セックスの時に顔を見られるのが嫌いだ。
理由は恥ずかしいから……だったらどんなに可愛げがあったか。相手の男には俺で気持ちよくなってる、なんて勘違いして欲しくない。私があんたに合わせているだけ。その下手くそな腰使いで感じてるフリをしているだけ。こんなのはセックスじゃない、私があんたのちんこで自慰をしているだけだ。
えっちが好きってつまりそういうこと。そりゃ相手が好みのタイプである以上に喜ばしいシチュエーションはないけれど、あくまでそれはオマケ。血の通うペニスを持つヒエラルキーの上位に立つ男が私を求めて、衝動に駆られる姿が最高に気持ちがいい。第三者が見たら笑うようなちゃっちい優越感でも、事実であることに変わりはない。
男の思い通りになんて絶対にならない。屈服させようとする魂胆からして吐き気がする。いつか罰が当たりそうな危ない思想だが、実際失態を晒したことはなく、関係を持った男達とは思惑通りの遊びを楽しんだ。だからこれから先もずっとそんなことばかりして生きていくのだと、
脳みそに電流を流されたのだと名前は思った。視界が真っ白に染まり、神経の束がぶちぶちと千切れていく。下腹部の辺りから押し寄せる濁流に堪らず首を仰け反らせ、忘れてしまった息の仕方を思い出そうとして、また叩き落される。己の死を悟り恐怖からくる尿意に太ももがぶるりと震えた。
「まッ、て!や、ぁっ、ンッ...!」
「ん...大丈夫。体の力を抜いて、ゆっくりと息を吐いてごらん」
名前の霞む視界に男の姿は見えず、代わりに研ぎすんだ耳の奥へ優しい声が語りかける。その心地良さに逆らう気力が失せ、肩から爪の先にかけて言われた通りにすれば温かくて大きな何かが頭を撫でた。
「いい子だ」
「あ、ぅ...」
こんなはずじゃなかったのに。僅かに咲く理性の花が訴える。ぐずぐずに溶けた全身が未知の余韻に震える。名前は自分の体に起きた衝撃を理解できず、しかし不本意な状況であることだけは分かっていた。何とか呼吸を整えて玉のように溢れる汗を拭う。それから好き勝手に彼女の体をおもちゃにする男を力の入らない瞳で睨みつけた。
「け...、結局あんたもこういう展開を望んでたんでしょう?とんだスケベね」
「そういう君は嬉しくないのかい?」
「当たり前よっ」
激しく憤慨する名前にアーサーはベストを脱いでからワイシャツのボタンを解く手を止める。
「聞いた話には誤差があったようだ。何が不満なのか教えてもらえないだろうか」
セックスにおける攻守関係の思考はノーマルのつもりだが、アーサーの施す責め技は名前がこれまで体験したことのない勢いで彼女の脳髄を揺さぶった。勝負を終えてなお名前の体に食いついたアーサーにしたり顔をできたのは最初のうちだけ。体の持ち主すらも知らない秘所の奥を暴かれる感覚は快感を通り越して恐怖へと変わる。一つ訂正するならば名前は未だちゃんとセックスをする気満々ではいる。いるのだが、うっかり自我を失うような激しい快感を与えられるのはもうこりごりだ。
「もう気持ち良くしなくていいの!」
アーサーの手によってコツコツと時間をかけ、いじめられた蜜壺から触れてもいないのにぷちゅっと愛液が飛び出る。制御の効かない体を震わせて、一人でに快感を拾うはしたなさときたら。
「そうか。君は行き過ぎた快楽が怖いんだね」
「...っ」
図星を突かれて名前は伸びるアーサーの手を思わず弾く。力の入らない太ももを叱咤し、天蓋付きのベッドの奥へと逃げ込んだ。自分から誘っておいて、と笑われようがこれ以上心の内を見抜かれたくない。その一心でアーサーを睨みつける。
「やっぱり帰る。もういい」
「勝負に勝ったのは僕のはずだよ」
「散々帰れって邪険にしたくせに!」
初期の構図が完全に入れ替わり、名前は予想外の展開に頭を悩ませる。今まで通り名前そっちのけに自身の悦楽を貪る男達を相手にしている方がよっぽど楽だ。何故こうなってしまったのかと後悔の波が遅れて押し寄せる。
「無理強いはしたくないんだ」
