「(おかしいなあ……――)」
――ツナたちが営むチョコバナナ屋をあとにし数時間。
かき氷にたこ焼きに舌鼓をうっている中で甚兵衛に身を包んだリボーンから絶好の花火スポットを教えてもらい時間になったら来るといいと言われたのもつかの間。
喉が渇いたのでラムネを買おうという話になったところで財布がなくなっていることに気づいた香夏子。
京子とハルも一緒に探すと言ってくれたのだが、そろそろ花火が始まるしリボーンを待たせているかもしれないからと先に行っててもらうことにしたのだ。
「(最後にお金使ったのたこ焼き屋だったし落ちてるならこの変だと思うんだけど……)」
すでに誰かに拾われているのだろうか。
親切な人間ならば落とし物として届けてくれているであろうが、そうでない場合持っていかれてるかもという最悪な考えが過ぎる。
万一後者でも、無駄遣いをしないために普段使っている財布とは別なものでお小遣い程度の金額しか入っていないからそこまで痛手ではないのだが。
「(いやでもお金はお金だし)」
届けられてなかったら諦めて戻ろうと決めたとき。
「――……お!財布落ちてんじゃん!」
「マジ?いくら入ってんの?」
後方から聞こえた会話の内容に「もしかして……」と振り向いみる。
高校生くらいであろう二人の片割れの手にあるものが目に入り「あ、」と声が出る。
「その小銭入れ――――」
「あぁ――?あ、これ君の?」
「は、はい……」
「すみません、探してたんです……」と男子の手にある小銭入れを返してもらうよう控えめに手を差し出したのだが――。
「……――返してあげるのはぜんぜんいいんだけどさ、もちろんお礼はしてくれるんだよね?」
ニヤニヤと気味悪く笑うばかりで小銭入れを渡してくれる様子はなく、いつかの海でのライフセイバーの先輩たちとのやり取りを思い出してしまう。
「お、お礼……ですか」
「そりゃそうでしょ!大事なお財布拾ってあげた人間にただありがとうで済ませる気だったわけ?」
「世の中そんな甘くないよ?」
「ってなわけで――――」
手首を力強く掴まれてしまい思わず顔が歪むものの、お構いなしに香夏子の身体を引き寄せようとしている相手。
「俺らとデートしてよ」
「ちょっ、こまります……!」
「えー?ぜんぜん力入ってないじゃん!本当に嫌がってる?」
「(精一杯嫌がってるよ!)」
身体の密着を阻止しようと腕に力を籠めるものの相手は男子。
ついには腰にまで手をまわされ夏だと言うのに香夏子の身体に悪寒が走った。
こんなことになるなら小銭入れなんて諦めれば良かった……!と目に涙が浮かび始めたとき――。
「――――……これはなんの群れ?」
ふいに聞こえてきた声に香夏子はもちろん男子二人も振り返る。
背後にいたのは、夏祭りには不釣り合いな夏用学生服をまとった少年で切れ長の目でこちらを見つめながら「なんの群れなの?」と再び問うていた。
「(この人は…………)」
黒髪に切れ長の目、学生服にばかり気を取られていたが、腕章に書かれた”風紀委員”の文字――。
「は?誰だこいつ?」
「なんで制服なんか着てんだ?てか邪魔すん――」
「僕は群れる小動物が嫌いなんだ。だから君たちを……――
――――噛み殺す」
「(な、並中風紀委員長さん――――!)」
群れを嫌い、集団で行動する者たちを”風紀委員”の名のもとに粛清――という名のリンチ――している並中の風紀委員長にして不良のトップ。
その傍若無人っぷりに生徒だけでなく先生方、ましてや地元最凶と皆が恐れている人物。
どこから出したのかわからない鈍く光る銀色の得物――トンファーが男子二人に襲い掛かり、抵抗する間もなくノックアウトされた二人。
茫然と見ていた香夏子だったが、切れ長の目の少年――雲雀恭弥がくるりとこちらを振り向いたことで背筋がピンと伸びる。
どんな理由であろうと雲雀から見れば香夏子も群れる草食動物の一人なのだ。地面に転がっている二人と同じように粛清されることだろう。
