彼の優しさ


オーブンからこんがりと焼きあがったクッキーを取り出す。
するとバターとチーズのいい香りが台所を満たしていった。

「いいにおいだな。何作ってたんだ?」

いつの間にか私の後ろに近藤さんがやってきていた。

「今日は土方さんの誕生日でしょ?お祝いにクッキーでもと思って焼いていたんです」

ほら。とたった今オーブンから取り出したチーズクッキーを近藤さんに見せる。
土方さんは甘いものがあまり好きでは無いから、甘さ控えめでお酒にも合いそうなチーズクッキーにしたのだ。

「へぇ、うまそうだな。1つもらっちゃお」

熱いから気を付けて。と言う前に近藤さんは天板からクッキーを摘み、あちちと言いながらひょいと口に放り込んだ。

何度も作ったことがあるだけあり、焼き色もいい感じだ。
自信はある。

「どうですか、おいしいですか?土方さん用なんでいつもより砂糖は少なめにしてるんですけど」

「ん?あ、あぁ…そうだな。いつもより甘さは控え目だな。うん」

いつものリアクションとは違う気がした。

「あ、あんまり美味しくなかったですか?」

少し残念に思う。

「いや、全然!そんな事ないよ!むしろ美味しすぎて独り占めしたいくらい!全部俺がもらっちゃおうかなー!」

そう言っていくつか摘んで口の中に放り込んでしまった。

そんなにうまく出来たのかな?

自分も味見をしようと、一番小さなクッキーを1つかじる。

「あっ」

途端に口の中にバターとチーズの風味が広がり、少しの塩分にさり気ない甘さを感じる。
はずだった。

「んん!?かっからい!」

自己主張し過ぎる塩分に口の中がエグくなる。
慌ててコップに水を汲んでごくごくと飲み干す。

これは明らかに、塩と砂糖を入れ間違えた典型的な失敗だ。

「夢子ちゃん、大丈夫? 」

「は、はい…お水飲んだので落ち着きました…って、近藤さんこそ!大丈夫ですか!?」

あの塩辛い失敗作を3つ4つと食べていたはず。

「あ、あぁ、大丈夫!」

そう言って笑顔で次のクッキーへと手を伸ばしていく。

「食べちゃ駄目です!すいません、失敗しちゃいました!…無理させてしまってすいません…」

この人はいつも優しい。
きっと今回も、私が落ち込まない様にこんな物を無理して食べてくれたんだ。

しょぼんとうなだれながら、近藤さんの手の中にあるクッキーを回収しようと手を伸ばすと、唐突に伸ばした手をがしっと握られた。
何かと顔を上げれば真面目な顔をした近藤さんと目が合った。

「無理なんてしてない。夢子ちゃんの作ったものだから、全部欲しい」

「あ、ありがとう…ございます」

クッキーの事を言っているのは解っているが、その一言が私の事を指しているように感じてかぁっと、体温が上がる。

自分にはもったいない程の近藤さんの優しさが嬉しい。
ふわふわと心が暖かい。

だからと言ってこれを食べさせるわけにはいかないのだ。

「でも、これはもう食べないでください。」

「でも…」

「こんなに塩分をたくさん取ってしまったら病気になってしまいます」

「いや、俺、体は頑丈だから…」

「私、元気な近藤さんと少しでも長く一緒に居たいです」

そう目をじっと見つめて訴えれば、ふっと笑って手に持ったクッキーを渡してきた。

「確かに。それは俺も同じだ」

「ふふ、お揃いですね。…またクッキー作ります。その時、また食べてくれますか?」

「もちろん!楽しみだなぁ。今度こそ全部食べるぞ!」

「ありがとうございます。今度は近藤さんが全部食べれるようにおいしいの作りますね」

お互いふにゃりと幸せそうに笑顔で見つめ合う。
これからは気をつけよう。こんな幸せが少しでも長く続くように。





「ねえ、沖田隊長。夢子ちゃんって副長のプレゼントを作ってたんじゃなかったでしたっけ?」

「土方さんにはあのクッキーにマヨネーズぶっかけたの渡しとけばいいんじゃねぇか」




 





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