困ったような笑みを浮かべるアーサーに、つい絆されそうになるが客観的に見る彼の姿は抵抗する女に迫る男のそれだ。四つん這いで迫る顔の良い男に、名前は今更になって逃げる方向を間違えたと気づいた。
「僕に任せてくれないだろうか?これ以上君の嫌がることはしないと約束しよう」
「......。」
一度はハニートラップに引っかかり、二度目はAV俳優並みの演技に引っかかり、三度目もあると思ったら大間違いだと名前は鼻を鳴らす。こんなにも思い通りにいかない男は初めてだ、と目を伏せた一瞬の隙を突かれた。
「名前、おいで」
あ、と声をあげた時には遅く、無防備だった足首を掴まれてしまう。爽やかな顔からは想像のつかない力によって引き摺られ、名前はアーサーの腕の下に閉じ込められた。瞬きの合間のことだった。驚きに目を見張る彼女の隙を突いて腰に取りまくドレスを取っ払う。アーサーは、生まれたままの姿となった女体の上に逃げられない程度に体重をかける。そうしてハリのあるまろやかな双丘を下からすくい取るように揉みしだいた。指の中で歪に形を変えては元に戻る弾力を楽しみながら、既に散々弄り回され真っ赤に主張する突起をつつく。被虐の気質があるのか、軽く爪を立てたり歯でかじかじといじめてやるとすすり泣くような甘声を上げて喜んだ。と、アーサーは勝手に思っている。
「ひぃ、あッ、かっ、噛んじゃダメッ」
寝台でむせび泣く女の"ダメ"ほど嘘にまみれた言葉はない。それが艶を帯びているのなら尚更。最初に触れた時にはワザとらしく甲高い声を上げるだけだった名前も今となってはそんな演技をする余裕はない。ただ、イイ男の象徴のような雄が自分の胸に吸い付く様を見ていると、怒りに覆われていた優越感がむくむくと顔を出す。帰ってやるという意地は風前の灯となり、勝手に嬌声を上げる口を押さえるので精一杯だった。
「声、聞かせてほしいな」
「ふ、ぅ...ン、っ...!」
そう言われると意地でも出すまいと強固な意志が宿る。しかしそれはアーサーも同様だ。頑なに目を瞑り、感じまいとする女のもっとダメな顔見たさに責め場所を徐々に下へと移していく。愛の言葉を語る代わりと、彼女が彼にしてあげたようにもどかしいバードキスを落としながら茂みを掻き分ける。胸と同じく、いやそれ以上にしつこく責め立てた秘所はまだしっとりと愛液が残っていた。
胸をいじられただけで抵抗らしい抵抗もできないまま腰砕けになってしまった名前の痴態にアーサーは満足そうに微笑む。それが小生意気な雌を己の下で鳴かせている悦楽からくることに、名前は気付くことができない。意地悪の限りを尽くした秘所の筋を一撫ですると、案の定ふしだらなつゆが糸を引く。たったそれだけで名前の意思は決壊した。
「ひぅ、ッあ...っん」
噛み締めきれない唇から聞こえる音にきっと彼女自身は気づいていない。自分がどれだけ蕩けた声を漏らしているか。だがアーサーにすればその方が都合が良い。割れ目をしつこく丁寧に往復させれば指先の動きに答えるように次々と興奮の汁が溢れてくる。肌に触れる男の指が未知の快楽を教えてくれることを知っているのか、本人の意思を裏切って肉ビラを開き歓迎する。人差し指と中指を使い、その手助けをしてやるとすぐにヒクヒクと彼の指を待ち望む肉壁への入り口が露わになった。試しにふちをなぞるように円を描くとたったそれだけで名前の腰は跳ね、新たな淫汁を吐き出す。
「凄いな...」
「ゆ、ゆうなぁっ...!」
つい漏れてしまった純粋な感想に名前は顔面から燃え滾るような火を噴いて、男から逃れようと腰を捻った。そんなことはもちろんアーサーが許さない。本当は嫌でないはずなのだが、何かある度に小さな意地を張って逃げようとするのは良くない。皮被りのままでありながら、それはもう見事な乱れ様を見せた名前にもっと気持ちいい事があるのだと教えてあげたらどんな反応を見せるだろうか。
その気になれば片手一つで拘束できる力関係であることを彼女は知らない。じゃじゃ馬を窘めるように花芯を掠めれば途端に怯えるような瞳がアーサーを射抜く。
