文ストプラスB

※どちらかが太宰さんで、どちらかが夢主

「そう云えば、君もう直ぐ誕生日じゃない」
「嗚呼、そう云えば君もだよね」
「23だっけ?」
「さあ、22じゃない?」

「仕事は?」「休み」
「有ったっけ?」「貰った。君の日だから」
「嗚呼、そうか、私の日だから」

「何処へ行くの?」「んー、ただの散歩」
「そっか。お腹すいたね」「そうだね」

「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」
「……ああ、はい」
「何処に座る?」
「カウンターにしようか」

「美味しい?」「美味しい」
「私が作ったものより?」「作ってた、の間違いでしょ?」
「あはは、そうだね」「それに、アレは食べられた物じゃなかった……」
「それ君が云うの?君だって料理壊滅的でしょ!」

「ねえ、手、繋ぎたいな」「繋げたらね」
「……繋げないね」「……繋ぎたいね」

「一緒にいけたら良かったのに」「でも私は、君が助かって良かったと思うよ」
「そうかな。まあ、君が私の物なことに変わりは無いしね」「それはこっちの台詞だなあ」

「本当に行かなくていいの」「私の墓へ?良いよ来なくて」
「……そう」「何時か君が死ぬ時来てくれれば良いから。今は来なくて良い」
「それはプロポーズかな?一緒の墓に這入ってくれって?」「バレた?」
「ふふ、君らしい」「でしょう?」
「次は何処へ行く?」「何処へでも。私の幽霊さん」
「莫迦だなあ、幽霊は君でしょ」「ああ、そうだった!」


『置いて行くことを赦してください。二人で逝こうって云ったのにね。
でも、これだけは信じて下さい。私はあなたを愛しています。
きっと死んでも、あなたの隣に居ます。
あなたが死ぬまで、きっとあなたの傍に居ます。』


「ねえ、君は幽霊なのかな」「さあ。でも、君の幽霊って事は確かだよ」
ツイート:2017.06.01
お題箱リクエストより「私の幽霊」


※太宰さんと太宰さんの妹。

紙を一回折った。『好き』と云う字が見えなくなる。
二回、三回と折って行くと、真ん中に薄っすらとインクが透けるのが見えた。
四回、五回まで折って、止めた。小さな紙だった。


「紙を折っていくと、孰れは月に届くらしい」

洒落ている、なんて思ったテレビの企画だ。紙は折って行けば段々厚くなる。理論上で云えば二倍の次は四倍、その次は八倍。二の累乗数倍。
そうして四十三回折れば、月に届くらしい。

早速やってみた。小さい用紙しか無かったのでそれを折る。
三回で諦めた。


「何をしているの?」
ふと治兄さんの声が聞こえた。
「紙を折っているのよ」
私は聞いた事をそのまま説明した。治兄さんはへえ、と頷いた。
「月に届くとは、素敵な事を考えるものだね。その理論だけで云えば地球上の何処へだって行ける訳だろう。でもその人は月を選択したのだ。きっと普通は行けない処を選んだに違いない」

私は「そうね」とだけ答えた。

「然し、君は如何して紙を折り始めたんだい?真逆月にでも行こうとしているの?」
「それこそ真逆。私はね、浄化しているのよ」


『月が綺麗ですね』。嗚呼、月は綺麗なのだ。
そうしてまた、『好き』という文字が見えなくなるまで折り畳んだ。
月に届けばきっと、月の光に変えて、この気持ちを消してくれるに違いない。

「浄化するならば、もっといい方法が有るよ」
そう云って、治兄さんがライターを取り出した。

治兄さんが火を付けて、私の気持ちは静かに塵に為って行った。
「屹度、こうした方が月に届く」

「……綺麗な火」
「そうだね。でも、私は、」

―――月が綺麗だと思うよ。確かに兄さんはそう云った。

「ねえ、この火が消えたら、君に、」
「ねえ兄さん。この火が消えても私はまた紙を折るわ」

兄さんの言葉を遮ってそう云うと、彼は顔を少し歪めた。

「…………そんな事をしたって、思いは消えない」
「だから続けるのよ。そうすれば形に為る事も無いから」

月に送るのだ。何回も何回も折ろうとして諦めて、そうしてまた一から折り始める。
私達の思いは、きっと形になってはいけないから。

四十三回折れば月に届くんですって。
私はね、貴方への思いを月に消してしまいたいのよ。
ツイート:2017.06.01
お題箱リクエストより「紙を43回折ると月に届くらしい」


