かじかむ手を規則正しく動かしながら一つ二つと毛糸を編んでいく。
本当はもっと早く完成させるはずだったのに、色が、編み方が、デザインが、長さが気に入らないと何度も何度も編み直しているうちに、こんなに寒くなってしまった。
もう少し…もう少しと編んでいくうちに、夜もだいぶ更けてしまった。
明日が起きられなくなってしまう。そう頭の隅にあっても手は止めずにいた。
「まだ起きてんのか?」
布が擦れる音が聞こえる程静かな部屋に突然彼の声が響いた。
驚いて返事を返すと、眠そうに目を擦る近藤さんが襖を開けてこちらを覗いていた。
「すいません。少しやる事があって…」
「何してんだ?」
そう言いながら、近藤さんは襖を閉めて部屋に入り、私の手元を覗き込むように隣りへと座った。
「編み物か。何編んでんだ?」
「えっと…マフラーです」
「へー。自分用に?」
「あ、いえ…」
歯切れ悪く返事を返して手元の編みかけのマフラーを見つめる。
近藤さんにプレゼントしたいと思っています。と言えないのは、手編みとか重いんじゃないか…と不安なせい。
「そうか!最近益々冷えてきたからな!」
至近距離で、にっと笑顔をむけてくるから。
本当に心臓に悪い。
「もう少しで完成なんですけど…キリのいいところまで編んでしまいますね」
そう言ってまた毛糸をくるくると編んでいく。
隣りに座る近藤さんは部屋を出ていく様子もなく、忙しく動く私の指をじっと見つめていた。
「あの…」
「ん?どうした?」
「近藤さんは寝ないんですか?」
そんなに見られていると緊張する。
「ん…もうちょっと夢子ちゃんと一緒にいたいなって」
思わず編み目を落としそうになってしまい、慌てて編み棒を握り直し、近藤さんの方を見ると私の手元をじっと見つめていた。
そんな事言われてしまっては何も言い返せず、ただ無心になるように手を動かしていった。
どれくらいの時間が経っただろう。
おそらく数分程だろうか、突然肩にトンと重さを感じた。
見れば隣で近藤さんがこっくりこっくりと船を漕いでいた。
そのゆらゆらと揺れる頭が時折、トンと私の肩に着地してくる。
その度に緊張で心臓がきゅうっと縮む。
「あ、あの、近藤さん?」
体を支えて起こそうとゆらゆらと揺らすと、ぼんやりと目を開けた。
「ん…あぁ…すまん」
「無理せずに寝ましょう?お部屋まで送ります」
「いや…せっかく夢子ちゃんが俺の為にマフラー編んでくれてるんだし、見てたいって思ったんだけどな」
「えっ」
その言葉にドキリとした。
「私…近藤さんにプレゼントするって言いました…?」
「いや、言ってないけど、夢子ちゃん用じゃないなら俺のかなって思ってたんだけど…あれ、違うかった!?」
慌てた様子で私と編みかけのマフラーを交互に見る近藤さん。
私も慌てて否定する。
「いや、違わないです!近藤さんにって……貰ってもらえますか?」
ドキドキと心配気に問う私とは真逆に、とても嬉しそうに返事を返す近藤さん。
私からの想いを当然のように受け取ってくれる。
それはとても暖かかった。
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