無意識の行動
いつもなら合同訓練があろうとなかろうと訓練場に行くことはない。
たまに気分でふらっと立ち寄ることはあるが、今日は珍しく行こうと思った。
その理由は簡単だ、雪がいるから。
「あれ、当真さん珍しいですね〜佐鳥のツインスナイプみますか?」
「見ねーよ」
訓練場に入れば、佐鳥がイーグレットを両手に1本ずつ持ちながら飄々とした態度でそこにいた。いくらか下にあるその頭をぐっぐっと押しこんでやると、不意に後ろから声をかけられる。
「あんたがここにいるのは珍しいな...」
「お前から話しかけんのも珍しいな、奈良坂」
自分の下のランキングに入る奈良坂。
いくらか眉をひそめてこちらを見上げる奈良坂にニヤリと笑って「たまには来てもいいだろ」といえば、人を小馬鹿にしたような笑みを見せて奈良坂は言い返した。
「どうせ、 井伊さんが来るから、っていう理由でしょう」
「まだ当真さん師匠の追っかけやってるんですか?」
「ウッセーよお前も違う隊なんだから自立しろ」
「それをあんたが言うな」
入り口付近で言い合いをしていれば、奥にいるC級やB級の連中がこちらをヒソヒソと話しながら伺っている。
あんたのせいで目立ったと奈良坂はつぶやくと自分の持ち場へと向かった。
「リーゼント先輩、今日いるの珍しいっすね〜」
佐鳥を引っ張って自分も場所を確保しようと奥へ行けば、この前に一度指導をしたC級の夏目が猫を抱きしめながら話しかけにきた。
隣には玉狛のチビちゃんもいる。ようと挨拶をすれば、こくりと首を縦に振ってこちらを見上げるチビちゃんをみていると、猫が自分の頭へと登ってきた。
「まぁな、今日は理由があんだよ」
「理由...?」
頭に疑問符を浮かべながら、首をかしげてこちらを見る後輩たちにはっはっはと笑ってイーグレットを構える。隣では佐鳥がツインスナイプツインスナイプうるさかったため頭をばしっと叩いてやると、タイミングの悪いことに丁度訓練上へと入ってきた雪が気付いて逆に頭を叩かれた。
「おいおい、猫いるんだぜ?」
「後輩の頭叩くほうが悪いでしょ、ったく」
「師匠〜!!」
「久しぶり、賢。広報活動頑張ってるみたいだね」
「おかげさまで!!師匠も研究の方大変だと聞いてますけど体調は崩れてないですか?」
「うーんぼちぼちかな〜」
俺のことをほっぽいて話を進める二人に拗ねて、俺は立ち上がり雪の後ろに回る。
そしてそのまま腕を伸ばしてガッチリと雪腰を固めれば、いつもの体制に落ち着き雪の頭に顎を置いて体をゆらりゆらりと揺らす。
「俺のこと放っとくなよ雪〜」
「勇とはいつも話してるでしょ。久しぶりの弟子との会話ぐらいさせなさいっての」
腰に回って俺の手に自分の手を重ねてトントンと叩きながら、俺を諌めるようにそう言う。それを見て、苦笑をこぼした佐鳥にあ?と睨めば、やめなさいと次はペシッと強く叩かれた。
「今度また練習みてくださいね、師匠」
「賢もう十分でしょ?聞いたよーツインスナイプで出水くんやっつけたとかなんとかって」
「そうなんですよー!!当真さんから聞いたんですか?」
「うん。教えてくれたよ」
以前あったあの戦いの話をしているのか。
雪が俺の手を撫でながら笑っているのがわかる。「当真さんは師匠になら何でも話すんですね」と言う佐鳥のセリフに、そうか?と問えば、雪があははと面白そうに笑う。
「勇は話したがりやさんだよ?」
その一言に、無性に自分の子供っぽさを露見されたようになって。
恥ずかしくてうるせーといえば、雪が背中に体重をかけて俺に寄りかかる形になった。
そして、後頭部を俺の胸元につけてグッと見上げる。その体制のまま、ニコッと笑った雪に、目の前に立っている佐鳥が一瞬顔を赤くしたのがわかった。
「はいはい、お前らそういうのは後でこっそりやろうな」
静かに聞こえたのは東さんの声だった。
手を合わせてパンパンと叩くと、俺たちを呆れたように見つめる。
「雪、お前もほら、持ち場について」
「はーい。勇、後でね」
「んー」
俺の手を解いて小さく手を振った雪は、奈良坂と日浦のいるところへと小走りで近づいていく。
少し寂しくなった両手を何度か開いたり閉じたりを繰り返していると、東さんに生暖かい視線で笑みを向けられた。
「ま、がんばれよ、当真」
何をとは言わない東さんに、大人というものを感じて。居心地の悪い感情を、頬を掻くことでごまかした。
未だに赤い顔のままの佐鳥を無理やり引っ張り俺も持ち場につけば、訓練が始まった。
仕方ない、今日ぐらいは真面目にやろうと思った。
「当真さん乙女〜」
「うるせーよ」
気づいたら的にはハートマークが書かれていた、なんて。
こちらをクスクスと笑っている雪の顔が、少し赤くなっているのは、錯覚じゃないといいなと思った。
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