※太宰さんと、彼から告白された女の子の話。

「お断りよ」
相手の顔が僅かに歪むのを真正面から見詰め云い切った。
「真っ平御免だわ」

甘やかされるのは厭ではなかった。寧ろ優しさも厳しさも伴う其れは心地良くて依存してしまいそうな程。彼は何でもしてくれた。私の為に。それが私への愛だと云って。
嗚呼、確かに貴方は其れを狙っていたのでしょうね。私が貴方に溺れることを。そうして逃げられない囚人になることを。

本当、反吐が出る。

「…………困ったな。君に拒絶される事は想定外なのだけれど」
「ええそうでしょうとも。私は貴方を拒絶しないし、否定しないし、嫌いになんて為らない。でもね、それは貴方の所為な訳でしょう」
「…………」
「此の侭じゃあ、私が『そうしたい』と思ってそうするのではなくて、貴方が全部仕組んだ通りの行動をすることになってしまうわ。そんなの厭よ」

―――――だってそれは、愛じゃないもの。

「私が操作していたとしても関係ないじゃないか。それだって君の感情に寄る行動だ。此の侭受け入れてくれれば屹度愛に変わるよ」
「いいえ、それは無い。自分の事だから良く判る。私の事を愛してもいない貴方に呑まれたくないのよ」
「――――――嗚呼」

彼がくつくつと笑う。優しかった笑みは何処かへ消え去った。本性を現した獣が牙を剥く。

「予定外、想定外だ。本当に君は面白い」
「趣味が悪すぎるわね。女を弄ぶのも大概になさったら?」
「御忠告ありがとう。処で、君は一つ思い違いをしているね」
「はあ……」
「却説、これからが本番だ」

あからさまに欲を剥き出しにした目線にぞわりと鳥肌が立つ。檻に這入るのを避けた筈なのに、手首に枷が嵌められた様な、そんな感覚だった。

「『そんなものは愛ではない』って?笑わせるね。愛の形が一つじゃ無い事すら知らない癖に。吐きそうなくらい甘いのはお好みではないようだし、そうだなあ、次は―――」

一歩、また一歩と距離を詰められる。後退りたいのを抑え、睨み付けた。
貴方の其れだって愛なんかじゃない、ただの色んな欲の発散じゃないの。

絶対に認めないと思いながら、然し頬に触れてくる手と熱を孕んだ視線に唇が震えてしまうのを、噛み締めて堪えていた。
ツイート:2017.06.05
お題箱リクエストより『「だってそれは、愛じゃないもの」』


※太宰さんと探偵社の女の子。

お帰り、無事でよかったと云った彼に、私は其れを真っ先に云おうとした。
然し、その言葉は私の口から出ることは無かった。
だから紙に書いた。その紙は今も、私の手の下にある。


「やあ、お早う」
『おはようございます』
「体は大丈夫かい?まだ一ヵ月しか経っていないんだ、無理は……」
『大丈夫ですよ。心配性ですね』
「君の心配なら幾らでもするよ」

彼は何時も私の事を気に掛ける。とある乱闘騒ぎに私が巻き込まれたあの日から。
それは私の所為だ。それなのに彼は自分を責めている。守れなかった自分が悪いと。

「御飯はちゃんと食べているかい?」
『勿論です』
「その割には具合が良くないようだけど……」
…………。『一寸最近寝不足で』
「休めって云っただろう!?ほら、今日の仕事は他の者に任せよう!」

