。
そんな二人が、今のように仲良く真琴、のん、と呼ぶようになったのは二人の男が原因だった。東隊に入った加古には、気に食わない男が一人いた。
二宮匡貴。頑固で堅物。自分の実力が一番だと思い込み、才能を意のままに操りその場を仕切りたがるナルシスト。加古は、二宮のようなタイプが嫌いであった。大嫌いであった。
そして赤坂にも、気に食わない男が一人いた。太刀川慶。戦闘狂、デリカシーがない、上から目線。赤坂は太刀川にほとほと参っていたし腹が立っていた。
ある日のランク戦終わり。隊員であった三輪にさようならと告げで別れ、ボーダーの中を歩いていた加古は、周りに誰もいないのをいいことにぶつぶつと呟きながら歩いていた。
「なんなのあの男…自分が天才とでも思ってるわけ…?」
そんな加古とすれ違うように現れたのが、赤坂だった。彼女は丁度、太刀川にポイントをごっそりととられた後だった。
「太刀川クソ。絶対にテスト勉強教えてやらない口もきかねぇぞ」
二人は自分の世界にのめり込んでいた。お互いがお互いに嫌いだと思っている男への負の感情を爆発させながら。
幾分か背の高い加古に気付きもせず、幾分か低い赤坂に気づきもせず二人はすれ違ったが、その瞬間。
「「だからあいつのこと大嫌い」」
二人が同じ言葉を口にした。
二人は髪を勢いよく振り横を見る。そこでやっと、お互いがお互いの存在に気づいたのだった。
その後からは早かった。愚痴りたかった二人は食堂へ赴き、お互いに愚痴の対象である人物のあんなことやそんな事を口々に言葉にした。二人とも違う人物について言っているのに、同じような内容。
気遣いができない。自意識過剰。自分を一番だと思ってる。周りを見ない。デリカシーがない。何より優しくない。
まだ高校生だった二人にとって、優しさのない異性はクソであった。
「なにその二宮君って人。のんが嫌うのもわかるんだけど」
「それは太刀川君って人もよ。真琴が苛立つのもわかるわ」
女子というのは、愚痴を通して仲良くなるところがある。この二人も例外ではなく、この愚痴会を通して、二人は気付けば名前を呼び合い親友へとなったのだ。
そして冒頭。そんな事を後輩に聞かれた加古は面白い事を聞かれた、とでも言いたげな表情を浮かべてニヤリと笑った。手にしてるのは炭酸水。そこまで品があるのは加古らしい。
「あの二人、高校は違うのに大学は一緒の大学にしたのよね」
加古と赤坂は同じ高校だった。進学校と呼ばれる高校で、二人は一度も同じクラスになったことは無いらしいが、ボーダーでお互いを認識してからはちょくちょく教室に集まっては二人で過ごしていたらしい。その高校にはあの二宮も在籍していたが、その話については割愛する。
赤坂は本来、ボーダーが提携する大学に進む予定は無かった。もう一つランクを上げた大学に進学しようと決めていたのだ。加古が言うには、ボーダーに永久就職できるか分からないから、らしい。リアリストな真琴らしい考えよね、と加古は笑う。
「高校の時はいつも太刀川君に勉強教えてたわよ。太刀川君に負けっぱなしでも勉強は真琴の方が上だから…ほら、今でもレポートとか期末試験のたびに太刀川君は真琴に助けを求めるじゃない?変わらないのよね、あの姿も」
高校の頃から二人は一緒にいた。太刀川は赤坂をあてにしていたし、赤坂はそんの太刀川の面倒を見ていた。二人はボーダーでよく一緒にいるところを見られていて、あの二人は仲がいい、まるで姉と弟のようだ、なんて言われていたこともあるらしい。
加古は笑いながら先を続ける。
「大学も、太刀川君が大学進みたいって言い出してからボーダー提携の大学に進学先変えたし……本当は違う大学に進む予定だったのにね。学部は違うけど、太刀川君の面倒を見るのは今も昔も一緒よ」
太刀川の面倒を見るのが赤坂の役目。まるでそうと言わんばかりの言葉だ。
加古はまた一つ笑いをこぼすと、視線を上げた。そして周りに聞こえないように小さい声でこう続ける。
「男女の友情って感じに見えるけど、実際どうなのかしら?あの二人、私にはお似合いに見えるよよね」
加古はそう、ニヤリと笑みを浮かべた後に立ち上がった。
「まぁ、真琴の好きなタイプは太刀川くんみたいなちゃらんぽらんではないと思うけどね」
赤坂真琴の親友は、そう告げる。間接的に悪口を言われた立川も可哀想である。
「それじゃあいくわね。真琴とこれから、デートなのよ」
颯爽と立ち去る加古の後ろ姿は、まるで今から大好きな彼氏に会いに行くかのようなもの。加古は周囲の人が認めるほどの、赤坂派の人間であった。
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