言葉通り、孫悟飯はことはの”夢”に現れた。それも毎晩だ。
しかし悟飯は初めて出会ったときとは違い、尻尾はないし服が山吹色の道着に変わっていた。(しかも背中に”魔”って書いてある)
聞いたところによると、「気づいたらこの道着を着ていた」らしいのだが、なぜか会うたびに悟飯はボロボロな姿になっている。
何をしているのかと聞くと一年後に地球にやって来ると言われている二人のサイヤ人と戦うために修行をしているのだとか。
そもそも「サイヤ人って?」「地球って?」とことはが首を傾げると、悟飯も不思議そうに首を傾げこう言った。
「地球はボクたちが住んでる星のことだよ?」
まるで「何を当たり前なことを言っているの?」と言っているような表情。サイヤ人というのはその地球を滅ぼそうとしている悪い異星人だと言う。
そう言われてもいまいちピンとこず「へ、へぇ……、」と返すしかできない。なにせ自分の住む国からことはは出たことがないのだ。
しかし地球とは、異星人とはも気になるものの、ことはより七、八は年下であろう悟飯がその、地球の滅亡を阻止するために修行をしているということにも驚きを隠せない。
そんなことを考えていると、悟飯に「ことはさんは?なにか修行してるの?」と聞かれ思考が戻される。
「うん。悟飯君みたく強くなる修行じゃないけど」
「強くなる修行じゃないの?」
「じゃあ一体なんの?」と興味津々に続ける悟飯に、ことはは「ふふっ」と笑みを零した。住む星の行く末を託されてると言われてもやはり幼い子供なのだなと。
「もうすぐね、試験があるんだ」
「試験って、塾の?」
「塾……、ではないかな。アカデミーって言って、忍者を育ててる学校の」
その卒業試験に受かれば忍者として認めてもらえる。そのために修行を重ねていることをことはは説明するも、いまいちピンとこないらしく悟飯は「うーん?」と首を傾げていた。
「ボク、忍者がいるなんて知らなかった」
「そっか……。と言っても、私も里の外の事情はよくわってないんだけどね」
「だから忍者を知らない人がいてもおかしくないかも」そう言ってことはは苦笑いをした。ましてや自分は地球という星の存在を知らなかったのだ。
「修行中でも、忍術って使える?」
「か、簡単な奴なら」
「分身の術とか」と言えば、喜々として「見せてみせて!」とせがむ悟飯にことはは「上手く出来なかったらごめんね」と一言零してから指で印を結ぶポーズをする。
「分身の術――!!」
ポンッと煙をたてて闇の世界に現れたのはもう一人の”ことは”。しっかりと二本足で立ち体が透けて見えていることもない。成功である。
ほっと胸を撫でおろすことはとは対照的に、悟飯は「す、すごい!本当に忍術使えちゃった!」と大いに驚いている。
「他は!?他にも何かできるの!?」
「うーん、今完璧にできるのは分身の術くらいで……、他のはまだまだ修行つけてもらわないと」
苦笑いで「期待に応えられなくてごめんね」とことはが言うと、「ううん!ことはさんすごい!」と瞳をキラキラさせながら悟飯は言った。(ま、まぶしい……)
正直言ってことはは修行が好きではない。忍者になりたいわけでもない。
家が代々里が誇る一族の忍者で、自分の足で歩けるようになった歳にはすでに修行をつけられていた。
修行をつけてくれているのはことはの祖母で、これがまた厳しいなんてものではない。毎回泣かされるのだ、盛大に。
おまけに一緒に修行をしている幼馴染二人にはバカにされているし、イヤになって何度逃げ出したことだろう。
そのたびに祖母に捕まえられては更に辛い課題が課せられる――。
今日も今日とて広い庭で祖母から重たい一蹴りを顔面にくらい太い木の幹に背中を打ち付けた。顔が、背中が、痛かった。
いつもであればそこでやる気も失せて祖母の相手を幼馴染二人に押し付けるのが常なのだが、ことはは思い切り地を蹴って反撃を繰り返したのだった。
「それでね、婆様に褒められたの。今日はよく頑張るねって」
「あんまり褒められたことなかったから、嬉しかったなあ」と頬を染めて本当に嬉しそうな表情をしていることは。
話を聞いている悟飯までもが嬉しい気持ちになってくるようで、「良かったね、ことはさん」と伝えると笑みが自然と零れた。
「でも、ことはさんのお婆さんってすごく怖い人なんだね」
ことはの口から出てくる祖母はとても厳しく、まるで自分に修行をつけてくれている緑のおじちゃんのようであると悟飯はふと思った。
悟飯の祖父はとても優しく、遊びにくるたびにお土産を持ってきてくれる。顔面に蹴りを入れてきたりなんて絶対あり得ないだろう。
そう口にすると、ことはは「うん。怖い」と苦笑いをした。「でもさ、」
「悟飯君は、いつにも増してボロボロだね」
「うん……、」
「気功は使わないって言ったのに、嘘つかれたんだ」と唇を尖らせている悟飯。その顔は痣やら傷やらで見るに堪えない姿になっていて、祖母の修行などまだまだ可愛いものではないのかとことはは思った。
何より悟飯はことはよりも年下なのだ。そんな彼が一生懸命に強くなろうと努力している、そう思えば日々の辛い修行が苦ではない。
「(明日も修行、頑張ろう)」
「いよいよ明日なんだね」
「うん」
明日、目が覚めたらアカデミーの卒業試験を迎えることは。悟飯は「ことはさんならきっと大丈夫!」とグッと拳を握りしめた。
ことはは「ありがと」と返しつつ、ふと思い返す。
物心がついた頃には真っ暗闇の世界で、朝が来るまでずっと一人だった。
しかし悟飯と出会い「今日は一回も気絶しなかった」や「今日は手裏剣を上手く的に当てられた」などと話しているうちに”夢”を見ることが楽しみになっていた。
自分の知らないところで、地球という星のために修行をしている悟飯を見ていて、負けたくないと思えるようになった。だからこそ頑張れた。
「次に会うとき、ことはさんは忍者になってるんだね」
「うん。あ、でも卒業できたらだけど」
そう続けることはに悟飯はムッと唇を尖らせた。「ことはさんなら大丈夫!」と言って。
「ボク楽しみにしてるから!」
「ありがと、悟飯君」
「私、頑張る」そう言ってことはは両手を握りしめた。
応援してくれている悟飯のためにも、明日の卒業試験は絶対に受かってみせよう。
無事に忍者になったら、悟飯にその証を見てもらおう。
そして、サイヤ人という名の異星人と戦うために修行を重ねている悟飯を、自分が一生懸命応援しよう。
「それじゃ、悟飯君」
「うん!ことはさんも、」
「「またね!」」
このあいさつをすれば、朝が来る。
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