「任務だ」と言われたために、久々のジェリーさんの美味しいご飯をゆっくり食べることも止む無く慌ててかき込み指令室に来たのだけども。
「ぐー――――――」
「…………。」
指令を出してくれるはずの教団最高室長は目の前で仮眠から目を覚まさない(ていうか最早熟睡だろ!)、
一緒に任務に行くエクソシストも見当たらない、私を呼び出したリーバーさんもリナをつれて出て行った。
せめて今回の任務の内容でも確認させてくれれば良いものを、それも全員が集まるまで待ってなきゃいけないらしくソファに座っているだけでは退屈で仕方がない。
「ねぇジョニー、今回の任務って私の他に誰が行くの?」
「んー、俺も詳しいこと聞いてないんだよね」
「ごめん」とジョニーに言わせてしまい、「う、ううん!こちらこそ急に聞いてごめんね!」と謝っていたら指令室の扉が開く音がした。
見れば先頭にリーバーさん、リナ、その後ろに神田とアレンの姿が目に入り神田がいることで今回の任務も神田と一緒なのだと即座に理解した。
「ゲッ」っていう顔をしたのが見られてしまったのか「こっちの台詞だふざけんな」という表情に歪む神田の顔。
そのまま言葉にして返してやりたい。
「なんだぁ?室長まだ起きてなかったのか」
「声かけてみたんですけど、ぜんぜん聞こえてないみたいで…………、」
リーバーさんが出てったあと、何度かコムイさんを起こしてみようと試みたけどまったく反応してくれなかった。
でも仕事で疲れてるだろうし皆が来るまで寝かせていてもいいかと思い起こすのは諦めた。
「ま、ナマエの声で起きてくれるならこれまで苦労してないからな。気にするな」と私の頭をポンと優しく叩くと、
リーバーさんは机に突っ伏しているコムイさんのもとへ行き、「コムイ室長!」と揺すったり思いっきり殴ったりしていやいやいや殴ってる相手上司だよね!?
しかしそれでも起きる様子はない。リーバーさんはため息を一つつくとコムイさんの耳もとに顔を近づけていた。
「リナリーちゃんが結婚するってさ―――」
「リナリィィ――――!!!」
「お兄ちゃんに黙って結婚だなんてヒドイよぉ――!」
今まで熟睡してたとは思えない速さでリナの腰へと縋りついて「ヒドイよひどいよ酷いよ」と連呼し泣き叫ぶ我らが室長コムイさん。
「悪いなこのネタでしか起きねェんだこの人」と説明されている神田とアレンが本気で引いている。この起こされ方を見るのは初めてじゃない私だってドン引きだ。
「いやーごめんね、徹夜明けだったもんで」
「オレもっスけど!」
あまりにもうるさかったのか、リナからの拳骨をもらい頭に大きな絆創膏を貼っているコムイさんが「時間がないので粗筋を聞いたらすぐ出発して」と言う。
指令室に来てようやく今回の任務の内容の書かれた冊子をリナから手渡される。
「詳しい内容は行きながら読むように」と言われた瞬間、私を間に挟み座っていた神田とアレンが「はっ、」と顔を見合わせていた。
「三人で行ってもらうよ」という言葉で確信に変わり思い切り嫌そうな顔をする二人。
それを見て「え、なにナニ?もう仲悪くなったのキミら?」と何故か楽しそうに言うコムイさん。その原因が自分のせいとか気付いてないんだろうなぁ。
「南イタリアで発見されたイノセンスがアクマに奪われるかもしれない。早急に敵を破壊しイノセンスを保護してくれ」
「「………………。」」
私のが先に来てたのに無理矢理ソファの真ん中に座らせたんだから挟んでまで睨み合うのやめろよ!
「ちょっとひとつわかんないことがあるんですけど……」
「それより今は汽車だ!」
駅ホームの屋根から足を踏み出し鉄骨に手を伸ばす。これからスピードを上げ走って来る汽車に飛び乗るためだ。「もうこれイヤ……」「黙って走れ」
「お急ぎください」と探索部隊が言うと、ちょうどよく汽車がホームから飛び出してくる。
「これに乗るんですか!?」と大いに驚いているアレン。そうだよねそれが普通の反応だよね!
探索部隊の合図で鉄骨から手を放す。おかげで見事私たちは猛スピードで走り始めたばかりの汽車に華麗に飛び乗ることが――、
「ぉぉお!?」
「ッあぶない!!!」
できなかった。
上手く両足を着けたと思ったのに何故かよろけ、私の身体は汽車の上から放り投げられるように傾いていく。
咄嗟にアレンが腕を掴んでくれてそのまま倒れたため汽車から放り投げられることは避けられた。(た、助かった……)
「大丈夫ですか!?」
「あ、ありがとアレン…………、」
「今度はさすがにダメかと思った」と口から零せば「ナマエに怪我がなくて何よりです」と言ってくれるアレン。どっかの誰かと違って優しいな!
