ぼんやりと灯りのついた屋台が一台。
そこに並んで座る男女がいた。
テーブルに少し並んだ料理をちょこちょことつまみながら酒を飲む二人。
はぁと溜め息をもらしながら夢子は銀時に相談を始めた。
「どうしたら近藤さんに抱いてもらえると思う?」
その問いに対し、銀時は心底面倒くさそうに眉根を寄せた。
「知らねぇよ。ンなこと」
「お願いします!是非意見を!知恵を拝借させて欲しいんです!」
「意見も何もゴリラの性事情なんかこれっぽっちも興味ねぇし」
「そこを何とか!相談する人が銀さんくらいしかいないの!私、こっちにそんな相談できる友達いないし、知り合いなんて隊士の人達くらいなの!流石にこんな事相談出来ないよ!」
怠そうに返事をする銀時など意に介せず、夢子はなおも縋り付くように相談を続けた。
「知らねぇよ。俺もお前の友達じゃねぇ!」
「そんな事言わずに!飲み友達じゃん?ね?」
「飲み友達じゃねぇよ。偶然出会った他人だよ」
「…そっか…友達ならここの代金は私が払おうと思ってたけど…」
「だよね!俺達友達だよね!おい、オヤジ!夢子ちゃんの友達の俺に熱燗一本追加ね!」
「さすが銀さん!話がわかる!」
店主から徳利を受け取って自分の御猪口へとなみなみと注ぎ、嬉しそうにそれを一気に飲み干した銀時は、先程よりも顔が紅いように感じられる。
「てか、そんな事あのゴリラなんだからセクシーな下着でも着けて迫ればイチコロだろ」
それを聞いた夢子は、ハァと大きな溜め息をついた。
「馬鹿言わないでよ。そんなのは可愛かったり、美人なナイスバディがやるから効果があるの。私がやっても滑るだけだから」
「はぁ…そうか?」
「そうよ…もっとボンキュッボンに生まれたかった…」
自分の体型を恨めしく思い、頭を抱えながら目に涙を溜めた。
「じゃあまどろっこしい事抜きにしてそのままストレートに言えばいいじゃねぇか」
「馬鹿か!そんな事出来るなら銀さんなんかに相談せずに言ってるわ!」
「なんかって言った?今、銀さんなんかって言った?」
はぁと大きなため息を吐いて、夢子は御猪口に残る酒をぐいっと飲み干した。
「私ダメなんだって…近藤さん前にすると緊張し過ぎてもう…あぁ…無理!」
「めんどくせぇな」
銀時が皿に盛られた枝豆へと手を伸ばし、ひょいひょいと口の中へと豆を放り込んでいくのを眉間に皺を寄せながら眺めた。
めんどくさいのは重々解っている。
「仕方ないでしょ!乙女なの!」
「お前、ほんとゴリラの前とキャラ違うな」
「うるさい」
銀時をキッと睨みつけたが、しかし、すぐにその瞳を伏せてもごもごと呟いた。
「それに私…初めてで…」
「は?」
「は?じゃねぇよ!新品なの!すでにこんな面倒臭い女なのに新品とか更に面倒臭い事このうえないじゃん!あぁ嫌われたらどうしよう!」
「面倒くさい女の自覚はあったんだな」
銀時の嫌味にも反応を示さず、顔を手で覆いながら、人目もはばからずにわぁっと叫んだのは、夢子も随分と酒が進んだせいだろう。
顔を隠している為、表情は見えないが、夢子が今にも本当に泣き出してしまいそうに思えた。
「てか、そんな事で嫌うような奴は別れて当然だろ」
意外な言葉に夢子は泣くのを止めて、銀時の言葉の続きを待った。
「自分の好きな女一人大事に出来ねぇような男は男じゃねぇよ」
銀時を見つめながら、夢子はほぅと息を漏らした。
「銀さん…さすが。恰好いいね」
夢子の表情が少し明るくなったのを見て、銀時もにぃっと笑顔を見せる。
「だろ?しゃあねぇな。その面倒臭い女の処女貰ってやるよ」
「あ、結構です。銀さんにあげるくらいならドブに捨てるんで」
「何でだよ」
「何を捨てるって?」
突然、自分達以外の声が後ろから聞こえてきたので、2人は驚いて背後を振り返った。
「こ、こ、こ、近藤さんんん!?」
「あ、噂をすりゃあゴリラじゃん」
酔いも吹っ飛んでしまう程驚いた。
何故こんな所に近藤がいるのか。
夢子の頭の中が一気にパニックになった。
「何でも無いんです!ただ飲んでただけで!」
慌てて立ち上がり、あわあわと両手を左右に振りながら、夢子は今までの会話を聞かれていないことを心底願った。
「おい、何言ってんだよ夢子。今こそ言えよ」
「どんなタイミングだよ!」
着物の袖をくいっと引っ張る銀時を睨みつけながら間髪入れずにツッコミを入れた。
「何?俺に何か?」
「あ、いや、あの……」
きょとんと首を傾げる近藤に慌てて言い訳を考えるか、何も思い浮かばない。
「何でも無いです!」
そう叫んで夢子はその場を走り去ってしまった。
「あ、夢子ちゃん!」
「おい!夢子!勘定!払ってけよオイィィィィ!」
2人の呼び止める声は夢子へと届いていたが、脇目も振らず街の灯の中へと消えていった。
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