「ジェリーさーん!私今日のお昼はカボチャのシチューがいいー!」
「アラん?ごめんなさいナマエー。カボチャさっき神田の天ぷらに使っちゃったので最後だったのよー」
「なっ、」


なんだって――――――?


今日はものすごいカボチャな気分だったからウキウキな気分で食堂に来て頼んでみればなんと撃沈。
しかもよりによって神田の天ぷらで最後なんて。

「じゃ、じゃぁオムライスで……」とおもいっきり肩を落としてたらジェリーさんが「まぁまぁこんな日もあるわよ!」と言ってサービスでデザートにわらび餅を付けてくれたのだった。しかも黒蜜たっぷりで!
それはそれで凄く嬉しいんだけども、


「(やっぱカボチャのシチュー食べたかったなぁー)」


オムライスとわらび餅が乗ったお盆を持ちながらキョロキョロ見回して空いてる席を探す。
うん、やっぱお昼時だけあってたくさん人が集まってるから中々空いてる席がない。

チラホラ空いてるみたいだけど、どうせすぐ埋まるだろうしなぁなんて考えていたら、そんな中一角だけ一人でポツンと席に座り、その周りには誰もいないテーブルがあった。

その一人というのは静かにズルズル蕎麦をすすってる今一番会いたくない奴。

私のカボチャを横取りした(言いがかりだってわかってるけど)憎き神田が!このごちゃごちゃした食堂でただ一人だけ悠々と静かに蕎麦をすすってる!

そしたらだんだん怒りが沸いてきてズンズンと足を進めて神田の目の前に座ってやった。
チラと視線を向けてみたが、まるで私がいないかのように見向きもせずに蕎麦を食べ続けている。くそう腹立つなぁ!


「(あ、でもまだカボチャの天ぷら残ってる)」


カボチャの他にも獅子唐とレンコンなんかの天ぷらも残ってるようだった。

ていうかそれだけ具材あるならカボチャ私に譲ってよ!

ジーと見られてたらさすがに無視もできないのか「おい」と声をかけられた。


「何見てやがんだ」
「べっつにー。ただカボチャの天ぷら美味しそうだなぁーって思って見てただけー」


って何を素直にペラペラ喋ってるんだろう私は。そこは「別に何も?」くらいに言っとけばいいものを……!


「はぁ。人の飯横取りしよーってか?随分意地悪い女だな」
「ちょっ、意地悪いってなに見てただけなのに!」


「ていうかなんだ今のため息!」と付け足せば「うるせェ黙って飯食ってろ」としか返って来なかった。言葉のキャッチボールができてない!

しかし神田はもう何も言うことがないようでまた蕎麦をすすり始めたから私も「むぅ」と口を尖らせてからスプーンでオムライスをすくって口に運ぶ。

カボチャのシチューが食べたかったけど、このトロトロの卵とデミグラスソースに舌鼓を打つ。あぁジェリーさんの作るご飯は何でも美味しい……。

パクパクとスプーンを進めていたとき、「神田ぁー」とこっちに近づいてきたジョニーによって神田の蕎麦をすする手が止まった。そして意識は完全にジョニーに向く。

話を聞いていれば、ついこないだの任務の報告を真面目にやれということだった。


「あぁ?ハズレだったんだから別にいいだろーが」
「それでも困るんだよー。ちゃんとしてもらわないと俺ら資料作れないんだって!」
「俺が知るか」


「頼むよー!」「うるせェ!」と騒ぐ二人。私は完全に蚊帳の外。そして神田の意識は天ぷらから反らされている。

ジッと神田とジョニーの会話を聞いて見ていたけど、視線をカボチャの天ぷら一点に集中する。
うん。美味しそう。何より大き目にカボチャが切ってあってずるい。

持ってるスプーンを天ぷらの乗ったお皿まで伸ばして大きいカボチャの天ぷらをヒョイッとすくえば簡単に乗っかってくれのでそのままスプーンを口まで持ってきて天ぷらにかじりつく。


「(ふぉっ!美味しい!)」


ほくほくのカボチャと天ぷらの衣が口の中に広がって思わず顔がニヤけてしまう。

黙ってカボチャの天ぷらを食べて、何事もなかったかのようにまたオムライスを食べ始めたとき、ようやく神田とジョニーのうるさい会話が終わったらしい。

「やばい気付かれるかな」と思って少しずつ神田との距離を空けていったのだけども、「ナマエ






「(ヤバイ)」
「お前………、俺の天ぷら勝手に食ったな
「な、なんのことかわかんな」


「わかんない」と言おうとしたらゴッ!という音と頭に響いた衝撃のせいで言えなかった。


イッタァ!
意地悪いマネしてんじゃねェよこのバカ!


