02


わたしは至って平凡な社会人だった。コレと言った特徴もない、ごく普通の会社に勤める事務員。休日の過ごし方は家でのんびり。特別なにか秀でたことがあるわけじゃなくて、ただなんとなく毎日を過ごしていただけだったのに。

「(よりにもよって、何でハリーポッター?)」

どうせならもっと平和な世界がよかった、なんて考えたって仕方がない。よくわかんないけど、今のわたしにとってはここが現実なんだから。
ここで生きるしかないわたしは、図書室で借りてきた本を机において杖を握り締めた。

「インカーセラス っぎゃああ!」

呪文を唱えて縄が出てきたまではいいけど、何故かその縄はわたしに絡みついた。びっくりして杖を落としたうえに、足がもつれて机に頭をぶつけた。最悪だ…。
成功するなんて思ってなかったし、これどうしたらいいの。今まで20数年生きてきたけど(この身体は11年ちょっとしか生きてないと思うけど)自分の身体を縄で縛るなんて生まれてはじめての経験だ。

「だ、誰か助けてー…」

声を出してみたけど、呪文の練習をするために人気のなさそうなところを選んだ。つまりここを通る人なんてきっとほとんど居ない。もしこのまま誰も通らなかったら…わたし一生このままなの? えっ、やだな、困る。ていうか恥ずかしすぎる。何とかして誰かに気付いてもらわなきゃ。

「誰かーっ! 助けてくださあーい!」

必死に声を出すと、不意に扉が開いた。そこから覗いたグレーの瞳と視線が絡み合ったけど、思いっきり刻まれた眉間の皺を確認して、目を逸らされる前に慌てて叫んだ。

「待って待って、お願いします助けてください!」
「…ハァ」

ため息を吐いた彼がポケットから杖を取り出して一振りすると、わたしの身体に巻きついていた縄が消えた。おおー、すごい。

「ありがとうございます、すっごく助かりました。…ってちょっと、どこ行くんですか!」

お礼を言っている途中で彼は背を向けて歩き出すから、慌ててその手を掴んで引っ張る。何だこの人、男のくせにほっそいなあ。しぶしぶこちらを振り返った男の人の目は「面倒臭い」と語ってたけど、ネクタイの色を見てピンときた。彼はスリザリンの生徒だ。

「君が新入生でまだこの学校のことを知らず、さらにマグル出身で魔法界のことも知らないだろうから今回だけ特別に教えてあげようか。僕はスリザリンで、君はグリフィンドールだ」
「もちろん見てわかりますよ。スリザリンとグリフィンドールはいがみあってるし、そもそもマグル出身はスリザリンから親の敵かってくらい憎まれてる。それくらいちゃあんとわかってますよ〜」
「なら話は早いな」
「でも」

わたしはつい先日まで平和な日本で「いじめはいけない」「差別はよくない」って教えられて生きてきた平成原人だ。それがいきなり「純血主義」とか「マグル生まれは穢れた血」とか時代錯誤もいいとこな主張を聞いても、正直「だからなんだ?」ってなるわけで。つまりどういうことかというと、

「理解はできてません! だから、わたしに魔法を教えてください!」
「…はぁ?」

わたしの言葉に思いっきり顔を歪ませた彼を、わたしは一生忘れないんだと思う。

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