「お前体術の心得があるだろう」
「連日空を眺めてるくらいなら俺が相手してやる」というありがたいお言葉によってことはは悟飯と会えない時間はピッコロと組手をすることになった。(呼び方が貴様からお前に昇格してる……!)
「体鈍っちゃうし、修行になるからいいかな」と軽い気持ちでいたのだがそれもつかの間。
「どこからでもかかってこい」と言われことはは地面を蹴る足に力を入れた。しかし、
いとも簡単に吹っ飛ばされることはの体はタイル張りの地面に転がった。
「いたたた…………、」
「木ノ葉の忍者とやらの実力はその程度か?」
まるで馬鹿にしているかのようなピッコロの発言に思わずムスッと唇を尖らせることは。
「そんなわけあるか!」とでも言うように手早く印を結びながら再び地面を蹴ったのだが――。
「酷くやられましたね…………、」
傷だらけのことはの体に手をかざすデンデは苦笑いをした。暖かい光に当てられあっという間に傷は見当たらなくなり少しの痛みもなくなっていた。
「ことはさん大丈夫?」といつの間にか神殿へと来ていた悟飯が問い、それに「もう大丈夫」と返し手当をしてくれたデンデに礼を言う。
体術だけでは到底敵わないと知ったことはは使える忍術を駆使しピッコロに挑んだのだが、最初こそ驚いていたものの二三発攻撃を当てただけで地面に膝をつかせることはできなかった。
悟飯の師匠というだけあり強いのはわかっていたし勝てるとも思っていなかった。それでもことはだって幼い頃から厳しい修行を積んできたつもりだった。
ことはが「もっと修行しないとダメだな」と心の中で呟いているとピッコロが「さっきの、」と問いかけた。
「水を吐き出していたのも忍術なのか?」
「水を吐き出していた」聞こえ方は悪いがそのままだ。ピッコロが問うているのはことはが使用した水遁の術の一つ「水乱波(みずらっぱ)」について。
「そうですよ」とことはが頷くと「原理はどうなっている?」とすぐさま返される。
「(原理かあ…………、)」
これまで深く考えずに忍術を使ってきたため改めて「原理は?」と聞かれると答えるのは難しくことはは「うーん……、」と唸った。
なんと説明したらいいのか迷っていることはをフォローするかのように悟飯は口を開いた。
「もしかしてボクたちで言う気功みたいなものなのかな」
そう言って気功波を打つ構えをする悟飯。「つまり”気”を操るということか」とピッコロは続ける。
ことはは「私たちは”チャクラ”って呼んでるんですけど、多分そういうことだと思います」と言い印を結んでみせた。
「精神エネルギーと身体エネルギーを体内で練り合わせてチャクラ……、ようは気ですね」
「チャクラをコントロールするだけでも術として使えないことはないんですけど、性質を変化させるんです」
「さっき私が使った術の一つが、チャクラの性質を口の中で水遁……、えっと水に変えて噴き出したやつです」
「水乱波っていうんですけど」そう付け足すことはにピッコロは「なるほど」と納得する。
デンデは「体の中に大量に水が入っているわけじゃないんですね!」と体内エネルギーが水に変わることに驚いていた。
チャクラの性質変化は水遁だけでなく火風土雷の全部で五つであることも加えて説明すれば「火も起こせるのか」や「地形を変えられるのか」と質問責めにする悟飯とデンデ。
「え、えーと……、」と目を逸らしながらことはは「今は私水遁しか使えなくて……、」とやんわり否定をする。
「チャクラの性質って個人で違うから、全部使えるわけじゃないの」
「今は、ということは修行を重ねればお前もそのチャクラを五つすべての性質に変えられるということか」
「多分、どれだけ修行してもそれは無理だと思います……、」
気まずそうに「そうではない」ということはに「何故だ?」と反応をしめすピッコロ。
「性質は多くても一人二つか三つで、大体遺伝で決まるんです」
ことはの家系は木ノ葉の里でも有名な水遁使いの一族。そのため水の性質を持って生まれるのだ。
先に言っていた「今は、」というのは修行次第でもう一つ性質変化をさせられるかもしれないということ。
現にことはの祖母は水の他に火の性質に変化させることができる。
しかしそれも言ってしまえば遺伝的なものであり、五つすべてのチャクラ性質に属す忍がいるというのは聞いたことがない。
「あ、でも火影様……、えっと里で一番偉い人は確か五つに変化させられるって婆様に聞いたことある気が…………、」
そこまで言葉を紡いだとき、ふと思い出してしまった里の現状。
