「水筒持ってきてたくせにわざわざ飲み物買いに行った人がなんで手ぶらで帰ってきてんの?」
――というみっちゃんからの圧に加えて黒川花からの「山本には会えた?」といった質問により、香夏子が飲み物を買いに行くと偽って
実は山本に会いに行っていたことがバレてしまった昼休み。
何故嘘をついたんだと問われたものの「武君の分のお弁当と取り違えちゃって……。交換しに行ってましたテヘッ!」なんてことを教室で口に出せるわけもないので
山本に用事があったが昼休みに一人で会いに行くとなれば告白だのと勘違いされる可能性があるから敢えて言わなかったのだと説明をする。
「本当かおい」と疑いの眼差しをみっちゃんから向けられるがあながち嘘でもないため「本当だってば!」と強く返したところで昼休み終了の鐘が鳴った。
「――――……というわけで、選択授業で家庭科を取っている生徒は先生の都合で自習になりました」
本日の午後の授業は選択授業。
家庭科室にてエプロンをつけ授業が開始されるのを待っていたものの、やって来た家庭科とまったく関係のない教師からそう言われ「えー」という不満の声が室内に広がった。
声こそ上げなかったものの、香夏子も家庭科の実習授業は楽しみにしていたので自習だけで終わりというのは確かに不満に思った。
家庭科室から教師が出て行ってすぐに誰かが「そう言えば今日数学の宿題出されてたじゃん」と言えば「じゃあ今やろっか」と別な誰かが続け
この場にいる皆が数学の教材を取りに去った中ポツンと残された香夏子と京子。
「皆行っちゃったね」
「ね……。京子ちゃんはこの時間何するの?」
「うーん……。私は図書室で料理の本でも借りて来ようかなーって。香夏子ちゃんは?」
「私もそうしようかな」
「じゃぁ一緒に行こう!」
京子の誘いを素直に受け誰もいなくなった家庭科室を後にする。
図書室に簡単なケーキを作れるレシピが入荷したらしいと嬉しそうに話す京子とまだ誰も借りてなければいいねなどと会話をしながら廊下を歩いていたのだが、
京子に用事があるという先輩に呼び止められてしまい「じゃぁ図書室で待ってるね」と香夏子は一人で図書室に向かうことに。
授業中ということもあってか静かな廊下を一人で歩いていると――。
「ちゃおっす!」
突如聞こえた舌足らずで独特な挨拶。
キョロキョロと辺りを見渡していると足元の方から「ここだぞ」と聞こえ視線を下に向けてみれば黒のスーツをばっちり着こなした赤ん坊が立っていた。
校内に何故赤ん坊が……?生徒の身内でわざわざ会いにきたとかだろうか?などの考えを脳内で廻らせている途中「お前が香夏子だな?」と問われる。
見知らぬ赤ん坊に名を呼ばれ先ほどまで考えていたことは綺麗さっぱりどこかへ消え去り「なんで私の名前知ってるんだろう」という疑問が浮かぶも一先ず視線を合わせるようにしゃがみこむ。
「こ、こんにちは。もしかしてお兄ちゃんかお姉ちゃん探しに来たのかな……?」
「違ぇぞ。俺はお前に会いに来たんだ」
もしかしたらこのスーツの赤ん坊は香夏子の友人の弟で、だから香夏子の名前を知ってるのだと思ったがそうではないらしい。
しかも香夏子に会いに来たと言っている。
一体この赤ん坊はどこの誰で何故自分のことを知っているのだろうと首を傾げたとき。
「あ、リボーン!お前まだ帰ってなかったのか!」
バタバタと慌ただしく近づいてきたのは昼休みに少し会話をしたばかりのツナだった。
赤ん坊を「リボーン」と呼んでいたように聞こえたが知り合いなのだろうか。
「この子ツナ君の弟?」
「ちっ違うんだ!リボーンは、えっと……」
「俺はツナの家庭教師で最強の殺し屋だぞ」
「だから外でそういうこと言うなって!」
「香夏子ちゃん困ってるだろ!?」と続けるツナに「本当のことなんだからしょうがねーだろ」と言うリボーンという名らしい赤ん坊。
こんな小さな赤ん坊がツナの家庭教師だというのも信じ難い上に殺し屋などと物騒な単語に困惑せざるを得ないのは確かだ。
ツナの焦りようから小さい子特有の「何々ごっこ」に付き合ってあげているという様子でもなく、もしかしたらリボーンの言っていることは全部本当のことなのかもしれない。
だとしたら家庭教師で最強の殺し屋である赤ん坊が香夏子に一体何の用事があって声をかけられたのだろうか。
「香夏子。お前ボンゴレファミリーに入れ」
「ぼ、ぼんご…………?」
「お前香夏子ちゃんにまで何言ってんだよ!?」
「うるせーぞツナ。俺は今香夏子と話してんだ」
ふいにリボーンから告げられた「ボンゴレファミリーに入れ」という言葉。
すかさず「いやボンゴレファミリーって?」と疑問が浮かぶがそれを遮るかのようなツナの叫びにも近い怒鳴り声。
しかしそんなツナの怒鳴り声など痛くも痒くもないのか聞く耳持たない様子で再び「ボンゴレに入れ」と言われる。
「ボンゴレはイタリアでは有名なマフィアのファミリーでツナはその十代目のボスなんだ」
「いや俺ボスになるなんて一言も言ってないから!こいつが勝手に言ってるだけで――」
「ちなみに獄寺と京子の兄と……、あと山本もファミリーの一員だぞ」
ボンゴレファミリーについて説明してもらう中で実は身近な人物が一員なのだと教えてもらい、獄寺がツナに対する異常なまでの腰の低さと慕う理由がわかり
「あ、だから獄寺君ツナ君のこと十代目って呼んでるんだ」と納得してしまう。
その上山本までもがマフィアだったとは……。だからこそツナと獄寺と仲が良いのかとそれにも納得しつつ、山本がマフィアの一員であることを剛は知ってるのか……?
