最近夢子ちゃんの様子がおかしい。
妙にコソコソしているというかよそよそしいというか…何かを隠しているようなのだ。
そして俺は、彼女が何を隠しているのか知っている。
今は八月の末。もうすぐ俺の誕生日だ。
つまり、夢子ちゃんは俺のためにサプライズでバースデーパーティの準備をしているようなのだ。
それ自体はめちゃくちゃ嬉しい。
それだけ俺の事を考えてくれているんだって思うと、慌ただしく動き回っている彼女を見ると思わず顔がにやけてくる。
でも、妙に心に引っかかる事もあるのだ。
先程から俺の部屋の前を行ったり来たりと忙しそうに走り抜ける可愛らしい足音が聞こえていた。
男だらけのこの屯所内で、走り回るこの小さな足音の主は襖を開けて確認するまでもなく彼女のものだというのがわかる。
目を通していた書類を机に置いて立ち上がり、彼女が再び俺の部屋の前を通るのを襖の前で待つ事にした。
それから数分も経たないないうちにパタパタと彼女の足音が近づいて来るのが耳に届いてきたので、その音に合わせてスッと襖を開けて廊下に出る。
「わわっ!こ、近藤さん!ビックリしたぁ…」
「あ…夢子ちゃん…偶然!どうしたの?そんなに急いで」
我ながら白々しいとは思ったが、夢子ちゃんは特に気にした様子も無く会話を進めた。
「いや、ちょっといろいろありまして……あ!それでちょっと土方さんを探してるんですけど、見かけませんでしたか?」
「トシ…?」
彼女の口から出たその名前に僅かながら眉が動いた。
「はい。先程から探してるんですけど、全然見つからなくて…今日は見回りの日じゃないから屯所内にいると思うんですけど…」
もぞもぞと自分の内に嫌なモノが這い上がってくる様だった。
「いや、知らんなぁ。もしかしたら休みって事で外にでも出掛けてるんじゃないか?あっ休みといえばさ!俺も今日休みなんだよねー!良かったら今からお茶でも行かない?」
「あ…ごめんなさい…今日はちょっと…」
しゅんとしながら謝る夢子ちゃんにきゅうと心が締め付けられる。
「いや、全然大丈夫だから!そうだよね!忙しいって言ってたもんね!俺こそごめん!」
がしがしと頭をかきながら謝る。
忙しいのも断られるだろうというのも解っていたのに…思わず声をかけてしまった。
そしてそのせいで夢子ちゃんにこんな顔をさせてしまった自分に自己嫌悪を抱く。
「いえ、そんなことないです!…あの…その代わりに、来週ー…」
夢子ちゃんの口から紡がれる言葉を待つ。
しかし、それは形にならなかった。
「あ!土方さん!」
彼女は俺の後ろに向かって、俺ではない名前を大声で呼んだ。
それにつられるように俺もゆっくりと後ろを振り向くと、丁度こちらに向かって廊下を歩いてくるトシと目が合った。
気持ちを飲み込んで声を出そうとした時、俺の隣を夢子ちゃんが通り抜けて行った。
「土方さん。朝からずっと探してたんですよ!」
「あぁ、わりぃ。アレがなかなか手に入んなくてな」
「じゃあもしかして有ったんですか?」
楽しそうにこそこそと俺の目の前で会話をする二人。
そこに俺は居なくて、それでも二人は楽しそうで、二人を見るとお似合いに見えて…。
先日からずっと感じているソレがまた体を這いずり回って行く。
「ふ、二人で一体何の話?」
ソレを奥に押し込んで笑顔を浮べ、二人の会話に割って入った。
「え、えっとー…何でもないです!ね、土方さん!」
彼女は笑顔をトシに向ける。
「あーっと、私達用事が有ったんだ!すいません、近藤さん。お話はまた今度でもいいですか?」
あぁと頷けばホッとした様な表情を浮べ、じゃあと彼女はトシと一緒に遠ざかって行った。
それを見送り、俺は再び自室へと籠った。
「近藤さん!お誕生日おめでとうございます!」
夢子ちゃんを筆頭に計画したサプライズバースデーパーティは、今までの人生の中で一番素晴らしいのではないかと思えるようなものだった。
真選組のヤツらも凄く楽しそうで、勿論俺も凄く楽しかった。
