一番弟子の優位さ

狙撃手が集まれば、大体の話は東さんのことだったり当真さんのことだったり、ランク上位の人の話が上がる。
そんなメンバーの中、当然のように挙がる名前はもう一人いて。


「やっぱり井伊さんの狙撃が一番理想です、私は」


日浦さんのその言葉に、弟子ながらに嬉しく感じる。自分の師匠は、ランク上位に位置する敏腕な狙撃手だ。トリオン量は低くても、一発で敵を仕留められれば関係ないと、狙撃手の強さを証明してくれた第一人者だ。


「佐鳥の師匠でもありますからね〜」


なんて、周りにいる先輩たちに自慢するかのようにそういえば、当真さんが頭をぐりぐりと押し付けてきた。
この人はいつまでも井伊さんのことが、師匠のことが大好きなんだ。


「佐鳥が井伊さんの弟子についたのは賢明な判断だったな」



奈良坂先輩の言葉に笑顔を見せる。
最初こそ、井伊さんはトリオン量が低くて今ほど注目は浴びていなかった。
ランクもB級止まりだったし、井伊さんを欲しがる隊というのは全然いなかったそうだ。
もしも自分がその時いて、なおかつ隊を持っていたとしたら、絶対にすぐに井伊さんを誘うのに。当時はやっぱり、井伊さんと同い年の太刀川さんとかが目立っていたそうだ。


そんな井伊さんを入れたのが、今の井伊さんの隊長である小早川さん。
お互い、研究開発に所属しながらの正規隊員だったのも相まってなのか、小早川さんはずっと井伊さんに熱烈なアピールをしていたそうだ。
何が理由で、井伊さんが小早川さんの隊に入ったのかはよく知られていないけれど。


そして、自分が井伊さんに弟子入りしたのは、井伊さんが小早川隊に入って間もない時。太刀川さんに無理矢理ランク戦に誘われてブース内で戦っているのを見た時だった。

攻撃手と狙撃手という変なコンビのランク戦。
最初はなんだなんだと見ている人も多かったけれど、まぁ狙撃手と攻撃手だから、見る必要はないだろうとすぐに観客の数は途絶えていった。
けれど、見てしまったのだ。


井伊さんがイーグレットを両方に持って、太刀川さんと戦っている姿を。



今自分が使っているツインスナイプは、井伊さんが最初に使っていたものだった。




「井伊さんほど、トリオンの使い方わかってる人はいないだろ」

「あぁ、勉強になる、あの人の狙撃は」



荒船さんと穂刈さんが言う。
そうだろう、そうだろう。
一番最初に弟子にしてくれと叫んだ佐鳥の行動を、最初こそいろんな人が何考えているんだという目で見られたものだった。
けれど、今の自分のツインスナイプという技は、井伊さんの教えがあったからこそだ。



「まぁ佐鳥のあの一生懸命さに雪が折れたって感じだったけどな」

「お前はすぐに、井伊さんのことになると張り合うな」

「うるせーしゃーねーべ」


荒船さんの呆れたような言葉に、当真さんが悪態をつく。
井伊さんにいち早く弟子入りしたのは佐鳥だと言われるけれど、そんなことはない。
いち早くあの人の才能に目をつけたのは東さんだし、いち早くあの人に惹かれたのは当真さんだ。

そんな佐鳥が、この人に勝てるところはない。

ずっと井伊さんの力を信じてずっと恋焦がれ続けていたこの人に。



「でも、佐鳥は井伊さんの一番弟子ですからね!!当真さんと違うところはあります!!」

「あ?佐鳥のくせに生意気だ」



当真さんがそう言って、また頭をぐりぐりと押すけれど、一番弟子という立ち位置は、譲る気はない。
井伊さんの隣に、同じ立ち位置で話せる当真さんが羨ましくないと言ったら嘘になるけれど、この立場はきっと、当真さんだって羨ましいはずだから。










「あれ、何してるの皆」

「狙撃手の会でもしてるのか?」

東さんと共に現れた井伊さんの隣に、当真さんが素早く移動をする。そんな彼の行動に皆苦笑を浮かべるけれど、仕方ない。井伊さんの隣はきっと、当真さんの居場所だから。

「ちょうど井伊さんの話してたんですよ」

「えー恥ずかしい」

「雪の狙撃の話になった」

「私なんかより勇とか奈良坂くんの方がすごいけどねー」

井伊さんの肩に腕を回して笑顔で話す当真さんが羨ましい。だけど、当真さんは知らないでしょ。井伊さんは弟子の佐鳥を見つけると、それはそれは優しい笑顔で話しかけるということに。





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