私の言葉に彼が慌て始める。目の前に置いてあった書類やらファイルやらを取り上げる。

「さあ、帰ろう」
『でも、仕事』
「健康第一!屹度皆も納得するよ!」

この人も一緒に帰る心算らしい。私を、仕事をサボる口実にでもしているのかと時々思う。

然し、ふざけているように見えて、とても真剣な事を私は知っている。
その目に映すのが、明るい光だけでは無い事を、私は知っている。

「……あんまり、心配させないでおくれ」


―――お帰り、無事でよかったと云った彼に、私は其れを真っ先に云おうとした。
然し、その言葉は私の口から出ることは無かった。
だから紙に書いた。その紙は今も、私の手の下にある。

今も云いたい。然したった三文字でしかないその言葉を、私は見せる事が出来ない。
彼の顔を見る度にその葛藤が私を苛む。
然し、屹度彼は、首を横に振る。多分、他でもない私の所為で。
だから私は、其れを見せられずにいる。

でも、何時か、屹度見せたい。もう一度見たいから。
元の私達に戻れなくても。貴方に、悲しい思いをした侭でいてほしくないから。

だから、今もその紙を、私は捨てずに持っている。


※事件により声が出なくなり筆談する女の子と、守れなかったと悔やんで上手く笑えない太宰さんの話。
ツイート:2017.06.05
お題箱リクエストより「《笑って》」


「『皆さんの願い事が叶いますように』」

探偵社の備品を片付けていると、懐かしい物が出てきた。細い短冊に書かれた自分の字。
願い事が決まらないから書いた、ありふれた偽の願い事。

「何々―?七夕?」
「ひっ!?……何だ太宰さんか……驚かさないでくださいよぅ……」
「失礼だなあ、何処に驚く要素が合ったの……それ、去年のだよね」

確かに去年の物だった。今年の七夕はまだだが、あと一ヶ月ほどで訪れる。
そうしたらまた、皆で願い事を飾るのだろう。

「…………意味なんてあるんですかね」
「行事なんだから、意味なんてないも同然さ。夢があっていいじゃないか?」
「太宰さんは何て書くんです?」
「内緒」

うふふ、と笑う太宰に溜め息を吐く。「意味なんてあるんですかね」ともう一度呟いた。

「星に願ったから何だっていうんですか?紙切れに書いて誰に届くって云うんです?」

呟く様に続ける。
それが理由だったし、凡てだった。

「『Make a wish』」

「…………は?」
「云って御覧」
「め、めいくあ……?」
「あのね。『意味が無い』とか、『面倒臭い』とか思ったら、云い方を変えて御覧よ。自分が意味の判らない言葉にね。人は詳細が判らない方が案外物事を上手く出来る傾向がある」
「……」
「そうして判るのさ。『凡ては気分の問題なのだ』、とね」
「……そんな物ですか」
「So be it.(そんなものだよ)」