しかし、チラチラと目に留まる二人に心のどこかが握り潰されるようだった。
時計の針が11を過ぎた頃、6時間にも及ぶパーティもお開きになり、各自パラパラと部屋へと戻って行った。
俺も夢子ちゃんも自室へと戻るべく並んで廊下を歩いていた。
「今日は本当にありがとう。すっげぇ楽しかった」
「そう言ってもらえると嬉しいです。頑張って準備をしたかいがありましたよ」
そうやって俺に笑いかける夢子ちゃんを愛おしく思う。
「最初考えてたよりも結構準備が大変で、かなり土方さんに助けてもらったんですよ。さすがフォローの上手な土方さんですね」
その言葉にぴくりと体が反応する。
それには気付かず、夢子ちゃんはくすくすと笑いながら、着いた自室の前に立って俺を見上げた。
「すいません。今日の主役なのに部屋まで送って頂いて。ありがとうございます」
それではと振り返って襖を開けようとする夢子ちゃんに両手を伸ばし、逃げられないように後ろから抱きしめた。
「えっ…ど、どうしたんですか!?」
あわあわと慌てて、俺の顔を見ようとする夢子ちゃんを動けないように更に力を込めて抱きしめる。
「…近藤さん?…苦しいです…」
はっと我に返って腕の力を緩めれば、ゆっくりと振り返った夢子ちゃんの揺れる瞳に情けない顔をした俺が映っていた。
「どうしたんですか?私、何かしちゃいましたか?」
不安気に訪ねる彼女を安心させようと「そんな事ない」と言おうとするが途中で言葉がつかえて出なかった。
「すいません…私…せっかくの誕生日なのに…何か…」
自分の目の前で小さくなり、すぐにでも泣き出しそうな消えてしまいそうな声を出した彼女。
そんな彼女を見たかった訳ではないのに!
慌てて弁解しようと口を開く。
「違うんだ、悪いのは俺で…ただ、嫉妬してただけなんだ…」
「…嫉妬…?」
キョトンとした顔が俺を見つめていた。
「…数日ずっと、夢子ちゃんは今日のために働いてくれていただろ。俺を避けるしデートに誘っても断られるし」
「あ…すいません…」
「いや、いいんだ。全部今日の、俺の誕生日のためだって解ってるから。ちょっと寂しかったけど嬉しかったから我慢した。…でも…」
「…でも?」
「…トシに…楽しそうに笑いかける君を見るのが…辛かった…」
夢子ちゃんを見ることが出来ず、俯いて目を閉じた。
情けない。いい歳した男がこの程度で心を乱されて、こんな些細な事に嫉妬するなんて。
「ごめんなさい。私、今日のために近藤さんを喜ばせようと必死で…近藤さんの事、ちゃんと見れてなかったです。ごめんなさい…あの…それから…不謹慎だとは思うんですけど…その…」
着物が引っ張られる感触につられて目を開ければ真っ赤に照れた夢子ちゃんの緩んだ顔がそこにあった。
「そうやって嫉妬してくれたのが、めちゃくちゃ嬉しい…です…はい…」
最後の方はなんとか聞き取れるというレベルの声量ではあったが、彼女は嬉しいと言った。
こんなに情けない奴の行動が。
「何ていうか…好きだって言って貰えたようで…凄く嬉しいです」
彼女は顔を赤く染めながら照れた笑顔を俺に向けた。
自惚れかもしれないが、きっとこれは俺だけに見せる笑顔なんだろうと思う。
「あ、あのさ。まだ、今日は終わって無いし…あと一つ欲しいものがあるんだけど」
えっ?っと聞き返す彼女の右手を取り、じっと目を見つめる。
「今日、残りの時間…俺にくれないか?」
それを聞いた夢子ちゃんはキョトンとした後、つかんだ俺の手を優しく握り返しながら嬉しそうに笑った。
「元よりそのつもりです」
手を繋いで夢子ちゃんの部屋に入った俺達は、後ろ手に襖を閉めながら、ここ数日の寂しさを埋めるように気持ちと唇を繋ぎ合わせた。
今日だけとは言わず、一生の時間を貴方に捧げます。
Happy Birthday
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