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「馨、なんか最近楽しそうだね」


あろ夜、お風呂からあがり冷蔵庫の中を物色していた私に姉が声をかけた。

「え?」

「なんか最近にこにこしてる。いいことでもあった?」


そう言われても何も思いつかないが、何かあったといえば別の学校にいる子に毎週3日程度勉強を教えていることだろうか。
あの話をしてから、彼は本当に私に勉強を教えてもらおうとおもっていたらしく、わざわざ勉強の計画なるものをメールで送ってきたくらいだ。
そこまでできるのなら一人でも十分できるだろうと私は思ったのだが、誰かとやる方がはかどるらしい。確かに、同じ目標のひとと頑張るほうがやる気はでる。


「んー特にないよ?」

「本当にー?」

「本当本当」

「そっか」


あきらめたのか、姉は膨らませてた顔をもとに戻し、何かを思い出したかのように声をだした。


「馨」

「なにー?」

「桐皇に行くんだよね!!」


何かをたしかめるようにそう聞く姉に、私は開いた口を一度閉じ、そういえば言っていなかったなと思った。
親から言ってると思ったのだが、そうでもないらしい。これは自分で言えということなのか。

「...ううん」

「....え?」

「桐皇にはいかないよ。お母さんから聞いてない?」

「聞いてないけど...桐皇じゃないの..?」

「うん。まぁ、高校まで別に一緒じゃなくてもいいでしょ」


その私の明るい声がだめだったのかもしれない。
彼女は私と双子のくせに、少々ヒステリックになるところがある。本当に似ていない双子だなとつくづく思うが。


「なんで!?」

「なんでっていわれてもなー」

「私と同じ学校にいこうよ!!」

「行きたいところあるし」

「ずっと私たち一緒だったじゃん!!」

「いやいや」

「高校も一緒だと思ったのに!!」


そして彼女は泣く。一緒がいい、と。

そんな姉を見て私は一人心の中でこう思った。

本当に今まで一緒だったか?と。

いつもいつも私よりも優遇されてた姉。こうやって感情を表に出すのも私はできない人なのに、彼女は簡単にできてしまう。
ここのどこがずっと一緒だったのに、だ。
堪忍袋の緒が切れるとはこういうことだ。

「この際だからいうけどさ」

「...?」

思ったよりも低い声がでた。その声に、自分自身驚きはしたが構わず続ける。


「お姉ちゃんといると、私苦しい。生きづらい。できれば一緒の学校とか本当に勘弁してほしいの」

「なんで..」

「私、お姉ちゃんみてると自分が大っ嫌いになる。自分だけじゃなくて全部。何もかも。だからいや」


思いのたけを単語だけでつなげていく私。こんなんでよく優秀だといわれるなと心の隅で思ったが、それでも口はどんどん言葉がでる。こんなこと、本当は言っちゃいけないのに、思ってないのに。








「お姉ちゃんなんて、大っ嫌いだよ、私」






驚いた顔をする姉。その顔を見届けてから、私は姉が何かを言おうとしたことも知らずにリビングをすぐでた。
階段をどたどたと駆け上り部屋にこもる。
後悔しても遅いけれど。ドアを背にずるずるとしゃがみこむ私。
聞こえるわけもないし、届くわけもないけどせめてもの言葉として一言、



「ごめん」




と私はつぶやいた。




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