「―――例え悟飯の知り合いでも、貴様が”この星”にとって害がないという証拠がない限り自由の身にはさせん」


まるでどこにも逃がさないと言わんばかりの鋭いピッコロの視線。

おそらくことはが何者であるかということはどうでもよく「私は一切害がないです」という”目に見えた”証拠が必要なのだ。

とは言え身分証明書であるはずの額当てを見せてもイマイチ信じてもらえなかったのだ。ことはにはもう自分を証明できるものはない。


「貴様が安全な存在なのか、確証を得るまでは神の神殿から出ることは一切許さん」


「いいな」そうピシャリと言ったピッコロ。

ピッコロの言うことは理解ができる。なりたてと言えどことはも立派な忍。もし通行証もなしに他国へと入国すれば国際問題になりかねないことくらいわかっている。
ことはにその意図がなかったとしても許可なく神殿に侵入、その上どうやって来たのかもわからないとなれば「見逃してください」と言える立場ではない。
「まあ仕方ないよね……」と一人納得していたのだが、悟飯がピッコロに噛みつく声が聞こえ意識はそっちへと向く。


「で、でもそれじゃ火の国に帰る方法を探せないじゃないですか!」
「ずっと見張っているとは言ってない」


「こいつに害がないとわかれば自由にしてやる。星に帰るなり好きにすればいい」とことはの方へとピッコロは顎をしゃくる。

しかし悟飯は納得いかないのか「それだと火の国に行くまで時間がかかっちゃう……」と悔しそうに呟いていたがピッコロがそれを聞くことはなかった。












存在の安全性が確認できるまでの間、神の神殿から出ること禁じられたことは。
とは言え牢に閉じ込められるというわけでもなく、神殿から出なければ自由に行動しても良いと言われずっこけてしまったのを思い出す。(意外と緩いんだな……)

神殿での軟禁生活を強いられたことはに悟飯は気をつかってのことか一緒に滞在することを願っていたが、ピッコロはそれを良しとはしなかった。


「悟飯。お前の気持ちはわかるが、母親のことも考えてやれ」


「遊びに来るのは構わん。しかし家を長い間離れることは許さん」そうピッコロが言うと悟飯は「わかりました……」と残念そうではあるが素直に頷いた。

悟飯が傍からいなくなってしまうことに不安を覚えていたのだが、それも一瞬に終わる。

緩い軟禁生活の初日。今日は帰るという悟飯を見送りに初めて建物の外に出たことはは目に映る景色に「わぁ、」と歓喜の声が零れた。
茜色が紺へと変わる途中がやけに近くに見えるのだ。
どんどん足を進めていく悟飯に着いて歩くうち違和感を覚え、その正体に気づいたときことははぎょっと目を見開いた。

どうやらことはは、雲より高い位置にいるらしかった。自分の足より下に赤と紺が混ざったような色の雲海が浮かんでいる。
木ノ葉の里では決してお目にかかることのできない光景。あまりの高さにことははすっかり腰が引けてしまったのだが、あろうことか悟飯は「それじゃ、」と言いながら迷うことなく雲の海へと飛び降りてしまった。

目を見開くどころか眼球が飛び出たのではないかというほど驚き慌てて悟飯を追うように手を伸ばした。しかし、目の前には見えない地面に立ちまるで浮いているかのような悟飯の姿が。(ていうか浮いてる)

「え、え?」と目を丸くしていることはをよそに悟飯は「どうしたんですか?」と首を傾げている。


「ダメですよことはさん。神殿ここから落ちたらひとたまりもないんですから」


「気をつけてください」と神殿の庭ギリギリに四つん這いになっていることはにもっと下がるように誘導する悟飯。
「ご、ごめんなさい」と思わず謝罪が零れた。(あれこれ私が悪いの?)

「それじゃあことはさん、また明日!」と今度こそ悟飯は雲海の中に消えてしまった。


「(い、行っちゃった…………、)」


当たり前のように空を飛んでいたように見えたが、生まれてこのかたことはは空を飛ぶ人間を見たことがない。

説明を求めるべく勢いよく後ろを振り向き「あれはどういうことなんですか」と視線だけで訴えてみる。
見送りにについて来ていたピッコロが「……明日にでも悟飯に聞け」と面倒くさそうな表情をしながら言い踵を返しスタスタと歩いて行ってしまった。
隣にいたデンデも「今日はもう遅いですから、中に入りましょう」と促すためことははそれに大人しく従うのだった。


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