山本の心配もあるが、イタリアで有名なマフィアに何故香夏子が誘われているのかが理解できない。
獄寺はあの見た目だしおそらくケンカも強いのだろう。山本も野球部でエースと言われているだけあって運動神経もいい。
京子の兄とは面識はほとんどないものの確かボクシング部の主将だった気がする。
「な、なんで私なの?」
「そ、そうだよなんで香夏子ちゃんなんだよ!?」
「別に適当に誘ったわけじゃねーぞ。香夏子に声をかけたのにはちゃんと理由があるんだ」
「理由……?」
香夏子の名前を知っていた時点で偶然ここに居合わせたからなどでスカウトされたわけではないとは思っていたが、ではリボーンの言う”理由”とは何なのだろうか。
円らでくりくりとした目でジッと香夏子を見つめながら「その理由はな、」と口をゆっくり開いたリボーン。
「……――――サンドイッチが美味しかったからだぞ」
「へ?」
「はぁ!?」
「グルメの俺が料理を褒めるなんて中々ないから喜んでいいぞ香夏子」
「あ、ありがとう……?」
「なんで上から目線なんだよしかもぜんぜん理由になってないじゃん!」
「というかお前山本の弁当奪ったな!?」と言うツナに「人聞きが悪いぞ。山本が半分くれたんだ」とリボーンは返す。
サンドイッチを褒めてもらえたことは素直に嬉しいが、まさかスカウトの理由が料理上手だからだとは思わず正直拍子抜けしてしまう。
ツナが言う通り、香夏子がマフィアの一員に誘われたことへの理由にはなっていない気がするのだが。
「料理が上手な人を探してるなら、別に私じゃなくてもいいんじゃないかなって思うんだけど……」
「それだけじゃねーぞ」
「お前が”辻本香夏子”だからファミリーに誘ってるんだ」
香夏子が香夏子だからボンゴレファミリーに入らないかと誘われている。
理由になっているようでまったくなっていないリボーンの言葉はますます香夏子を混乱させた。
しかしリボーンはそれ以上話す気はないらしく、料理上手というのは女の最大の武器だから誇っていいなどとよくわからないことを言って話を逸らしていた。
長いこと話し込んでしまい京子の方が早く図書室に着いているかもしれないことに気づき、とりあえずマフィアの一員になる話は保留でもいいかと了承を得てその場をあとにする香夏子。
「おいリボーン!なんで香夏子ちゃんまで巻き込もうとするんだよアレ絶対反応に困ってたって!」
「どーしよう今度から俺変な目で見られるじゃんか――!」と頭を抱えるツナ。
そんなツナを「お前が変な目で見られるなんて今に始まったことじゃねーけどな」とリボーンは人蹴りする。
「それにな、香夏子がボンゴレに……マフィアに関わるのは避けて通れないことなんだ」
「なんだよそれ」
リボーンの言葉にツナは「どういう意味?」と首を傾げるが返事はない。
「マフィアと香夏子ちゃんが何の関係があるんだよ!」
「…………。」
「無視するなよ!」
そう声を上げたところでリボーンは口を開く気はないらしく、くるりと踵を返してどこかへ歩いて行ってしまう。
「なんなんだよ意味深な言葉だけ言って……」というツナの呟きを拾ったリボーンは「仕方ねぇんだ……」と声を零したのだった。
「アイツの母親が何も話してねーなら、”その時”が来るまで俺が話していいことじゃねーからな」
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