6月19日 何時かの桜の編

「太宰、おめでとう」
「?」
「あー、今日だったねえ」
「自分の誕生日じゃないか」
「……誕生日なんですか?」
「そうだよ。あーあ、また無為に年を取ってしまった」
「今日で十八だったか」
「まァね」
「…………」
「?如何したの?」
「いえ、…………矢張り人の子だったんだなって……」
「えっなにそれ非道くない」
「そうだぞ、別に此奴は犬の仔ではない」
「その突っ込みは違うと思うのだが」
「…………おめでとうございます」
「ん、ありがとう」

「太宰さん、おめでとうございます」
「ありがとう!祝福の接吻を」
「張り切って何時もより豪華な食事にしたのでさっさと食べて下さい」
「はあーい……」
「…………ふふ」
「?」
「出逢った頃はこの日を嫌がっていましたけど、この頃はそんな事無くて、私も嬉しいです」
「……それは、君が……」
「え?」
「……いや、何でも無い。頂きます」
「はい。召し上がれ」

知っていたよ。君が私を死神の様に思っていた事。君が私を見る目に、少しの怯えが混じっていた事。
それが、あの日は少しだけ変わったんだ。少しだけ君に近付けた気がしたんだ。
だからね、年をまた一つ重ねるだけのこの日が、ほんの少し特別になったのだよ。
ツイート:2017.06.19

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