また知らない言葉を云って、太宰は行ってしまった。

「……めいく、あ、うぃっしゅ」

取り敢えず口の中で呟いてみる。すると「願い事をする」というありふれた行事が、途端に神聖な儀式に為った様な、そんな感じがした。

そんなものか。そっか。
私は微笑んだ。今年は、きっと何か書ける気がする。
ツイート:2017.06.08
お題箱リクエストより「Make a wish」


※マフィア太宰さんと、部下の女の子が散歩する話。

嗚呼、良い天気だ。

「如何だい、久しぶりに歩いた気分は」

隣に立つスーツ姿の男が声を掛けてくる。包帯だらけの此の男は、然し私より健康体なのだから救えない。

「最高ですね。これが一人だったらもっといいのですが」
「おや。つれない子だなあ」
「折角の良い天気を『入水日和』にする愚か者に云われたくありませんね」

良い天気。この天気をそう称せるのも、この僅かな時間だけ。彼も私も、そんなに時間は取れない。

「本当に良い天気だ。…………」
「何ですか」
「否?判るのかなって」
「…………良い天気ですよ?」

私の異能力は、『他より何倍も優れている聴覚』だ。
それは凡ての音を拾う。何なら、地球の裏側でコインを落とした音でも。

「嗚呼、青い空」

青い空が見える。とても綺麗な青だ。
青い空の音が聞こえる。私の『視界』は、今日も澄んでいる。

「青空は好きなのです。雨とか、雪とか、その音が聞こえないから、空の『音』が良く聞こえる」

私には視力が無い。異常な聴力が発達した影響だ。

「良く聞こえて、目が痛いくらいです」

ふと、隣の男が手を握ってきた。その途端、聞こえていた凡ての音が無くなって。
私の上には、唯青い空だけが残された。

「……まだ、聞こえる?」
「ええ、聞こえます」

彼の表情は見えないけれど、屹度不思議そうな顔をしているのだろう。
聞こえる。見えますよ。私には見えます。

この目に確りと浮かぶのです。貴方が語ってくれた空。貴方が手を握ってくれていると、私の中にそれだけが残り、私をいつまでも明るく照らすのです。

嗚呼、今日も。目に映る空があまりにも青くて、

「貴方が、見えます」
ツイート:2017.06.08
お題箱リクエストより「目に映る空があまりにも青くて、」


ソファに座って目を閉じる。直ぐに真っ暗になり、独りの世界となった。

「やぁ」
「……どうも」

聞こえてきた声に孤独が壊される。目を開けると、ひらひらと手を振りながら太宰が寄って来るところだった。
探偵社の外は暗い。もう皆帰って、此処に居るのは私達だけだ。

「お疲れの様だね。当然か」
「……ええ、まあ」
「悲しまないの?」
「さあ」

その知らせが来たのは数時間前の事だった。
仲が良かった友人だった。私の親友だった。
来た知らせが訃報でなければ、きっと今より私は元気だったに違いない。

「悲しんでいる様には見えないねえ」

太宰が笑って云う。隣にどさりと座る気配がした。
私は悲しんで居る様に見えないらしい。何故だろう。

「多分、泣けないからですかね」
「泣かないの?」
「泣きません。私は一人でないと泣けないのです」
「……ふうん?」

私は他人に涙を見せることが出来ない。友人も、私の涙は見た事が無かっただろう。

「私は弱いのですよ。他人に弱った姿を見せたくないとか、そう云うのではありません。泣くことを嫌悪している訳でもありません。泣く者が弱いと思っている訳ではありません。でも泣けないのです。私は一人、誰も居ない処でないと泣けないのです」

おかしいですか。と隣を見ずに問いかけた。いいや、と答えが返って来た。

「…………私もね、他人の前で泣いた事は無いんだ」
「貴方も、独りで泣いた事が?」
「さあね。自分が泣いた事が有るのか如何かすら、私には判らないのだよ」

―――嘗て、私も友人を亡くしてね。

「私の目の前で友人は息絶えた。その瞬間私は一人だった。一人になった。
だからね、私が泣いた事が有るかどうか、誰も知らないし、私にも判らないのだよ」
「…………」

私が黙った侭で居ると、ふと肩に重みが伸し掛かった。見ると彼は、此方に背を向けて寄り掛かって来る処だった。

「……一寸、私を枕にしないで下さい」
「却説、私はひと眠りしようと思うのだが」
「聞いてます?」
「君は一人に為る。此処には誰もいない」

その言葉にはっとする。

「独りでしか泣けない子だって、偶には人の温もりを感じながら哭きたいときもあるんじゃないかな」

返事が出来ずにいると、太宰の体から力が抜けて、やがて、しん、と音が消えた。
ただ、二人の呼吸音だけが聞こえていた。

『此処には誰もいない』
「えぇ、そうね」

応える声は無かった。ふと、小さな声が口から洩れた。堰を切った様に、目から、口から、感情の成れの果てが染みだしてくる。

私は一人だった。私は独りだった。
だから、私の涙を知るのは、一人分の温もりだけだった。
ツイート:2017.06.15
お題箱リクエストより『「此処には誰もいない」「えぇ、そうね」』

ALICE+