「もしかして、いつもこうなんですか?」
「うん。大抵は飛び乗り乗車かな……」
ていうか、そもそもホームから普通に汽車に乗れば何も問題ないじゃん!そりゃアクマが出て騒ぎが大きくなったり被害が出たりするのは問題かと思うけど。
「困りますお客様!」と屋根から侵入する私たちを見て心底困った顔をしているボーイさんを見てつくづくそう思った。何より飛び乗り失敗する度に神田が怒鳴って来るし。
「コムイさんに相談してみようかな」なんて思ってるうち、教団の権限で用意された豪華なコンパートメントに通される。
今回の任務の同行する探索部隊、トマが入口の傍に立ったままだから「入らないの?」と聞けば「私はここで構いません」と返される。
ここからマテールまで距離あるし「でも、」と渋ってたら「本人の好きにさせとけ」と神田に言われ大人しくトマを残してドアを閉めた。
「………で、さっきの質問なんですけど、」
「何でこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」と質問するアレン。
座す位置は神田と私が並んでいて、その向かいにアレンがいる。
おそらくアレンは神田に聞いているんだろうけど、聞かれる本人は面倒くさそうにしているだけで答える気がまったくないらしい。答えてあげればいいじゃんそれくらい!
「答えてあげなよ神田……、」とジト目で見つめていると、私の視線が鬱陶しくなってきたのか説明してくれる気にはなったらしい。
「チッ」
「「(今舌打ちした…………、)」」
「イノセンスってのはだな…………、」
「大洪水(ノア)から現代までの間に様々な”状態”に変化しているケースが多いんだ」
初めは地下海底に沈んでいたものの、その結晶の不思議な力に導かれ人間に発見され色んな姿に形を変えて存在してることがある。
そしてそれは、必ず奇怪現象を起こす。何故かはわからないが。神田はそう言った。
アレンは「じゃぁこの”マテールの亡霊”はイノセンスが関係かもしれないってこと?」と言い神田も頷いている。
奇怪のある場所にイノセンスあり。だから教団はそういった場所を虱潰しに調べ可能性が高いと判断すると私たちエクソシストを任務に向かわせるのだ。
でも、イノセンスが奇怪現象を起こしてるなら今回の亡霊は一体何なんだ。
そう思い冊子に目を通していくと気になる文章を見つける。どうやら神田もアレンも同じところに気付いたようで「これは……、」と呟くのが聞こえる。「―――そうでございます」
「トマも今回の調査の一員でしたのでこの目で見ております」
――――――マテールの亡霊の正体は…………、
「マテールの亡霊が、ただの人形だなんて…………」
汽車が止まった途端、とにかくひたすら目的地マテールに向かって走った。
その途中アレンがマテールの亡霊のことを呟くのが聞こえ、それに反応したのは神田だった。
岩と乾燥の中で劣悪な生活をしていたマテールは「神に見離された地」と呼ばれていた。
絶望に生きる民たちはそれを忘れるため人形を造ったのである。踊りを舞い、歌を奏でる快楽人形を。
だが結局、人々は人形に飽き外の世界へ移住。置いていかれた人形はそれでもなお動き続けた。
五百年経った今でも――――。
「イノセンスを使って造られたならありえない話じゃない」そう神田が言うのと同時に、ゾクッと強く感じた何かの気配。
闇夜の下崖から望み見る廃れた街並みは足を竦ませるには十分なほど、不気味だ。
「………探索部隊のみんなは、」
「トマの無線が通じなかったんで急いでみたが…………、」
「殺られたな」という言葉に、思わずギュッと下唇を噛んでいると「おいお前、」と神田が言うのが聞こえた。
視線を向けたが、神田が声をかけたのは私ではなくアレンにだったらしい。
「始まる前に言っとく。お前が敵に殺されそうになっても任務遂行の邪魔だと判断したら俺はお前を見殺しにするぜ」
「戦争に犠牲は当然だからな。変な仲間意識は持つなよ」それはアレンに向けて言ったものなんだろうが、何故か、改めて私にも忠告されたような気がした。
「俺は新人だろーがなんだろーが足手纏いとわかった瞬間からお前を切り捨てる」
「俺はお前に、人助けをするために戦う術を教えてんじゃねぇんだよ」
――――――お前が生き残るための術を教えてんだ。
ドンッと大きな爆発が起こると、アレンは私が止めるのも聞かずに飛び出して行ってしまう。
任務なんだし、勝手な行動は正直困るのだけども、「でも――、」
「(アレンは、私にはできないことをやってくれる)」
そんな気がして、追いかけて無理矢理にでも彼を止めるという手段には移せなかった。
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