悟飯は必ず、翌日の昼過ぎに神殿へとやってきて夕暮れ前には帰っていく。
なんでも母親を心配させないためらしいが、それならば毎日神殿へ足を運んでもいいのだろうかとことはは疑問を抱く。
もちろん悟飯に会えなければ寂しいし会えることを拒んでいるわけでもない。
しかし短時間しか外出を許されない理由が悟飯の母親が家を離れることを良く思っていないからこそ、毎日会いに来てもらうのはとても申し訳ない気がしてならない気がした。
ミスター・ポポが手入れをしている花壇に水やりをしながら、今日も今日とてやって来た悟飯に「こんにちは」とあいさつをしことはは思った。
「あ、あのね悟飯君」
「なんですか?」
「その……、」
水やりを手伝ってくれている悟飯に話かけるも、なんと言えばいいのかわからずことはは言葉につまってしまう。
ことはが寂しい思いをしないよう、悟飯は毎日会いに来てくれているのだ。
その気持ちは嬉しいが、そのせいで母親に怒られているのでは、と思うといたたまれない。
かと言って「毎日来なくていいよ」と言えば、悟飯に会いたくないと捉えられるのでは、そう思ってしまい言葉にできない。
とは言え話しかけた以上何か言わなくてはとことはが焦っていると、「くすっ」という笑い声が聞こえた。
「ことはさんが考えてること当てましょうか」
「え、」
「ボクが毎日神殿に来てるからお母さんに怒られてないかなって」
「当たってるでしょ?」と悪戯が成功したかのような笑みを浮かべている悟飯。まさに言われた通りで、ことはは「そ、その通りです」と頷くしかなかった。
何故わかったのかと考えたとき、悟飯の師匠らしいピッコロや似た顔のデンデが読心術を使えることを思い出す。
「できないとか言って悟飯君も読心術を…………、」
「ちがいますよ!」
「ボクは読心術できません!」と否定された上に「ことはさんが顔に出やすいだけです!」とまで悟飯に言われ、ことはは少なからずショックを受けた。
(忍者なのに顔に出やすいってどうなの)
話を戻すよう「ゴホンッ」と咳払いをした悟飯は「大丈夫ですよ」と言った。
「夕飯前には帰ってますし、勉強も夜にしっかりやってるんです」
「それに、」と続ける悟飯は「?」と首を傾げることはを安心させるようにニコッと笑う。
「お母さん、ボクがことはさんの話すると楽しそうに聞いてくれるんですよ」
「だからことはさんが心配してるようなことは何もないですよ」そう言って悟飯は水やりを再開させた。
悟飯が母親に何を話しているのかわからないが、本人が大丈夫と言うのならそうなのだろうと納得し「なら、いいんだけど」とことはも水やりを再開するのだった。
「瞬間移動?」
「はい。名前の通り、どんなに遠い場所でも一瞬で移動できちゃうんです」
「元々はヤードラッド星人の持つ技術なんですけどね」と続けるデンデにことは「へぇー」と相槌を打つ。
ことはがどのようにして火の国から地球へやって来たのかという話から始まり、瞬間移動という星々さえ一瞬で移動できる手段があるという会話に発展した。
「忍者の世界には瞬間移動のような術はないんですか?」
「あるよ。避雷針の術っていうの」
「マーカーって言って、移動先に術式がないとこにしか行けないんだけどね」と苦笑いをすることは。
ピッコロは「瞬間移動で言う気のようなものだな」と頷き、それこそどういう仕組みなのだろうとことはは首を傾げる。
「移動先の場所というより、その先にいる奴の気を探りそれを頼りにするそうだ」
「気が探れなかったら、移動できないってことですか?」
「そうなるな」
瞬身の術も瞬間移動も、便利な技術だが万能ではないらしい。
しかし相手の気さえ探れれば星さえ渡れる瞬間移動ができる者がいるあたり「地球ってすごいんだなあ」とことはが実感していたとき。
いつもの如く舞空術でやって来た悟飯が「何話してたんですか?」と問い、「瞬間移動について話してたんですよ」とデンデが答えた。
「忍者の世界にも、瞬間移動のような術があるって教えてもらってたんです」
デンデがそう言うと、興味を示した悟飯が「ことはさんもできるんですか?」と聞いた。ことはの答えは否だ。
一度習得しようと修行を試みたものの、祖母に「まだ早い」と言われてしまい練習さえもしていない。
出来るようになれば戦い方の幅も広がるため、必ず習得してみせるつもりであることを言うと「ことはさんならできますよ」と悟飯は言った。
「ことはさんなら大丈夫!」
