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三雲くん達のデビュー戦を、見ることができなかったのが悔しい。だって任務入ってたんだもん、活動自粛期間から解放された途端影浦隊にはわんさか任務が入っていた。元A級だからって入れすぎだ、私以外全員未成年だし一人は中学生だぞ。

全く、ボーダーはどうしてこうも学生達を酷使するんだろう。ここはブラック企業だ。私はいつも頭の中でそんな事を思っていた。

「げ…今日って東さんの解説の日だったの…」
「ねぇ真琴ちゃん、この後暇?」

B級ランク戦が始まってから、自分達の隊の士気を高めたりチームワークの再確認などをするのは私の役目だった。だって隊長のカゲはそういう事をしない。そしてユズルもそういうのはいらない、と思ってる派の人間だからこれが中々に面倒。

2人をなんとか説得して、皆で次戦う隊のログを見たり、今後の作戦を考えていた。カゲは堂々と寝ていたし、ユズルもユズルで「真琴さんとカゲさんに合わせるよ」しか言わないし。

ちーちゃんと私で色々な案を出してなんとか話し終えた後、ずっと通知を鳴らしていたスマホの画面を見れば、太刀川から10件もの連絡が来ていた。そのメッセージを見ながら出た言葉が、さっきの言葉だ。

「ちーちゃんごめん〜わたしこの後予定入った!」
「なんだよ真琴!焼肉いつ奢ってくれんだよ!」
「ごめんって、ヒカリ!ちゃんと奢るから!」

この通り、と両手を合わせて頭を下げる。いい加減奢ってあげたいんだけどいかんせん時間が作れない。逃げてる、とユズルが言った一言にカゲまでもが私を睨んだ。高校生は焼肉が好きね。かくいう私も好きだけどさ。

「今度ちゃんと奢るから、お疲れ様。皆はさっさと帰るんだよ」

ヒカリの拗ねてる顔、睨んでくる二人の顔、唯一気をつけてと手を振ってくれる優しいちーちゃんに頭を下げて、私はいち早く隊室を出た。申し訳ないとは思ってる。思ってるけど、こればかりは急ぐ。

太刀川からの連絡は全部、B級ランク戦の解説を聞いてこい、だった。東さんが解説なんてすっかり忘れてた。あの人の解説を聞けるなら何がなんでも聞いておいたほうがいい、絶対一つはためになることがあるから。

廊下を歩きながらスマホに指を走らせる。ごめん今気づいた、急ぐ。そのメッセージを彼が読む時があるのかはわからないけど。


太刀川と変な空気になったあの日以降、特に私達の間に変化はない。隣の部屋は変わらないし、腹が減ったと勝手にあいつが部屋に来るのも変わらない。部屋で二人きりになったとしても、またあの時みたいに彼の顔が近づいてくることも、よくわからない空気になることもない。
なかった事にしてくれるならそれが一番良い。私も、あれは無かったことにしてるから。

気の迷い。高校からずっと一緒だから、少しの気の迷いが発生しただけ。そう、きっとそうだと思っている。あいつを男と思ったことなんてないし、あいつを恋愛対象として見たこともない。てかはっきり言って、ボーダーの人をそういう目で見れるか?と聞かれると困る。レイジさんや東さんは大人っぽくてそりゃ恋人だったら素敵だとは思うけど。

それとこれとは別かな、っていう感じ。

「うわ、マジか、終わってた…」

せっかく走ってブースにたどり着いたのに、試合はすでに終わっていた。あぁやってしまった、太刀川になんて言おう。いや知るか。

ブースの扉からは人がぞろぞろと出てきていて、知らないC級の子達が何かを話しながら歩いていた。その中に、双葉ちゃんがいた。彼女は私を見つけた瞬間少し小走りで私のところにきて、頭を下げて私の名前を呼んだ。相変わらずしっかりした子だ。のんの隊に所属してるとは思えない。

「お疲れ様です、真琴さん。丁度今終わりましたよ」
「ね…ショック、見たかったんだよね」
「東さんが解説だからですか?」

不思議そうに首を傾げてる彼女に、苦笑をこぼした。東さんが大好きなのはほとんどの隊員がそうだろうけど、東さんは確かに理由の一つであって、他にも理由はあった。

「玉狛第二の試合、見てみたかったんだよね。どこが勝ったの?」

三雲君の戦いぶりを、この目に収めてみたかった。まだ一度も彼の試合は見ていないし、実際に当たるまでにはこの目で見たいなと思っていたのに。今日は見れるチャンスだったのになぁ。

「……玉狛ですけど、どうして真琴さんが、あの隊を」
「三雲君、ちょっと注目してるんだ」

誰にもそれを悟らせないようにしてたわけではないし、別に気づいてほしかったわけでもない。ただ個人的に、彼に興味があるだけで。それを伝えた時の双葉ちゃんは、やけにむっとしていた。

真琴さんが興味を持つほどの人間ではないと思いますでは。

ノンブレスでそう言い切った彼女は、私にまた頭を下げると、そのまま歩いて行った。その姿を振り向きながら見送る。

何か変なことを言っただろうか。あとでのんに連絡しておこう。双葉ちゃんに変なこと言ってしまったかもしれないから、機嫌とっておいて、って。

「あっれ〜泣き虫赤坂さんじゃん、来るの遅くね?」
「君ね、それやめてって…」

米屋君の声に、頭を押さえながら振り返った。泣き虫赤坂は本当にやめてくれ、高校生はこういう時面倒なんだから。はぁ、と出るため息を、存分に出しながら顔を上げれば、彼の隣には古寺君と菊池原君、歌川君、その後ろには三雲君がいた。

