「なんだ?」と辺りを見渡し、感じたことのない気の出どころを探る。
すると、目を開けていられないほどの眩い光に襲われ思わず目を閉じてしまう。
眩い光は一瞬にして消え去り、それと変わるように少女がドサッと音をたてて
悟空はとっさに構えてはみたものの、ピクリとも動かない少女に「で、でぇじょぶか!?」と近づき抱き起すも、どうやら気を失っているらしく目を覚ますことはなかった。
「お、おい!しっかりろ!」
「どうした悟空?」
ぺちぺちと頬を叩いてみるも起きる気配のない少女。
「どうしたものか、」と考えていると、背後から声をかけられ悟空は「界王様!」と言い振り返る。
界王様と呼ばれた一見変わった風浪をしている人物は再び「どうした?」と問い、悟空は見知らない少女がいきなり現れたことを伝える。
「確かに知らん気が現れたのは感じたが、その娘がそうなのか?」
「あぁ―――。んでも気を失っちまってて、ぜんぜん目を覚まさねぇんだ」
「まあ――……、聞きたいことはあるがとりあえず目を覚ますまで寝かせてやるとしよう」
気を失っているのならば仕方がないということで、悟空は少女を抱え一先ず休ませてあげられそうな場所へ移動する。
鼻をかすめる青臭い香り、チクチクと肌にささるようなちょっとした不快感。
それが草の上に寝転がっているからだと理解したことははゆっくりと瞼を上げた。
黄と薄赤が混ざった空はまるで桃のようである。
見慣れない景色をボーッと見つめていたが、のそっと現れた顔にそれは遮られた。
「うほっ?」と愛らしい表情をしながらことはを見ている動物。
「なんでゴリラ……?」と訳がわからずことはは固まっていたが、「お!目ぇ覚めたんか!」という明るい声のおかげでゴリラ(仮)の意識はそちらへと向いた。
「ありがとうなバブルス。ずっと様子見ててくれたんだろ?」
バブルス、というのはゴリラの名前だろうか。礼を言われ「うほっうほっ!」と喜んでいるようにも見える姿を見ていると、「おめぇ気分どうだ?」と声をかけられた。
「あ、大丈夫です」とゆっくり上半身を起こそうとするも、体に感じるダルさからことはは首を傾げた。
なんだか、ひどく体が重く感じる。
首を傾げ腕をぐるぐる回していたことはは「あぁ――!ここは重力が十倍だから体が重く感じるんじゃねぇか?」と教えてもらう。
「どんな場所……?」と文句を零しつつ、改めて声をかけてきた男性を見る。
山吹色の道着に特徴的な髪形、太目の眉。なにやらどこか見覚えがある気がするのだが、どこでだったか――。
「おめぇいきなり現れたけどよ、瞬間移動使えんのか?」
「瞬間移動…………?」
瞬間移動という単語にまたも既視感を覚えることは。
それはさておきそのようなことをした覚えがないため「い、いえ」と首を横に振る。
「悟空。あの娘の意識が戻ったのか?」
また別な声がことはの耳に入ってきた。山吹色の道着の男性――悟空――とは違い、低く年老いた声だ。
悟空が「界王様!」と呼んだ人物のことを見てみる。
背は高くなく顔色は青、皆から嫌われているアレの触覚のような帽子をかぶりサングラスをかけた外見からは”普通の人間”ではないことがわかる。
界王とやらは、いまだ草むらに腰を落ち着けていることはへと近づき「うーむ……、」と難しい表情で足先から頭のてっぺんまで食い入るように見ている。
居心地の悪さに思わず身じろぎをし、「あ、あの……、」とことはが控えめに声を出すも、聞いていないようだった。しかし、
「ダメだろ界王様〜、いくらその子が可愛くたってそんなじっくり見つめちゃ……、」
怪訝そうな表情で「怖がってるじゃねぇか」と悟空が言ってくれたおかげで、「む……、そ、そうじゃな」と界王はことはから距離を取り「コホンッ」と咳ばらいをした。
そして「別に可愛いからって見てたわけじゃないが……、」と口を開いた。
「お前さん、ここがどこかわかるか?」
「ここ」と地面を指さす界王。おそらく今現在足をつけている地のことを言っているのだろう。
「いいえ……、」と首を横に振ったことはに対し界王は「やはりな……、」と呟いた。
「やはりなって、どーいうことだよ界王様?」と悟空が問うと「悟空。この娘の頭をよく見てみろ」と界王は言う。
「あたまぁ?…………――あぁ!!?」
「おめぇ!輪っかがねぇぞ!」と大いに驚いている悟空。
