「夢子ちゃん、宴会の準備が出来たから迎えに来たよ」
障子の外から声が聞こえてきた。
それはわかるのだがぼうっとした頭ではしばらく内容を理解できないでいた。
「…………!!」
ふわふわした微睡みから一気に覚醒する。
あのまま寝てしまっていたようだった。
「夢子ちゃん?居ないのか?」
「あ、や、すみません!今行きます!」
慌てて立ち上がり着物を整える。
やっぱり少し皺になってしまっているようだ。
だが着替える時間は無いので軽く皺を伸ばして急いで障子を開ける。
「お待たせしました!」
「ん、大丈夫」
にっこりと私を見つめながら笑う近藤さん。
これは夢の続きなのだろうか。
「じゃあ行こ…あ、ちょっと待って、簪が…」
「え?」
私の頭へ手を伸ばし、取れかけていた簪を刺し直してくれた。
「これ…?」
「あ、あ、ありがとうございます!」
飛び退いて頭を下げながらお礼を言う。
急に近づくなんて反則だ。
おかげで心臓の音がうるさい。
近藤さんに聞こえてしまうのではないかと心配になり、近藤さんの数歩後を付いて歩いた。
近藤さんが1つの部屋の前で立ち止まった。
その部屋の中からはワイワイと楽しそうに騒ぐ声が漏れて来ていた。
「ちょっと待ってて」と私に一言言ってから、近藤さんは障子を開けて先に中に入って行った。
「皆、待たせたな」
「ほんとですぜ。折角の料理が冷めちゃいまさァ」
「すまないな、総悟。ついでにもう少し待ってくれないか。皆に紹介する。えっと…この度俺と婚約することになった夢野夢子ちゃんだ」
緊張が最高潮に達する。
近藤さんに名前を呼ばれて宴会場の中へと入り、深々と頭を下げた。
「皆さん、初めまして。夢野夢子です。近藤さんと婚約ということでしばらくの間、こちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします」
微笑みながら顔をあげて隊士達を見回すと皆一様に驚いた顔をしていた。
何かおかしな事を言っただろうか?
そう問おうとした時
「うおお!局長!凄いじゃないですか!」
「今回はゴリラじゃない!」
「むしろ可愛いぞ!」
「まさしく美女と野獣!」
「いや、美女とゴリラだ!」
「ちょっと誰ー!?今ゴリラって言ったの!」
一気に騒がしくなる室内。
えっと…これは…
「うるさい連中ですまないな。ガサツだか悪いヤツらじゃないんだ」
近藤さんが困ったような呆れるようなそんな顔で私を見つめた。
「いえ、賑やかでいいですね」
ほっと胸をなでおろしながら私は微笑んだ。
「そろそろ乾杯といきやしょうぜ、近藤さん」
やっと席に着いた私達へ向けて、沖田さんが待ちきれないといった風にお酒を掲げている。
「そうだな。皆、今日は存分に飲んで食ってくれ!」
乾杯を合図に宴会は賑やかに始まった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
ほとんどの隊士は随分と酔っぱらってしまっているようで、みんな一様に顔を赤くしてワイワイと楽しそうに酒を飲み続けている。
「それにしても、近藤さんがまさか結婚できるとはな」
「何だトシ、俺だってな、やるときはやるんだよ」
「へーへー」
「あ、俺のこと馬鹿にしてるだろー!」
「ふふっ」
近藤さんと土方さんの会話を隣で聞きながらウーロン茶を飲む。
まさか私がそんな体験が出来る日が来るとは思っていなかった。
煙草をくわえた土方さんがふと動きを止めた。
「ん?ライターがねぇ。すまねぇが俺のライター取ってくんねぇか」
「あ、はい。土方さん、どうぞ」
畳の上に転がっていたマヨラーの彼らしいマヨネーズ型のライターに手を伸ばし、土方さんに差し出す。
「おう、すまねぇな。…だが、よくこれがライターだってわかったな」
「えっ」
「それに名前。俺、土方だって名乗ったか?」
「そ、それは…」
頭の天辺が冷えた気がした。
「えっと、近藤さんからお名前は伺っていましたし…それに、ライターも先程からお使いになられてたのを見ていたので…」
「…そうか、ならいい。…すまねぇ、変なこと聞いちまって」
「いえ…」
ボロを出すわけにはいかない。
流石、鬼の副長…気を付けないと。
ちょっかいをかけに来た沖田さんを追いかけて行く土方さんをみつめながら、気合いを入れ直そうと目の前にあるコップいっぱいに入った水を一気に飲み干した。
喉が熱くなる感覚と同時に視界がぐにゃりと揺れた。
近藤さんが私に何か話しかけている。
何か答えなきゃ。
そう思ったところで私の記憶は途切れた。
「すまんな、トシが変な絡み方しちまって。あいつも結構酔ってんだろうな。夢子ちゃんは大丈夫?あ、お茶だから大丈夫か!」
「…………」
「夢子ちゃん?どうし…」
俯く夢子の顔をのぞきこもうとした時、ふいに自身のジャケットの袖をぎゅっと掴まれた。
驚いて彼女の方を見ると、顔を上げた夢子の潤んだ瞳と視線がぶつかり、ドキリとした。
「夢子ちゃん、ど、どうし…」
「近藤さんは…何故、私と結婚してくれるんですか…?」
今にも消え入りそうなその問いかけは、周囲ががやがやとうるさい中、不思議と近藤の耳までしっかりと届いた。
「何でって、それは…その…」
顔を紅く染めながらどう答えようか悩んでいる近藤を気にも留めずに夢子は口を開いた。
「私は…」
「え?」
「私はちゃんと理由があります」
其ほど遠くない距離を縮め、近藤の耳元へ顔を寄せて囁く。
「ずっと…ずっと前から大好きなんですよ」
耳元から顔を離し、近藤の目を見つめて幸せそうに笑った彼女を見て、近藤の顔が先程より真っ赤になっていく。
「ど、どど、どういう…」
「近藤さん」
「な、何?」
「…気持ち悪い」
「…え…」
「吐きそう…」
「えぇぇぇ!ちょっ!待って!!」
顔が白くなっている夢子を慌てて横抱きにし、部屋を飛び出した。
「あれ、副長。ここらへんに置いておいた俺の酒知りませんか?」
「あぁ?んなもん知らねぇよ。誰かが飲んじまったんじゃねぇのか」
「うーん、誰か間違って飲まないようにグラスに入れといたんだけどなぁ…まぁいいか」
夢子を両腕で抱いて厠へと走る。
「もうちょっとだから!大丈夫?夢子ちゃん!」
「………」
「…夢子ちゃん?」
「…すぅ…」
「え…寝てる?」
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