手をグーにしたままわざわざ立ち上がってお説教を開始する神田。
私はと言えば頭を押さえて若干涙を目に溜めながら聞くことになる。ちょっと真面目に頭痛い。


「人の食い物に手ェ出すなって習ってこなかったのかテメェは」
「だ、だってカボチャ美味しそうだったんだもん……………」


付け加えて「それに今日もうカボチャないって言われたから余計に」と言えば「理由になってねェ」とすぐ突っ返された。
じゃぁ他に何と言えば……。

神田のすぐ近くにいるジョニーは説教を始めた神田をポカンと見つめ、食堂にいる人たちも最初は「なんだなんだ」と騒いでいたけど
すぐに「あ、いつもの奴等か」みたいな顔をしてご飯に意識を戻していた。

いつまでも座る様子がない神田をチラと見て「あぁこれは説教長くなりそうだ」なんて他人事みたいに思っていれば、
黙っていたジョニーが「まぁまぁ天ぷらはまだあるよ?」と仲裁に入ってくれた。が、


黙ってろ


の人睨みでジョニーは本当に黙ってしまった。おいおいおいもうちょっと頑張ってよ!

そしてジョニーを睨んでいた視線が再び私のところに戻ってきてしまった。(ひぃ怖っ!)


「何か言い残したいことあるかナマエ」


腰に帯刀している六幻を鞘から抜き出そうとしている神田。え、え?なに何されんの私今から切腹切腹なの?


「(天ぷら一つもらっただけなのに!)」
「日本じゃ人のモンに手ェ出した奴は死に値すんだぜ」
どこ情報!?


「ここイギリス!日本じゃない!」と抗議の声を上げれば「うるせェ」と再び頭に落ちるグーという名の制裁。(イタい!)

しかし六幻による切腹はなくなったので安心あんしん。……っじゃなくて同じエクソシストに対して切腹ってどうなのねぇ?

頭をさすっていれば痛さに思わず「うぅ……」と声が零れる。

いつの間にか隣に来ていたジョニーに耳元でこそっと「一言謝れば神田も許してくれるんじゃない?」と言われた。
あ、そう言えば私謝ってなかったかも。

ジョニーに「うん」と頷いてから「神田、」と声をかけようとしたけど「はぁぁ」と深くため息をついた神田が
ドカッと椅子に座り箸を手に取ったと思えば私の方へそれは伸びてきた。

そして、


あぁぁぁぁあ私のわらび餅!


ひょいと神田の箸に攫われていくわらび餅たちに気付いたときにはもう口の中へと消えて行く頃だった。

見事にお皿の上からなくなり、残っているのは少しの黄粉と黒蜜だけ。

わらび餅を飲み込みすぐにお茶を飲み始めた神田を睨みつける。「ちょっと!」


「私のわらび餅なんで攫ったのなんで取ったの!食べ物の恨みは怖いんだぞ神田ァ!
お前がそれ言うのか


お茶を一気飲みし若干頬に汗をかいた神田にそう言われて「そっ、それは……」と目が泳いだ。


「で、でもこれでお相子だよね!?神田だって私の大切なわらび餅食べたんだから!」
「あぁもうそれでいいから黙れうるせェ」


残っていた蕎麦と天ぷらをかきこむように食べ、終わるとすぐさま席を立ち去って行った神田。

残された私は立ちっぱなしのジョニーに「神田って意外と子供だよね!」と言って同意を求めたつもりだったのだけど、
「いやナマエもね」と返された。そんなことわかってるわ!


「あれでも神田って、」
「どうしたのジョニー」
「あぁいや、なんでもないよ。俺もう戻るね」
「あ、うん」


「(神田って甘い物苦手じゃなかったかな……………?)」


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