神殿から出られない、すぐには帰ることができない状況に「仕方がない」と開き直ってはいたのだが、いざ思い出してみると心配になってくるものである。
思わず「里は大丈夫かな……、」と口から零してしまうことは。
それを聞いた悟飯は声をかけようにも上手く声に出すことができなかった。「きっと大丈夫」なんて言葉は気休めにもならないだろう。
悟飯がタイル張りの地面に足をつけたとき、ことはは庭の端で胡坐をかき何やら集中するかのように目をつむっていた。
何をしているのかが悟飯にはすぐわかり、邪魔をしないようにゆっくり足を進めていくもパチッと瞼をあげたことはに気づかれてしまった。
「悟飯君!」
「こんにちは。もしかして舞空術の練習ですか?」
「うん。ピッコロさんに教えてもらったんだ」
「でも難しくてなかなかできないや」と言うわりには嬉しそうなことは。「ボクもできるようになるまで苦労しましたよ」と言いながら悟飯は隣に腰を下ろした。
自分の故郷を思い出し気を落としていたことはを心配していたのだが、今の様子を見る限り杞憂だったようだと悟飯は心の中で安堵の息をつく。
気を集中させ手のひらにそのかたまりを作るイメージをしているらしいのだが、それが難しいのだとことはは嘆いている。
「どうしてもこう、チャクラを練るイメージしかできなくて……、」
「チャクラが気と同じなら、チャクラを手のひらに集中させればいいんじゃないですか?」
「………それだとぜんぜん違うものになっちゃうの」
そう言ってことはは手のひらにチャクラを集中させるよう意識した。するとゴォッ――という大きな音をたてて発生した気流のようなもの。
まるで竜巻が直接ぶつかったかのような感覚に悟飯は吹っ飛びそうになる体にグッと力を入れなんとかその場に踏みとどまる。
気流のようなものを発生させたことは自身も顔を歪ませながら手のひらから放出しているチャクラを慌てて消し止めた。
「ま、まあこんな感じになります…………、」
「な、なるほど……」
「確かに難問ですね」と苦笑いをする悟飯。ことはも「あはは……、」と乾いた笑みを零した。
チャクラが気と同じものだとして、いざ体外に出そうとすれば先ほどのようにただ放出してしまうだけ。それを形作ればチャクラの形態変化として術の一つと言えるのだが。
「………舞空術が出来るようになったら、今度は抱えてもらわずに空の散歩できるかなって思ったんだけど」
「簡単にはいかないね」そう言うことはは恥ずかしそうに頬を染めた。確かに簡単に舞空術を極められては苦労して会得した悟飯の立場がない。 それでも、何故かことはに舞空術はできない。そんな確信が悟飯にはあった。
確信を得たのは先のチャクラの放出を間近で見たとき。どれだけ強い気を体外に放出してもあんな竜巻のようにはならない。なにより直接肌で感じた”あれ”は気とはまったく別物だった。
以前ピッコロが言っていた。「ことはの気は変わっている」と。
まさしくそれだ。気とチャクラはまったくの別物。いくらコントロールを極めてもことはが舞空術をできるようになることはない。
しかし悟飯の口からそんな厳しい現実を告げることができることはなく、かと言って申し訳ない気持ちがあるわけでもなかった。
「大丈夫ですよことはさん」
「?」
「舞空術ができなくても、ボクがいるじゃないですか」
自分の胸に手を当て「ね?」と首を傾げる悟飯。
意図がわからずことはは首を傾げるが、そんな彼女の手を取り立ち上がらせるといつしかのように横抱きにし悟飯は空へと舞い上がる。
急なことで驚き「うわっ!?」と慌てて悟飯の首に腕を回したことはの表情は「飛ぶなら言って……」と言いたそうだ。
その少し怯えた様子も、悟飯には愛おしく思えた。
強敵との死闘の末、敵であったはずの女性に恋をした仲間に軽い気持ちで「好きなんだ」と言ったことを思い出す。
幼い頃から戦い続きで同世代の異性との関わりなどほとんどなかった自分にはわからない感情。
夢の中で初めて会ったときは、寂しい思いをしていた自分に声をかけてくれた優しいお姉さんだったはず。
しかしこうして現実世界で相まみえて会話をし肌で触れて、ことははまぎれもなく女の子なのだとわかった。
初めての経験で勘違いをしているのかもしれない。今この状況下にいるのが他の女の子でも同じ感情を抱くのかもしれない。それでも、
「(ボク、ことはさんが好きだなあ)」
自身を襲うほわほわとくすぐったい感覚が、素直に嬉しい悟飯だった。
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