「わ、輪っか……?」と理解が出来ずことはは首を傾げる。「ほら、これだよ!」と言い悟空は自分の頭の上を指さした。
確かに、天使の輪のようなものが悟空の頭の上に浮いている。よく見れば界王やバブルスにもある。
一体どういうことなのだと理解を求めるべく界王に視線を向けると、「つまりじゃな、」と口を開いた。
「今お前さんがいるこの場所は所謂”あの世”なんじゃよ」
「あ、あの世…………、」
「そうじゃ。心当たりはないか?」
心当たり、と言われ木ノ葉を襲撃してきたペインに殺されたときのことを思い浮かべ、ことはは「あり、ます」とぎこちなく頷いた。
「(あぁ――、私本当に死んだんだ)」
今足をつけているこの地があの世だと知り、改めて死んでしまったのだと実感をしたことは。
しかし界王は「本当に死んだのか……?」とことはを疑うように見つめる。
「本当に?」と聞かれても、ここがあの世ならば”そういうこと”なのではないのか。
言い方はおかしいかもしれないがことはは死ぬことが初めてだ、あの世があることも知らなかった上に死んだ後のことなどわかるわけもない。
何か問題でもあるのか――。ことはが聞こうとしたとき、次に口を開いたのは悟空だった。「なあ界王様」
「死ぬ以外にここに来る方法って瞬間移動以外になんかあんのか?」
再び出てきた瞬間移動という単語。
ことは自身あの世にどうやって来たかはわからないが、もしや来てはいけなかったのだろうかと「私、何かまずいことしちゃったんですか?」と問うてみた。
界王の答えは「そういうことじゃないから安心するといい」だ。
死ねばあの世に来るのが道理なのでそこについては問題はないらしい。
では何が問題なのかというと、ことはが”本当に死んでいるのか”ということ。
曰く、死んだものは必ず閻魔大王のもとへ魂が運ばれ天国か地獄行きを判定される。しかし悟空のように肉体を残しあの世で生活することも可能だそうだが。
話は逸れたが、死ねばどんな極悪人であっても閻魔による判定を受けるために閻魔の館へ魂が運ばれるはずであり、いきなり界王のもとへと来ることはできないそうだ。
死んでなお肉体が残り死人の証である輪っかもついていない。なにより閻魔の判定を受けていないことが界王にとって不可解なことらしい。
ようやく理解のできたことはは「本当に死んだのか?」「実は瞬間移動ができるとかじゃないのか?」と問われはっきりとそれを否定した。
本当は死んでいないという可能性はあるかもしれないが、瞬間移動はしていない。
「そうか……。こうなったら直接閻魔のとこに行って確認してみるしかないなあ」
「悟空よ。お前ちょっと閻魔の館までその娘と行ってこい」と界王に言われ、あっさり頷くと悟空は「ほら、」と手を差し出してきた。
「ほら、」の意味がわからず、「まさか手を繋いでいけということだろうか」「なにそれすごい恥ずかしい」とことはが躊躇していたが、簡単に手を掴まれてしまう。
「んじゃ界王様、ちょっくら行ってくる!」
「閻魔のやつによろしくな」
ことはの手を掴み悟空は「しっかり捕まってろよ」と言うと額へと二本指を添える。
「何してるんだろう」とことはが考えていると、目に映る景色が横にぶれ気が付けば建物の中にいたのだった。
「あ、あれ?」
「ん?あぁ――、瞬間移動したんだ」
「おでれぇたか?」と悪戯が成功した子供のような表情を浮かべている悟空。これが瞬間移動なのかとことはが納得し「は、はい」と素直に頷いた。
「なんだあ?」という大きい声が建物内に響き、ことははビクッと肩をはねさせた。
「孫悟空じゃねぇか。今日は何の用だ?」
「閻魔のおっちゃん!聞きたいことがあって来たんだ!」
「聞きたいこと?」と首を傾げる閻魔のおっちゃん、もとい閻魔大王。
瞬間移動のことばかり考えていて完全に油断していたことはは閻魔大王の体の大きさに驚いた。
ことはの何倍も大きい体に大きい声。まるでおとぎ話に出てきそうな外見で、嘘をつけば閻魔大王に舌を抜かれるなんて昔祖母に脅されたことを思い出す。
恐怖からゴクリと生唾を飲み込むことはをよそに、「実は、」と憶するどころか親しげに話をしている悟空。
「この子のことなんだけど、あー、えっと……、」
「そう言えばおめぇ
「ことはだな!」と頷いた悟空は再び閻魔に「ことはのことなんだけど!」と話かけた。
