「土方さーん」
書類仕事がひと段落つき、縁側に座り一服していた土方の元へ間延びしたヒマそうな声が届いた。
「近藤さんまだですかー?」
「あぁ?知らねぇよ」
夢子が自分に話しかける時はだいたい近藤についてだというのは解っていた土方は、煙草の煙を吸い込みながら面倒くさそうに返事を返した。
「なんでですか。今朝一緒に出てたじゃないですか」
「1日中一緒なわけじゃねぇよ」
「いいなー近藤さんとデート」
「聞けよ」
本当に近藤の事ばかり。
鬼の副長と呼ばれる自分に対してもこの調子で話しかけてくる夢子の事は案外嫌いではなかった。
「私も近藤さんとデートしたいです」
むっすりとしながら土方にそう訴えれば、面倒くさそうに返事を返した。
「すればいいじゃねぇか」
「どうやって?」
恋人未満の関係ならまだしも、付き合って随分経つこのカップルが、何を当たり前の事を聞いてくるのかと眉根を寄せながら返事を返した。
「そんなの、そのまま誘えばいいだろ」
「無理です。近藤さんずっと忙しいんですもん」
口を尖らせながらこちらに訴えかけてくる顔を見ながら、ここ数ヵ月を思い出した。
「…明日休みだろ」
「たまの休みくらいゆっくりしてて欲しいじゃないですか」
まぁ確かにここ数日は特に忙しかった。
それこそ寝る間を惜しむ程に。
それは局長である近藤も同じ…いや、もしかすると自分以上かもしれない。
そう思えば夢子に対して特に案は浮かばなかった。
「近藤さんとデートしたい」
夢子がぽつりと零す。
「手を繋いで歩きたいです」
「……あー!わかったよ!明後日の仕事は俺がやるから!」
だから明日はデートでも何でもしろ!
そう言えば夢子は弾かれたように立ち上がり、目をキラキラとさせながら土方へとお礼を叫んだ。
「わーい!やった!じゃあ近藤さんに電話して明日の予定聞いてきますね!」
「へいへい…」
「土方さんありがとうございます!お土産にマヨネーズ1箱買ってきますね!」
嬉しそうにそう言って土方の部屋から飛び出す夢子を背中に感じながら、土方は二本目の煙草へと火をつけた。
「俺もあめぇな…」
煙と共に吐き出された小さな言葉はゆらゆらと空へ昇っていった。
ケータイを置いてある自室へと夢子は廊下を走っていた。
「ただいま」
耳に届いた愛しいその声に夢子が振り返ると、帰宅したばかりの近藤がいた。
「近藤さん、おかえりなさい!今ちょうど近藤さんに電話しようと思ってたんですよ」
パタパタと嬉しそうに自分の元へと駆け寄る夢子を見てほんわりと心がくすぐったくなった。
「俺に?何かあった?」
急の連絡かと問うが、夢子はもじもじとして内容を話さない。
近藤は夢子を見つめながら小首を傾げた。
「あ、あのっ明日…私と…っデートしてくれませんか?」
「え?」
近藤は、顔を真っ赤にしながら自分を見上げる真っ直ぐな瞳に思わず問い返してしまった。
どくんどくんと心臓が高鳴る。
「明日お休みですよね?それで…もし良ければ一緒にどこか行きませんか…?」
不安そうに。
しかし、言葉は真っ直ぐに近藤へと伝えた。
「……どこに行くとか決めてるの?」
「あ、いえ…場所まではまだ…」
夢子はしまった!と思い、目を伏せた。
デートに誘うのならば、普通は目的地を決めてからだろう。
どこにしようか…焦りながらいくつかのデートスポットを思い浮かべていくが、なかなかこれといった場所が思いつかない。
すると
「じゃあ、これ」
「…映画のチケット?」
近藤はズボンのポケットから2枚のチケットを取り出し、夢子の目の前に差し出した。
何かわからずキョトンとしている夢子へ、にっと笑いながら話す。
「俺も明日、夢子ちゃんとデートしたいって思ってて映画のチケット用意してたんだけど」
こんな偶然。
「……ふふ…」
「はは」
2人で嬉しそうに笑いあった。
「以心伝心ですね」
「そうだな」
私が貴方を想っている時、貴方も又、私を想ってくれているなんて。
そんな幸せ、私には勿体ないくらいです。
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