「ダメッ、そこはもういや!」
「本当にそうかな?確かめてみよう」
「やっ、あッ...!」
性行為には慣れているようだが快楽には慣れていない。アーサーの見立て通り、やはり名前の色香は酷くアンバランスな要素で成り立っている。肉付きの良い太ももをしっかりと押さえつけて、アーサーは尻穴まで垂れた蜜をすくい彼女の陰核に塗るように押し当てた。指の先でこりこりとしつこく丁寧に掻いてやると、ビクビクと名前の足が跳ねる。
「ンっ、…ぅ、ッふ、あうっ」
「気持ちいい?」
「や、やぁッ、なにこれっ…!」
「うん、大丈夫そうだ。良かった」
膣のふちまわりや尿道辺りを同時になぞりながらアーサーは愛液の力を借りて名前の全てをぐずぐずにとかしていく。マッサージを施すようにそんなことを続けられたらおかしくなるのは必然と言えよう。名前は声を抑えるために口に当てていた手をいつの間にか外し、代わりにぞわりと身体中を走る快感から逃げるように手元のシーツを手繰り寄せる。秘所から湧き上がる官能は、まるで下から半分が自分の体ではないような錯覚を覚えさせた。
アーサーは女体のを全て知り尽くしている。その証拠に彼の動きには迷いがない。次はどこを触ればいいのか、どのくらいの力加減で責めればいいのか把握した上で遠慮の一つもなく責め立てる。今まで何人の女をこうやって苦しめてきたのだろう、ぼんやりする意識の中で名前はふとそんなことを思った。
「名前、集中して」
「あうっ!…っ、は、ひぃ、ッ」
アーサーの指の動きが速まる。まだ指すら入れていない名前の蜜壷周りは酷く濡れそぼり、くちゅくちゅと音を立てて彼女の聴覚すら犯す。もういいからもう十分だからやめてほしい、何度言おうと思っても自分のはしたない声に遮られる。かくかくと揺れる腰に自覚があるのか無いのか名前は何度も甘い息を吐いた。そんな彼女の様子を見てアーサーはそろそろか、とタイミングを狙う。
「きゃぁ?!」
頭の中を焼き切るような衝撃に、驚きと嬌声の入り混じる声を上げた名前は、彼女の行動を予測していたアーサーによって満足に足をばたつかせることもできないまま衝撃に目を見開く。痛くはない、けれどそれ以上に経験したことのない、頭の中をひっくり返されるこの感覚は。
半ば放心状態の名前の様子を伺いながらアーサーは再び二本の指と柔らかい舌を陰核へ寄せる。しっかりと覆われていたそこは本人の意思とは裏腹に度重なる刺激によって少しずつ皮を押し上げ更なる快楽を求めて真っ赤に震えていた。横へ開くように押しびらいてからアーサーは魅惑の果実をちろりと味わう。
「!?っあぁ〜〜〜ッッ!!」
触れるか触れない程度のやんわりとした刺激。舌先を使い軽く弾くようにしてアーサーはクリトリスの味を堪能する。どんどん膨れていく過程を時折目で確認しながら、片方の手は割れ目への刺激を怠らない。あの王子様のように綺麗な顔が自分の大事な部分を舐めていると思うと名前は羞恥を通り越して恐怖すら感じた。
「っ、ひっ、あ!だめぇ!!これだめ!」
「気持ちいいことはおかしなことじゃない。極々普通のことだ。恥ずかしがる必要はないんだよ」
「でも、っ...むり、へん」
そんな風に言われても無理なものは無理と名前は首を振る。アーサーが名前に施す手業はこれまでの性行為における彼女の常識を覆すものばかり、全く理解が追いつかない。カジノのラウンジでいやらしく彼を誘った女とは似ても似つかない姿にアーサーは小さな疑問符を抱く。アーサーの頭を押し留めるようとする。その抵抗がどうにも必死で、アーサーは仕方なく彼女の秘所から顔を離した。
「名前、もしかして君は性行為の最中に絶頂を迎えた経験がないのでは?」
一度名前の胴体から起き上がり、横から彼女の腰と肩を抱くようにしてアーサーは問う。からかっているのではなく真面目に疑問を呈する男に名前は自然と頷いていた。性行為で絶頂を迎えることができない。それは不特定多数の男達と関係を持ちながら続いていく名前の悩みだった。体を触られるのは気持ちがいい。しかし、イクという感覚はよく分からない。素直に吐露する彼女を見つめ、真摯な瞳が僅かに揺れる。同情とは違う、男の思考をなぞろうにも完成された容姿故に読みとれない。
