自分のベットの上で意識を失っている少女の額に、水で冷やしたタオルをのせると、思わずチチはため息をついた。

「お姉ちゃんが死んじゃう!」と我が屋の次男坊が連れて帰ってきた見知らない少女。歳は長男と同じくらいだろうか。

次男の慌てようから「悟天ちゃん一体どうしただ!?」とこっちまで慌てて問い質す。
なんでも兄から譲り受けた雲の乗り物――筋斗雲――に乗って猛スピードを出して遊んでいたらちょうど空から落ちてきた少女とぶつかってしまったらしい。

次男も少女も見たところ大怪我はしていないが、後者だけが意識を失っているあたりさすが体の丈夫さは父親譲りとでも言うべきか。

息子に怪我がなくて良かったと思う反面、他人様に怪我をさせてしまったわけでチチのイヤな予感が的中してしまい途方に暮れる。

七歳になったばかりの息子が雲の乗り物で人を轢いた(?)となれば警察沙汰は免れない。


「(そんなのごめんだ!オラの可愛い悟天ちゃんを警察になんて連れていかせねぇ!)」


「だから早く目覚めてけれ……!」と少女の手を強く握るも、願いが届くことはなかった。










「ん……――――――、」


ぱちくり。


ん????


浮上してきた意識とともに薄っすらと目を開けば視界に映る純粋無垢そうな大きな瞳。

ぼんやりとしていた意識は一気に覚醒し何度も瞬きをすることはに合わせて大きな瞳もぱちりぱちりと開閉される。

状況の飲み込めないことはが「え、えっと……、」と困惑していると、詰めていた距離を大きく広げながら「おかあさーん!」と嬉しそうに部屋を出ていった。
どうやら少年に至近距離から見つめられていたらしい。

「あ、ちょっと!」と勢いよく起き上がり後ろ姿に既視感を覚える少年を呼び止めようとしたものの、すでに部屋の中はシンとしてしまっている。

行き場のない手をそっと下ろしここはどこだと部屋を見渡してみると、綺麗に整頓された室内には女性物と思われる衣類や化粧台が配置されていた。

ひとまず少年を追ってみようとベットから足を下ろそうとしたとき。「ほら!」


「目が覚めてるでしょ!」
「あ、本当だべ」


先ほど少年が戻ってくるとともに現れた女性は言葉の通り少年の母親なのだろう。

おそらくこの部屋の使用者であることから理由はわからずともベットを使わせてもらったことへの礼をと「あの、」とことはが口を開いたが。


おめぇどこか悪くしたとこはねーだか!?
「へ、」
痛いとことかねーかって聞いてるだ!!!!


早く答えてけれ!」と少年の母親――チチのあまりの形相にたじろいでしまうも「く、くびとか……、いたい、気がします」と遠慮気味に答えることは。

部屋に入って来たと思えば押しつぶさん勢いで肩を掴まれていることははますます状況がわからなくなる。(つ、掴まれてる肩の方が痛い)

「首が痛い」と答えたためか、チチは「や、やっぱ怪我させちまってただな……!?」と顔を青くさせながらことはの肩から手を放してくれた。
が、「もうお終いだべ……!」と膝をつき顔を覆うその様子に何故か罪悪感に襲われてしまう。


「オラの可愛い悟天ちゃんが警察に連れてかれちまうだぁぁぁぁあ!」


「わーん!」と大声をあげて泣き出してしまったチチにことはは慌てて「わぁぁあまって待って!」とベットから降りる。


必死に手を横に振り「ダイジョブそこまで酷くないんですほんとう!」と自分が健康であることをアピールする。

ことはの必死のアピールのおかげか「ほんとうだか?」とチチは涙を止めた。
それを見て「ほっ、」と息をつき改めて疑問を口にしてみる。「それで、」


「ここ、どこなんでしょう…………?」










場所をチチの自室からリビングへと移し、お茶を淹れてもらいながらここがパオズ山にある孫家宅だと教えてもらったことは。

「孫家ってもしかして……、」と思いついたことを口にしてみれば、つい先ほどあの世出会った孫悟空の奥さんと息子であることも判明。
どうやら「下界に帰すならオラの家の近くに」という悟空の願いを閻魔は聞き入れてくれたらしい。

なぜことはが孫家宅に保護された経由を聞いてみると、空から急に現れたことはに孫家次男である悟天がぶつかってしまったからだということがわかった。

悟空にウリ二つの悟天を見てことはは幼い子供にぶつかられたくらいで気を失うなんて自分もまだまだ……――、と鍛え方が足らないのだと痛感する。
しかしチチ曰く、父親に似たのかヤンチャが過ぎ最近はとくに危ない遊びをしていることが多いため、ことはが悟天とぶつかって気を失うのも無理はないのだとか。


「ごめんなさいお姉ちゃん…………、」
「きっ気にしないで!急に落ちてきた私も悪いんだし、ね?」


悟空の息子ということは、悟天の兄はことはが会いたいと願っていた悟飯だ。

悟天の頭に手を伸ばしぽんぽんと優しく撫でながらしゅん、と項垂れているその様子が初めて悟飯と出会ったときと重なって見えて思わず笑みが零れる。

どんな経由であれ気を失ったことはをここまで運んでくれたことに変わりはなく、「ありがとね、悟天君」と今度は特徴的な形の髪をわしわしと撫でてみると嬉しそうに「うん!」と顔を綻ばせる悟天。

そんなことはと次男の様子を眺めていたチチはふいに「ことはさんこのあと用事とかあるだか?」と聞いた。

イマイチ自分が今どういった現状にいるのか理解できていないことはが「い、今のところとくに……、」と答えると「なら!」と音を鳴らして手を叩いたチチ。


「学校終われば悟飯ちゃんも帰ってくるし、夕飯食べていけばいいべ」


悟飯が帰ってくる。チチのその言葉にことはの胸がドキッと高鳴った。

しかしことはは身の上を詳しく話していない赤の他人。
どんな事情でこのパオズ山にやって来たかもわからないのに長居をしてしまっていいのだろうか。

好意に甘えたいものの、素直に応と答えられないことはの考えを見透かしているのかチチは「なに気にしてるだ、」と言った。


「ことはさんは悟空さの知り合いなんだからなんも遠慮することなんかねぇだぞ?」
「で、でも」
「それに、」


「悟飯ちゃんに会いたいんだべ?」


何故悟飯に会いたいのだと知られているのかと動揺することはの口から「な、なんでそのこと……、」と言葉が零れた。

そんなことはに対し、にっこりとした笑みを浮かべチチは「当たり前だ!」と口を開く。


「オラが悟飯ちゃんの”母親”だからだべ!」


「ふふん!」と誇らしげに胸を張るチチ。


改めて「母親だから」と言われても、それがことはが悟飯に会いたいと願っていることを見抜いたこととなんの関係あるのかわからず、「どういう意味だ」と悟天と顔を見合わせ首を傾げるしかできなかったのだった。


PREVTOPNEXT
INDEX