「ごめんね、買い物着き合わせちゃって……」
「別にいいって。俺も夕飯食べるんだし」


「気にすんな!」と明るくいつもの調子で言いながら、山本は買ったばかりの食材が入っている袋の中身を確認していた。


「今日カレーだろ?トマト缶何に使うんだ?」
「ううん。ハッシュドビーフにしようかと思って。余ったら明日オムライスにしてその上にかけようかなぁと」


今日はトマト缶が安くなっていたので手に取ってしまい、トマトパスタにしようかと考えてみるも明日の分のことも考えたときに多めに作れるものが良いのではと思いついた次第だ。


「(って言っても手抜きと思われてるだろうな……)」


この間は実質豚カツが続き……と言うより香夏子が作るものは大体が二日目までを考えた献立だ。
香夏子だって毎日夕飯の買い出しに出るのは避けたい。居候の分際で大変図々しいと言われてもだ。

おかずが二日続くのは経済的に悪いことではないというのが作る側の主張ではあるものの、やはり家主やそのご子息に不満があるならばそれもまた聞き入れなければいけないわけで――。
など色々考えている香夏子の隣が静かなことに気づく。


「あの、もしかしてハッシュドビーフ嫌だった……?」
「うん?嫌じゃねぇよ?ただ――、」


「香夏子って本当家庭的だよなって思ってただけ」


急に黙り込んだためハッシュドビーフに不満があるのかと思いきや誉め言葉という不意打ちに思わず顔が赤くなる。


「いや……、その、恐縮です……」
「ははっ。なんだそれ」


顔は火照り声も上ずってしまっている香夏子を気にすることなく「今日も夕飯楽しみだな」と竹寿司に向けて足を進めていく山本。
その背を見つめながら「く、口説き文句か今のは……!?」と言葉を零してみたがあの山本にそんな気がないことはここ数日で理解しているため照れているのは恐らく自分だけなのだろうと思う香夏子だった。




……――――翌朝。


「おはようございまーす……」
「「「――――!!」」」


教室の扉をガラリと開け控えめに声を出したつもりだったのだが、クラスにいる生徒からの視線を一斉に浴び香夏子の肩がびくりと跳ねる。
机に向かって足を進める間も「なぁ誰か聞けよ」「お前がいけよ」などと何やら香夏子に向けたヒソヒソ話も聞こえてくる。

クラス中からの視線が香夏子に向けられ居心地が悪いことこの上なく、「なんだろう……?」と疑問が浮かぶのと同時に「ま、まさか……」と嫌な予感が襲ってくる。


「あの……」
はいッ!?
「「「(いや驚きすぎだろ…………)」」」


恐る恐るというようにかけられた声に大袈裟に返事をしてしまいクラス中の心境は見事に一致し、声をかけた方も「なんかごめんね!?」と心の中で謝っていることだろう。


「実はね!?き、昨日香夏子ちゃんと山本が並盛スーパーの前で一緒にいるとこ見たんだけど……」


「いやほら最近二人のお弁当の中身一緒だって聞いたことあるし山本なんか香夏子ちゃんのこと名前で呼んでるからさ!?」と早口に言うクラスの女子。

香夏子は自分の顔から血の気がどんどん失われていく気がした。


「(お……、恐れていたことが起きてしまった――――!)」


明後日の方向を見ながら落ち着きなく指を遊ばせている声をかけてきた女子。
恐らく香夏子が山本と付き合っているのだと勘違いをしていてクラスの噂にもなったのだろう。

ここ数日間は「山本君と同居してるってバレるわけにはいかない!」という警戒をすっかり忘れ、山本の優しさに甘え買い物に付き合ってもらっていた。
教室内では出来るだけ関わることはしないようにしていたが如何せん山本が香夏子を名前で呼んでいたのでそう言えば意味がなかった。


ちちちちがうんだよ昨日はたまたま一緒にいただけでね!?


一呼吸もすることなくどもりながら喋るあたり肯定しているようなものなのだが、それに気づかない香夏子が必死に弁明をしていると。


「はよーっす」
「「「――――!!」」」


タイミングがいいのか悪いのか、教室に足を踏み入れた山本がクラスの異様な雰囲気に気づき「どうかしたのか?」と言った。
しかしその問いに答える者はなく、シーンと静まり返る室内。

そんな中一人顔を青くしている香夏子は噂の張本人――山本と目が合ってしまいその瞬間さらに嫌な予感に襲われる。


「香夏子、なんか顔青くねぇか?具合悪いなら俺家まで送るけど」
「(なんで今そういう話しちゃうかな――!?)」


香夏子の心の嘆きなど気づくことなく「歩けそうか?」と話しかけてくる山本。
山本の気遣いのおかげで辻本香夏子と山本武は付き合っている説は確信を得てしまったわけで、クラス内は「やっぱり――!」と興奮状態。


「やっぱ山本と辻本さんって付き合ってたのかよー!」
「俺ショックー!心のオアシスがぁー!」
「武に彼女が出来るの悲しいけど香夏子ちゃんなら納得……!」
「ていうか家まで知ってるとかどこまで進んでんだよ!!!!」


今の今までシンとしていたクラス内がわぁ!と一気に騒がしくなる。
「いや……、だから……、付き合ってないから……」という香夏子の主張は届かないほどの盛り上がり。

山本も黙っていないで否定してくれないだろうか。そういった意味を込めて力なく見つめてみれば「皆何盛り上がってんだ?」と首を傾げていた。いやなんでこの状況で首傾げてられるの?


「なぁなぁ!どっちから告ったわけ?山本から?」
「なんの話だ?」
「何の話って、辻本さんと付き合うことになった経由の話だよ!」


「俺香夏子と付き合ってないけど」


山本がそう言うと、騒がれまくっていたクラス内が再び静まり返り全員が「は?」と呆気に取られた。
誰かが「付き合ってないの?」と確認するように言えば「付き合ってないって」とはっきり答えている。

それを聞いて香夏子は「よく言った!」と拍手したい衝動に駆られるもそれをなんとか抑え何度も何度も頷くだけにしていたが。


「付き合ってはねぇけど一緒に住んでるぜ」
「「「は……――――?」」」
「(その一言いらなかったなぁ――!)」


まさかの同棲!?」とクラス中に戦慄が走る中「な!香夏子!」と笑顔を向けられ最早乾いた笑いしかできない香夏子。

結局その日は山本家に居候することとなった経由を必死に説明し、山本との同居生活はどんな感じなのかと女子から質問責めにあい
みっちゃんとアリスからは「とりあえず黙ってた理由を聞こうか」と説教を受けて一日が終えたのだった。


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