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真琴ちゃんは、影浦隊の大事な攻撃手だった。まだカゲとヒカリちゃんしかいなかった隊に、あのカゲがスカウトをして入ってきた。そりゃびっくりした。あの時の真琴ちゃんは、ソロの攻撃手で、A級レベルの強い人、と言う印象が強かったから。

どの隊にも入ろうとしない、噂ではあの風間隊にもスカウトされたらしいのに入らなかった、とか聞いたし。何が一体どうなってこの隊に入ったのか、不思議でならなかった。

そんな真琴ちゃんは、やっぱり強かった。マイペースなカゲやゾエさんの攻撃にも合わせてくれるし、作戦も立ててくれる、プライベートでは勉強も教えてくれたり、厄介なカゲの副作用を理解して周りをフォローしてくれる。

優しい人だった。ゾエさん達のお姉さんのような存在だった。とっても大好きな人なのだ。それはもちろんゾエさんだけじゃなくて、ユズルも、ヒカリちゃんも、あのカゲだって、真琴ちゃんのことを大好きだと思ってる。

だからそんな大切な人が、毎月高い頻度で訪れる副作用の検査に赴くことを、あまり良しとは思っていなくて、とてもとても心配をしていた。
終わるたびに低血糖になるとか言ってチョコを貪るように食べるし、眠くなってきたと言って隊室にあるこたつで寝たり、そのままずっと起きなかったり。そんなことがよくあったから、影浦隊の人たちは皆、検査をする研究員のことをよく思っていなかった。

「その検査ってやめられないの?真琴ちゃん」
「やめられるならやめるんだけどね」
「なんでもホイホイ聞きすぎだろ」
「え、私が悪いんか」

カゲの家でお好み焼きを食べていた。目の前にある鉄板に油を敷き、カゲが混ぜ込んだ生地を広げて行く。真琴ちゃんはカゲのお母さんに声をかけて、笑顔でお礼を言っていた。

影浦隊の唯一のお姉さんである真琴ちゃんを、カゲのお母さんはとても気に入っている。

「いやーだって、ねぇ」
「今日すごく長かったよね?」

カゲが生地の下にヘラを入れてひっくり返す。真琴ちゃんが拍手をして喜んだ。毎回カゲにやらせるのは、真琴ちゃんがひっくり返すのが下手だから。隊の皆で来る時なんて、あのユズルでさえ真琴ちゃんにはやらせたがらない。真琴ちゃんは意外に不器用だった。

「なんか総集編って感じだった」

カゲが焼けたそれにマヨネーズとソースをかけようと取り出した。真琴ちゃんがそれに気づいて、私がやると手を挙げたてくれたからお願いする。

「変なことはされてないんだよね?」
「あはは、本当に君達は心配性だね」
「研究員に男の人多すぎるんだよ〜」

上手にアミアミにマヨネーズを掛けた真琴ちゃんが嬉しそうに顔を見上げた。どうよ、なんてドヤ顔する真琴ちゃんに上手上手と拍手をする。
立ちっぱなしだったカゲが真琴ちゃんの隣に座り、お好み焼きを切り取っていった。

「女の人もいるよ。部屋の向こうにはもっと多くの人が立ってこっち監視してるし。変なことなんて出来ないと思うよ」
「ほんと〜?なら良いんだけど」

カゲが真琴ちゃんのお皿に切り取ったお好み焼きの一欠片を乗せた。それにお礼を言って、手を合わせていただきますと言う真琴ちゃんに合わせて、自分達も言えば、それを見ていたカゲのお母さんが一つ笑いをこぼした。

「ゾエは、心配しすぎだろ」
「とか言ってカゲだって凄い心配してたでしょ!」

ヒカリちゃんとユズルもだ。

20時になっても戻ってこない真琴ちゃんのことを心配して、二人が検査室に行くと立ち上がった時なんて最早殴り込みに行くんじゃないかというぐらいの勢いだった。必死に押さえつけて2人はなんとか帰らせたけど。ヒカリちゃんなんて最後は少し泣きそうだった。

そうだよね、いつもならすぐ終わってくるもんね。1時間の検査でさえいつも体調が少し優れなくなる真琴ちゃんを知ってるもんね。瞬間記憶なんていう副作用をもってるせいで大変なことにも遭っただろうに、それでも真琴ちゃんはいつも優しいから、だからゾエさん達が怒るしかないんだよね。

「いつまでも帰ってこねーと俺らが帰れねーだろ」

お好み焼きを食べながらカゲが言う。照れ隠しだな。それがわかるからその一言にも笑いながら、真琴ちゃんはありがとうと言った。

「んー!美味しい!お母さんとっても美味しいですー!」
「よかった!沢山食べていってね!」
「はーい!」

もうお店は閉店してるのにいつも快よく食べさせてくれるのはありがたい。一緒になってお礼を言えば、さらにカゲのお母さんは笑顔になってくれた。

ふと前を見れば、真琴ちゃんは、そんなに熱くないのに何度も何度もお好み焼きに息を吹きかけていた。

「熱い?」
「熱い」

彼女は猫舌だ。大人っぽくて優しいお姉さんのような真琴ちゃんは、こうやってたまに天然というかドジっ子なところを見せてくる。ゾエさんのことをずっと千尋だと思っててちーちゃんって呼んでたことを知った時なんて、怒りも呆れも通り越して笑いすぎてしまった。まだ隊に入って数日も経ってなかった時だったけれど。

ひーちゃんに変えようかと言ってくれたけど、自分でヒカリと間違えそうだというからそのまま、ちーちゃんと呼ばせることにした。

皆と同じゾエって呼ばれるのも、なんだか味気なかったし。真琴ちゃんにだけ呼ばれる呼び名がある方が、高校生組としては優越感に浸れるのも確かだったから。

真琴ちゃんは、年下キラーだから。自慢できることに越したことはないのだ。

「今度皆で焼肉行かない?」
「奢りなら行く」
「カゲってばまたそう言うこという〜」

焼肉なんて、嬉しいだろうに。笑いながらそう言えば、カゲは不貞腐れながらマスクを外して、お好み焼きを食べていた。

「この前の大規模侵攻で報奨金貰ったからさ」
「あれ?引越しのお金で消えたんじゃないの?」
「あまったの。影浦隊で美味しいもの食べたいなぁって、どう?」

ずっと実家で住んでいた真琴ちゃんは、つい先日引っ越しをした。そのお手伝いは大学生組の人達がしていたけど、実はゾエさんもカゲも、他の人達も皆真琴ちゃんの引越しお手伝いに立候補はしていた。

平日だからダメって断られてしまったけど。

「いいぜ」
「やった〜!楽しみににてるね」
「うん、ヒカリ達にも伝えないとね」

まずは今日の検査が遅れた事を謝らないと。そう、にこやかに笑いながら言った真琴ちゃんは少しだけ嬉しそうだった。

ゾエさん達の、お姉さん。影浦隊唯一の、大人。女性自体少ないのに、さらに年上の女性戦闘員となると、マイナーすぎて誰もが関わりを持とうとする人。そんな人が、少女のように笑いながら、ゾエさんとカゲを見ていた。

うるさい刺すな、と悪態をついたカゲを見て、笑う。

恥ずかしがり屋だな。照れ屋さんだな。ゾエさんも同じように照れたら、真琴ちゃんはその可愛がるような目で見てくれるだろうか。

なんて、心の中で思ったりした。


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