〜細工師特製、白うさぎの耳のカチューシャと尻尾付きベルトセット〜 二
「一人なのか誰かと一緒なのかは分かりませんけど、耳にイヤリングかピアスは着けていましたよ。形まではよく見ていませんが、赤かった気がします」
 それを聞いたシュードとリリィ、ナスタが互いに顔を見合わせた。城で対峙した時に、女の耳元で何かが煌めいたのを確かに見たのだ。名も知らぬ彼女達が見かけたという薄い紫の髪の女が自分達の捜し人である可能性が高まる。
 そこに、もう一人の若い女性が情報を追加する。彼女は一体どういう訳か、色素の薄い頬を桃色に染め上げ、片手を当ててうっとりとしている。この様子は、シュード達がアルバレアでチェルシーの聞き込みをした際の数名の目撃者と似通っていた。
「あと、緑色の目でしたね。半開きって感じでしたけど、眠そうとかじゃなくて流し目がすごい感じの。睫毛も長くって、多分ちょっとだけ目が合ったんですけど、女の私でも何だか恥ずかしくなっちゃって。髪の色もそうですけど、今まで見たことないぐらい綺麗なお姉さんだったんですから」
「そ、そうですか」
 薄い青の目の女性から聞かされるのが件の人物の美貌を妙に詳しく語るものばかりで、シュードはその熱量と情報に引いてしまった。それはリコリスも同じだったようで、幼い顔は乾いた作り物の笑みを湛えている。心なしか歪んでいるのは感情を隠しきれなかったのか、あるいはわざとであるのか、それとも気のせいなのか、判断するのは難しかった。
 それぐらいかなぁ、と女性達から呟きが漏れたので、セージが爽やかな笑みのままで紳士的に礼を言った。
「ありがとうございます、とても助かります」
「いいのよ、これぐらい」
「お役に立てたかしら。この子達が見たのがあなた達の捜している人じゃなかったら、ごめんなさいね」
「いえいえ、いいんです。本当にありがとうございました。あの、さっき、売り物って言ってましたけど……」
 明るい茶髪の少女はそう言うなり、ちらりと四人組の大きめの荷物を一瞥する。すると、リリィの意図を読んだらしい黒髪の年配の女性が「あらあら」と苦笑した。
「大した事してないし、気を遣わなくてもいいのよ」
「えっ、でも、どんなのか気になっちゃって。ちょっとだけ見せてもらってもいいですか?」
 リリィは四人組の品物を買うことで礼をしたいのだ。そして、売り物の正体が気になるのは嘘ではない。気持ちを汲んだシュードが「もしよろしければ、お願いできませんか」ともう一押しすると、年配の女性達は根負けしたように笑いながら荷物を広げ始めた。
 ――結局、リリィは白いうさぎの耳を模したカチューシャと尻尾が付いたベルトのセットを買ったのだった。


 夕食と入浴を済ませた四人は、男性陣の泊まる部屋に集まっていた。プレアデス王家直属ヒーラーのリリィが靴擦れの手当てをする為である。
 男性二人の治療が終わったその時、リコリスがやってきた。聞けば、シュードの服を繕いに来たというのだ。シュードはこの日の初めての戦闘で、滑空する鷲型の魔物の爪を左の二の腕に受けた。咄嗟の身のこなしとベテルギウスの衣服の厚みが功を奏して掠り傷で済んだのだが、コートもニットチュニックもインナーも一度に破かれてしまったのである。出血量はごく少なく、負傷直後にリリィが霧の民の特殊術〔ヒーリングミスト〕で治したので、服に血が付着することはなかった。だが、戦闘の後に着いた別の憩いの小屋では「急いでいるから」と服をそのままにしていたのだ。リコリスはそれをしっかり覚えていたらしい。
 リコリスが慣れた手つきであっという間に修繕を終えると、リリィがウエストポーチとは別の鞄をごそごそと探り出した。目的の物はすぐに見つかったようで、シュード達に「見てみて」と瞳を輝かせながら差し出してくる。
「それは、さっき買った物?」
「そう、白いうさぎさんの耳と尻尾!」
 空色の髪の少女が指摘すると、リリィは満面の笑みで頷いた。ほくほくとしている明るい茶髪の少女の手には、白いうさぎの耳を模したカチューシャと尻尾がついたベルトが乗っている。この宿のロビーで出会った女性達から買った物だ。散々悩んで選んだ品物だからなのか、話の流れでの購入にしてはやけに嬉しそうである。
「マジでよくできてるよなー、めっちゃ手触りよさそう」
 セージがその出来栄えに感嘆の声を上げる。言葉にはしないが、シュードやナスタ、リコリスも感心していた。耳介の内側の毛量は本物よりも随分と多いが、すらりと伸びた長い耳と丸っこい尻尾はまさしく可愛らしくデフォルメされたうさぎのそれだったのである。
「これ、魔物かどうか知らないけど生き物の毛だよね。何のだろう……ん?」
 ふかふかのうさぎの耳をつんつんと控えめに突くリコリスが首を傾げたのと、シュードが目を見張ったのは同時であった。
(この魔力は、まさか……)
 魔力を見透かせるシュードの目には、カチューシャとベルトから見覚えのある魔力が宿っているのが分かったのだ。同じ能力を持つリコリスも、妙な力に気が付いたらしい。
「リリィ、ちょっとそれ貸して。変な魔力がある」
「えぇっ!?」
「へ、変な魔力!?」
 魔力を見ることのできないリリィとセージは、心底驚いた。妙に出来のいい以外には何の変哲もない装飾品から「変な魔力が見える」と聞けば、その反応の大きさにもなるであろう。リコリス達にはこちらの事情をほとんど明かしていないが、王族たるセージは尚更だ。その御身に何かあっては国際問題になりかねない彼は、顔を強張らせてソファーから腰を浮かせる。一方で、同じく王族のナスタは落ち着いた様子でじっと装飾品を見つめている。絨毯の上に正座していたリリィは飛び上がらんばかりだったが、慌ててリコリスにカチューシャと尻尾を渡した。
「……リコリス、俺にも見せてくれないか?」
「ん? ああ、キミも見えるの?」
 このアズールに住む者ならば、この会話の流れで見えるものと言えば魔力しかない。深緑の髪の青年が頷くと、空色の髪の少女は「そういうことなら」とベッドに腰かけるシュードの隣に座った。彼には安全性が不確かな物を王族二人から少しでも引き離したい意図があったので、リコリスが件の物をこちらに持って来たことは望ましかったのだが――。
「ナスタも見てみる? キミも見えるんだろ?」

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