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「何から言えばいいのかな」

俺はチームメイトの顔をじっくり見る。
全員しっかりと俺の顔を見ていて、もう信じようときめたのか、彼等の目に先ほどまでみられた迷いは見当たらなかった。

「..俺達がいた世界では、俺達は奴隷でね」

「...え?」


そりゃそうか。奴隷と言われても現実味がない。だが、実際に俺達が奴隷だったのは本当の事だし、本当の事を言わなければ話しは続かない。



「彼女も奴隷だった。だけど彼女は魔法が使えた。昔から、よくあの魔法で俺達を助けてくれたよ。


彼女は、あっちの世界では『マギ』と呼ばれる魔法使いで、本当に数人しかいない伝説のような人物なんだ。彼女は、俺達を奴隷という身分から救い出してくれた人だ」


足首にあるまだ消えない痣。
あの当時の事を思い浮かべるたびに、悔しさで手に力が入る。
その手に、敦の手が重なる。敦の顔を見れば、敦もあの頃の事を思い出しているのか悔しさで顔が歪んでいた。


「ここの世界に移動してきた人間は全員、マギによって救い出された元奴隷達だよ」

「他にもいるのか?」

「あぁ。まだまだいる。全員、マギに絶対の忠誠を誓っているさ」


全員、彼女の作った迷宮を攻略し彼女の王候補になった。マギを守るため、俺達は絶対の忠誠を今もこれからもずっと誓っている。


「色々あるんだけどねー話すと長くなっちゃうの。だからー多分夏生ちんがこれからするのはーあっちの世界にみんなを連れて行く事だね」

「..どういう事なのだよ」

緑間がそう言う。
敦はお菓子を全て食べ終えてしまったのか、捨てるために台所の方へと歩いて行った。更に、マギが用意してくれたのだろうお菓子をぼりぼりと食べる音が聞こえた。


「おれももつよー夏生ちん」

「ありがとう、敦」


人数分のお茶を持って来たマギと敦。全員の視線が彼女へと向いた。


「さつきの命が危ないからね。いまからあっちの世界に君たちをつれていくよ」

「で、でも時間が...!!」

「時計、見てご覧」


そうマギがいうと同時にみんなが一斉に自分の携帯や時計を見る。
マギが先ほどかけた魔法によって、いま、この世界で動いているのは俺達だけだ。



「時間が、止ってる...」



時計の針は8時40分をさしたまま。
おそらく、愛川の時間も止ったままだろうが、どうなるかは分からない。
一刻も早くあちらの世界にいったほうがいいだろう。

全員にとりあえずお茶を飲めと命令する。何事も、落ち着くことから始めるのが得策だ。

「愛川もいつ動きだすかわからない。あんたたちの安全のために、一旦あっちの世界に移動するよ」

「どうやって移動すんだよ?」

「え、魔法でね」


お茶を飲み干したマギはそう言うと玄関の方へと足を向けた。


「全員荷物と靴もって、こっちにきてー」


そういうマギに従って、お茶を一気に飲み干した全員が荷物と靴を持つ。
展開が早すぎてついていけないのもわかるが、とにかく今は急がないと、愛川に感づかれる可能性がある。
急げ、と彼等に一言告げた。


「きたね?んじゃ、私たちの故郷へ、ようこそー」


マギがドアを開ける。そこには、真っ暗なマンションの廊下が広がっているのではなく、日本ではない、賑やかな街街へと繋がっていたのだ。



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