悟飯の言葉にデジャヴを感じていると、「瞬間移動か……」という声がことはの耳に入ってきた。
それは悟飯が発したもので、どこか寂しそうな感情が含まれていて「どうかしたの?」という意味を込めてことはは見つめるも「ううん、なんでも」と首を横に振られる。
「ただ……、お父さんが生きてたら、瞬間移動で火の国までつれて行ってもらえたのになあって」
そう零す悟飯の表情は寂しさと、後悔のようなものが混ざっているように見えた。
ピッコロとデンデがバツが悪そうに視線を逸らしているのを気配で感じ、ことははなんとなく理解する。悟飯が短時間で家に帰ってしまう理由を。
重たい空気が流れ、自分がそうしてしまったことに気づいた悟飯は慌てて「すっすいません!」と謝った。
デンデは「悟飯さんが謝ることじゃないです!」と気にしないように言い、ことはもイヤなことを思い出させてしまったことを謝罪する。
それでも気まずい空気は変わらない。そんな中一人何かを考えるように黙り込んでいたピッコロだったが、思いついたかのように口を開いた。
「………ことは」
「あ、はい」
「いまだお前の得体は知れないが、悟飯も一緒ならば下界に降りることを許可してやる」
そう言ったピッコロに「え?」とことはは何度もパチクリと瞬きをした。
神殿から出ることを許可してくれると言っていたのは聞き間違いだろうか。
そう思いポカンと口を開けていることはに「良かったじゃないですか!」と喜ぶ悟飯が声をかけた。
「火の国に帰る手がかりを探せるかもしれませんよ!」
「う、うん。でも、いいのかな……?」
もとよりピッコロはことはを危険人物とは思っていなかったらしいが、この数週間神殿に缶詰め状態だったことを思うと本当に下界に降りてもいいのだろうかと心配をしているとピッコロは「いいと言っている」「行きたくないなら別にいいが」と意地の悪そうに笑う。
「そんなことないです!」と必死に嬉しいことをアピールするも、鼻で笑われるだけだった。
下界といえば、つまりは悟飯が普段過ごしている人間たちが住む世界。つまりはことはが地球に対し害のある人物ではないと認められたということ。
「(木ノ葉の里に、帰る方法を探せる…………、)」
里に帰れる手がかりを探せるのはとても嬉しいが、どうしたものか……。そう言えば、悟飯たちの知り合いなら帰る方法を知っているかもという話を聞いた気がしたことは。
確かめるために「あの、」と口を開くも悟飯が再び複雑な表情を浮かべているのをことはは見てしまった。
「悟飯君…………――?」
「え、あ、なっなんですか?」
「ううん。なんか悟飯君、いつもと様子が違うから」
「もしかして具合悪い?」と心配そうにことはが顔を覗き込むため、悟飯は「そ、そんなことないです!」と慌てて顔と手を横に振る。
バクンバクンとうるさい心臓の音をおさえるように胸に手を当てる悟飯。「でも顔赤いよ?」とことはに指摘されるが、頬の赤みは風邪などの類でもないことを伝える。
「本当に、なんでもないんです……――――、」
「なんでもない」その言葉は、ことはたちに聞かせるというよりも自分に言い聞かせている方が強かった。
ことはが下界に降りることを許可されたことで、ようやく火の国に帰るための一歩を踏み出せる。それは悟飯にとっても嬉しいことのはず。
そうとなれば早速ブルマのもとへ行き、火の国という星はどこにあるのか、宇宙船を貸してもらえないか聞かなければ――。することは山積みであるのに、行動に移そうと考えたとき胸が痛くなった。
「(火の国の位置を特定して、宇宙船を借りることができたら……、)」
ちら、とことはを見てみると、まだ悟飯の体調を心配しているような表情だった。胸の痛みが、さらに増した気がする。
胸の痛みに気づかないふりをするため悟飯は「そうだ!」とできるだけ明るく装い口を開く。
「お母さんがね、ことはさんに会ってみたいから家に連れてきなさいって!」
「せっかく下界に降りれるんだから、ボクの家に遊びに来てください!」
「ボク、今日は帰ってお母さんに聞いてきます!」
逃げるように「それじゃ!」と後ろ手をふり神殿の庭から飛び降りる悟飯。何か言いたそうにこちらに手を伸ばしていたことはに気づいたが、「また明日!」と知らないふりをした。
翌日、母親から家に連れてきてもいいと許可を得た悟飯が神殿に着くも、ことはの姿はどこにも見当たらなかった。
PREV|TOP|NEXT
INDEX