「...そうだね、うん。決めたよ」
言うなりアーサーは力の抜けた名前の足を太ももからひっくり返す。膝裏を抑え込み、横から彼女の秘所を弄りやすいように体勢を整える。本当に一瞬の出来事だった。唐突に光の元に剥き出しとなった陰核の先から尻穴にかけて名前はパチパチと目を瞬かせる。
「へ、は?」
「僭越ながら、今夜は僕が君の悦楽を引き出してみせよう」
「い、いや。もう十分だから...、」
「嘘はいけない。まだ絶頂を迎えていないじゃないか」
しとどに濡れた汗によって顔に張り付く髪の毛を彼は丁寧に剥がしていく。最初に会った時のような穏やかな表情に名前は引き攣った笑いを返すだけ。アーサーの勝手な蹂躙を止めることなどできない。
「多分、もうすぐかな」
何を、と聞き返す前に再び花芯を舐められて、脳内を歪な電流がつん裂く。再び止めさせようとした腕は自身の膝に邪魔されて届かず、片腕だけを使って彼女の自由を封じた男は両手と舌先を使い簡単に彼女を高みへと導いていく。クリトリスから尿道口、膣の周辺に至るまで全てを同時に追い立てられ、洒落にならない快楽にバチバチと目の前で火花が弾けた。
「…あッ、っ゛…はぁ゛っ!...あっ!やぁ!」
文字通り、気持ちが良すぎて苦しい。今までとは比べものにならない刺激を立て続けに与えられる。名前は本格的にアーサーの手で全てを染めあげられる興奮を覚え始めていた。体の中心、分かりもしない子宮の奥から沸々と込み上げてくる謎の感覚。痺れるような甘い劣情がじわじわと盛り上がっていく。そんなつもりなどないのに、否応無く迫る"何か"。それは最初こそさざ波程の違和感でしかなかったが、アーサーの動きに合わせて飛ぶようにその段階を上げていく。
「やぁ゛、やめへっ、アーサーッ...!」
「爪先曲げて、力を入れてごらん」
「あ、あ...ぅ?っ、こう?」
一瞬、我を見失う。世界が全部吹っ飛んで真っ白に染まった視界にはアーサーの姿すらなく、名前は死んでしまったのだと確信した。
「っ゛、...〜〜〜っっ!...ぅ、ッあ!!」
その時を迎え、他者の手によって初めて迎えた絶頂感に名前は悶える。太ももは痙攣を繰り返し、勝手に飛び散った愛のつゆがアーサーの手を濡らす。陸に打ちつけられた魚のようにびくびくと腰を跳ねさせる名前の痴態。それを隅までしっかり目に焼き付けてからアーサーは乱れた頭に小さくキスを落とした。
「ん、上手にイけたね」
よくできました、と頭を撫でるその手つきに名前は思わずうっとりと身を委ねる。荒い息を何度も繰り返し、快感を引き出される行為の終わったことにほっと胸をなで下ろす。
「それじゃあ次は中を刺激しながらクリと一緒にイッてみよう」
「は?」
いや、名前もこの歳にして多くの男達とセックスをしてきた身だ。これで終わるはずがないと薄々心の中で分かってはいた。が、体を襲う倦怠感が、太ももの走る甘い痺れが、限界を訴えている。もうこのまま寝てしまいたい、と疲労を感じていた矢先アーサーは何てことないように言い放つ。涼しい顔で秘所弄りを再開しようとする男にサッと血の気が引いた。
「いいよ、もう...入れて...」
「そういう訳にはいかないよ。いくらは愛液で濡れているとは言え、しっかりほぐさないと快感より痛みが優ってしまうからね」
「......。」
生真面目なのか天然なのか。眼前の女は彼の想像以上に弱り果てているにも関わらず続けようとするその所業。名前はぐってりと力の入らない体をアーサーに預けながら、瞳だけは鋭く彼を睨みつける。体は完全に溶けきっているのに、生粋のプライドの高さがギリギリのラインでアーサーを受け入れない。反目する心と体を次はどう責めてやろうか男は想像に胸ときめかせた。
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