雲雀が一歩香夏子へと近づくのと同時に瞼をギュッと強く閉じる。
トンファーで殴られたことないけどきっと痛いんだろうな――!と襲ってくる痛みを覚悟していたのだが。
「――…………これ、君の?」
「へ……――、」
雲雀の声に瞼を上げれば手にあるのは香夏子が落としてしまった小銭入れ。
男子が地面に沈んだ際に落としたのを拾ってくれたのだと気付き慌てて「そ、そうです!」と答えると「はい」と香夏子の手のひらにそれを落としてくれた。
「あ、ありがとう、ございます」
「そ、それじゃ、私はこれで……」とおそるおそる雲雀のもとから立ち去ろうとしていたとき。
「――……お、いたいた!香夏子ー!!」
後方から聞こえてきた自分を呼ぶ声に思い切り振り向くと、山本が走って近づいてくるのが視界に入る。
距離が近づくにつれ全身傷だらけの姿に「え、なんで?」と疑問しか浮かばない。
「雲雀も一緒だったんだな!……なんでこいつら地面なんかで寝てんだ?」
「そ、それは…………」
「雲雀さんが粛清したからです」とは本人の前ではとても言いづらく、では何と説明しようかと視線を泳がせていると。
「彼女は君の知り合い?」
てっきり、山本が来たことによって「僕の前で群れるな」と再び風紀委員長による粛清が始まるかと思いきや「彼女と知り合い?」と問うてきた雲雀。
「そうだぜ」と答える山本に「ふーん……」と興味なさげに呟いたと思えばくるりと踵を返してしまう。
「――…………夏は浮かれた連中が多いからね。次からは用心した方がいいよ」
「今日のところは気分がいいから見逃してあげるよ」とスタスタ歩いていき、ついには雲雀の後ろ姿が見えなくなったところで山本が口を開いた。
「何かあったのか?」
「じ、実は……この人たちに絡まれて――」
……よくよく考えてみれば、この人たちも香夏子に絡んでしまったばかりに災難な目にあったのだなと嫌な思いはしたが、
いまだ地面に転がっている二人にそっと憐みの視線を向けておいた。
「絡まれた――――?」
「う、うん」
山本の声が低くなったような気がして顔を見ると、表情は変わらないもののまとう雰囲気が少しピリついているように感じた香夏子。
「雲雀さんが助けてくれたから」と続ければ「そういうことか!」と納得したようだったがやはりどこか違和感を覚える。……気のせいだろうか。
香夏子の帰りが遅いと京子とハルが心配しているから山本が迎えに来たこと、皆が花火の隠れスポットで待っていることを告げられ境内の裏に向かう道中。
「ところで武君はなんでそんなボロボロなの……?」
「さっきまでツナたちと一緒に喧嘩しててさ」
「け、喧嘩!?」
「しかもツナ君たちと!?」と驚く香夏子に「雲雀も一緒だったんだぜ!」と続ける山本。
確かに雲雀さんも少しボロボロだったかも……と、思い出しつつ何故喧嘩をするに至ったのかを問い、理由を聞いて納得する。
「た、大変だったんだね……。お疲れ様です」
「ははっ、まーな!」
「あ、武君頬から血が…………」
「ん?あぁ、大したことねーって」
とは言っているが、ゴシッと力強く頬をこすった山本が「イテ――ッ」と痛みに顔を歪めていた。
言わんこっちゃないな――と香夏子は巾着を探り目当てのものを取り出し「はい」と指し出した。
「絆創膏。自分で貼れ……ないよね」
「少しかがんでもらっていい?」と顔を近づけてもらうよう促しぱっくり切れてしまっている頬の傷口に絆創膏を張り付けた。
「帰ったらちゃんと消毒しようね」
絆創膏を貼ったことによって頬に不快感を感じるのかさすさすと傷口を撫でている山本に少しの間我慢してもらうよう伝えれば「おう!」と気持ちの良い返事が返される。
「……香夏子が手当してくれるんだよな?」
「え?う、うん」
先ほどまで感じていた山本への違和感は、どこかへ消えていた。
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