自信


今日は久しぶりに近藤さんとお出掛け。
と言ってもデートというほど大層なものではなく、ただの買い物なのだが、それでも二人だけで出掛けられるのは嬉しかった。

「じゃあどこのお店から回りますか?」

「そうだなぁ…じゃあ…」

隣を歩きながら、近藤さんの顔を見上げる。

「何?」

「あ、えっと……手……繋いでもいいですか?」

折角、久しぶりに二人だけで出掛けるのだから、少しくらい甘えても…

「えっと…うん。」

近藤さんは自分の頭をがしがしとかきながら、それとは反対の手で、私の手を優しく握る。
嬉しさと照れくささを顔に浮かべながらお互い顔を見合わせて笑う。
それが凄く幸せだった。





目的の店へ向かって歩いていた時、ふと前方から見覚えのある姿がこちらに向かって歩いてくるのが目に留まった。

その人を見た瞬間、反射的に繋いだ手を離して立ち止まり、俯く。
近藤さんも何事かと歩みを止め、後ろを振り返る。

「夢子ちゃん?どうし…」

「あれー、近藤さんじゃないですか。何してるんですか、こんなところで。」

「え、あっ、新八君にお妙さん、お久しぶりです!偶然ですね!」

「本当、久しぶりですね。このまま一生会わなくて良かったんですけどね。」

にこにこと笑顔のお妙さんと弟の新八君が近づいて来る。

別に悪い事をしているわけでは無いが、二人に…いや、お妙さんに近藤さんと私が一緒にいるのを見られてはいけない気がした。

私が嫌なわけではなく、近藤さんが私と一緒に居るのを見られるのが嫌なのではないだろうかと思った。
それは近藤さんを気づかったわけではない。
繋いでいた手を振り払われたとしたら、突き放されたとしたら……結局は自分を守ったにすぎないのだ。

「ちょっ、お妙さん!酷いじゃないですか!」

「にしても、本当に久しぶりですね。最近はまったく姉上の所に姿現さなかったですもんね。」

「いやー、ははは。」

近藤さんの少し後ろで、できるだけ気配を消そうと静に俯く。
気付かないで。
私に気付かないで。

「あれ、その人は…近藤さんの友人ですか?」

びくりと肩を震わせる。
無駄に目敏い眼鏡が憎らしい。

「あ…えっと…」

何と答えたらいいのかわからずきょどってしまう。
友人?同居人?
いいわけをぐるぐると考えていた時、コホンと咳払いをして近藤さんが私を紹介する。

「夢野夢子ちゃん…俺の彼女です。」

それを聞いて思わず、えっと声をあげてしまった。
しかしそれ以上に驚きの声をあげたのは目の前の二人だった。








唖然としている二人を残して、近藤さんは私の手をひいて道を歩いていた。

「あっ、あのっ、近藤さん!いいんですか?」

「え、何が?」

歩みを止めて私の方を振り返る。

「あの…お妙さんに……私を彼女だとか紹介して……」

「えっ、ダメだった!?」

「いや、私はいいんですけど…近藤さんは……」

「俺?」

意味が解らないときょとんとした顔で問いかけてくる。

「近藤さんの…好きなお妙さんに…そんな事…」

「……え…?」

「だ、だって、彼女がいるなんてお妙さんに言ったら余計に相手にされなくなっちゃうじゃないですか。」

「……夢子ちゃんは、俺がお妙さんと付き合って欲しいの?」

いつもと違う、押し殺したような低い声で私に問いかける。
私を見つめるその目は見たこと無いような目で。

「それは………でも、近藤さんが好きなんだったら私は…ッ……私は2番目でも3番目でも構わないです。近藤さんに見てもらえるなら。」

本当はそんなことない。
そんなわがままを読まれないように目をふせる。

「俺って、そんなに信用無いかな?」

視線をあげると、悲しいような切ないような辛そうな顔をした近藤さんが目に入る。

「そんな事…っ!」

「確かに前はお妙さんが好きな時があったよ。でもそれは過去の話。今は夢子ちゃんが1番大事で1番大好きなんだ。」

近藤さんの真剣な眼差しが真っ直ぐ私の目を射抜く。

「私は……うぬぼれていいんですか?」

「うん。」

「近藤さんの彼女だって…胸を張っていいんですか?」

「うん。むしろ、俺が心配なくらい。」

ニカッと笑ういつもの近藤さんがいとおしくて、その言葉が嬉しくて。
近藤さんに抱きついて潤む目を閉じた。









その時、その二人を目撃した志村姉弟が再び唖然とした後、驚愕の声をあげていたのを二人は知らない。




 





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