ことはが本当に死んでいるのか確かめて欲しい、と伝えると最初こそ「どういうこった?」と首を傾げていたが、訳を説明すれば「なるほど、ちょっと待ってろ」と閻魔帳を素早くめくり始める閻魔大王。すると、
「………どこにもことはなんて名前乗ってねぇな」
「死んだ記録もねぇし、もしかしたら何かの手違いであの世に来ちまったのかもしれん」と閻魔は言う。
手違いであの世送り、なんてことがあるんだろうか――。
死後の世界とはよくわからないものだとことはが考えていると、「良かったじゃねぇか!」と悟空に肩に手を置かれた。
「おめぇ死んでなかったってよ!」
「あ、は、はい」
「そ、そうですね?」とあいまいにしか返事のできないことはを気にすることなく「良かったよかった」と何故か喜んでいる悟空。
たまたま居合わせてしまい面倒なことに巻き込まれたにも関わらず、見ず知らずの人間のことなのに自分のことのように喜んでくれている。
きっと悟空は底知れずお人よしなのだろうなとことはは思った。
それがことはが死ぬ前に今一度会いたいと願った人物と重なって見え、思わずジッと見つめてしまう。
「ん?どうかしたんか?」
「あ、いや……。私の友達にそっくりだなって思って」
「ごめんなさい、ジロジロ見たりして」と謝るも、「オラにそっくり?」と首を傾げ「…もしかしてターレスじゃねぇだろうな」と悟空は怪訝そうな顔をしていた。
「逆にターレスって誰」という表情を浮かべれば悟空は「違うならいいや!」とカラカラ笑い、「そう言やぁ、」と何か思い出したかのか口を開く。
「おめぇの気って変わってんなあ」
「え、」
ことはの聞き間違いでなければ、悟空は今「気」と言わなかっただろうか。
木ノ葉の里はおろか、他国や他の隠れ里でさえ気という単語を聞くことはなかった。
チャクラのようなものらしいと説明しても、誰一人”気”の存在を知る者はなく「要はチャクラだろ」と言われて終わり。
久しぶりに聞いた気という言葉に、ことはは”とある可能性”があるかもしれないと考え口を開いた。「あの、」
「悟空さん、舞空術って知ってますか?」
「知ってるも何も、できっぞ」
「ほら、」と地を蹴り簡単に浮かび上がる悟空の体。それを見て「やっぱり!」とことはは確信を得られて笑顔になる。
「舞空術がどうかしたんか?」と地面に足をつけ首を傾げる悟空。
「なんでもないんです」と返したものの、ことはの顔から笑みは消えずいかにも「何かあります」と言いたそうだ。
「楽しんでるところ悪いが、孫悟空。死んでない者をあの世に居させたままにするわけにもいかん」
「下界に帰してやりたいんだが」と閻魔に言われ、悟空は「いっけね!そうだった!」と頭をかいた。
確かに死んでいないのであればあの世にいる理由などないのだが、閻魔の言葉でことははそれどころではなくなった。
「そん、ごくう…………、」
思わずことはの口から零れた言葉。名前を呼ばれたのだと思った悟空は「どうした?」と反応した。
気という単語に、舞空術。そして悟空の孫という性。ことはは「もしかして」と自分の中に浮かぶ可能性を口にしてみた。
「悟空さんって、悟飯君のお父さんじゃないですか…………?」
「孫っていう名前もですけど、顔とか笑い方とか、すごく似てる……、」と続ければ「そうだぞ」とあっさり肯定された。
「なんだことは、おめぇの言ってた友達って悟飯のことだったんか!」
「世間はせめーモンだな!」と驚いている悟空。ことはも同じである。
ことはが悟飯の友達だということがわかると、悟空は閻魔大王に「下界に帰すならオラの家の近くにしてくれ」と頼んだ。
「じゃあなことは。下界に降りたら悟飯によろしく言っといてくれっか?」
「はい。あの、悟空さん、ここまで連れてきていただいてありがとうございました」
「そんなこと気にすんなよ」
「お世話になりました」とお辞儀をしたことはの頭にポンと優しく乗せられたゴツゴツした大きい手のひら。
子供をあやすように撫でられている感覚にほっこりと胸が暖かくなった気がした。
「もしおめぇが本当に死んじまったときは、オラが会いに行ってやっからな」
そう言いニッと笑う悟空。縁起が悪いと思いつつ、その言葉が面白おかしくて「そのときは、お願いします」とことはからも笑みが零れたのだった。
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