ニヤニヤ笑ってる米屋君が私に腕を広げながら、また抱きしめてあげようか?なんていってる。それに対して冷ややかな目を向けながら、私は足を進めた。米屋君も、私に何か言おうとしてる菊池原君も、全部無視して。

「三雲君、おめでとう!」

彼に全力で抱きついた。

「っ、赤坂さん…!?」
「うっわ、マジ?俺のこと遊びだったんだ?」
「米屋君ちょっと黙って」

私と同じぐらいかちょっと高い背の彼の背中に腕を回して、ぎゅーっと抱きしめる。おめでとう、見ることはできなかったけど、もうここで勝ってるならきっと中位には入ってるってことだもんね。

おめでとうおめでとう。見たかったなぁ。彼のことも米屋君の言葉も全部無視して、ヨシヨシと彼の頭を撫でていれば、三雲君は少しだけ顔を赤くして、ワタワタと手を振るわせていた。

あぁこれは悪いことをしたかもしれない。私の後ろで、宇佐美ちゃんが笑いながら私の名前を呼んだ。

「赤坂さん、三雲君、とっても困ってますよ〜?」
「ごめんね、あまりに嬉しくて」
「いいなぁ俺には抱きついてくれないの、赤坂さん」
「君には行きません」
「あの時はあっつい抱擁をしたじゃん?」
「うわ……」

菊池原君の引いてる声には流石にちゃんと反応をした。引かないで、違うから。三雲君から離れて菊池原君をちらりと見れば、やけに不貞腐れながら唇を尖らしていた。視線を三雲君にまた戻して、にこりと笑う。

「諏訪さんやっつけたんだ?ナイスだね、三雲君」
「い、いや、そういうのでは…!」

謙遜してる姿もナイス。諏訪さん悔しがってるだろうな、今度頭撫でてあげよう、絶対嫌がると思うけど。

「俺ら今から個人戦ブース行くけど、赤坂さんいく?」
「行かない、私東さんのところ行きたいし」
「うっわ、堂々と東さんと浮気〜?俺は〜?」
「あーもー抱きつかないでよ」

米屋君が後ろから私に抱きついてくる。揶揄うのやめてよ、そう言いながら彼の足を蹴って、まだ拗ねてる菊池原君の頭を撫でれば、彼はふいっと首を横に振って歌川君の隣に移動してしまった。え、なんで。ひどくない?触られたくないの?ちょっとだけショック受けていれば、歌川君が苦笑しながら私に視線を寄越した。

「拗ねてるだけですよ」
「拗ねてないし」

あぁ、本当だ拗ねてるだけだ、よかった。安心しながら、まだ首に回ってる米屋君の腕を取って、それじゃあねとそこにいる皆に声をかける。

「赤坂さん、今からレイジさん来るけどいい?」
「うっわー悩ましい、でも東さんに用あるからいいや、よろしく伝えといて」
「はーい了解です」

宇佐美ちゃんがぐっ、と親指を立てて笑った。それに対して同じように返して、三雲君にも空閑君によろしくね、と伝えてブースの中へと足を向ける。最後にちゃんと菊池原君の頭を撫でることを忘れずに。ずっと中に入れてなかった古寺君にはまた今度話そうねと言って。

あの男の子たちはなんであんなに元気なのだろう。未成年は早く帰りなさい、そう言ってやりたいのを我慢して私はブースへと入った。

そこには東さんがいて、最後の施錠の確認を行っていた。忘れ物はないか、ゴミはないか、全部見て回るのなんて面倒だろうに、さすが東さん。てか全員手伝ってやれよな、ほんと。

「東さん、お疲れ様です」
「ん、赤坂か。どうした?」
「今日東さんの解説だったんですね、聞きたかったのに時間忘れてて…」
「あはは、いいんだよ、影浦隊は任務が沢山入ってきて大変だろ?」

東さんは相変わらずの優しい笑顔を浮かべて、そう言った。手にはゴミが何個かあって、ちゃんとゴミぐらいは持ち帰って欲しいですね、と言いながら私も上の方の席をチラチラ見ながら、彼の元へと近寄る。

「どっかで解説録音してたりしません?」
「俺は撮ってないなぁ…聞きたいのか?」
「太刀川に聞いておけって言われてたの忘れてて……怒られちゃう」
「あいつが怒っても、屁でもないだろ?」
「まぁそうなんですけど」

東さんが笑いながら、私の頭を撫でた。あ、ちょっとドキッてしたかも。二人きりのこのブース内で頭撫でられたら、そりゃ少しだけこの人を男として見てしまうだろう。この前も泣いてるところ見られちゃったし。

「……もう、泣いてないか?」
「え?」

私がいつも泣いてるとでも思ったのか。東さんの言葉に素っ頓狂な声で返して、ちょっとだけ目を見開いた。いやいや、泣くわけないじゃないですか。笑いながらそう返して、彼の手が頭から離れるように、少しだけ後ずさる。東さんは笑って、そうか、と首を縦に振った。

「解説はオペレーターの子に聞いてみるといい、もしかしたらあるかもしれない。あとは俺が見回るから先に帰れ、遅くなるぞ」
「はーい、ありがとうございます」
「あまり思い詰めるなよ」
「うん?はい、大丈夫です」

東さんが一体何に対して言ってるのかはわからないけど、とりあえず頷いて笑顔を浮かべた。なんかあったっけ。少しだけ首を傾げて、ブースを出る。

今日の解説の子は確か武富ちゃんだったか。彼女の連絡先は持ってないから、もう面倒だし太刀川に武富ちゃんのところ行け、とだけ言っておこう。私があいつのために足を動かす必要はない。そう、断じてないから。


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