「で、どうだった?旅行は楽しめたのか?」
始めた頃に比べれば随分と減った書類の山に手を伸ばしながら、土方は近藤に尋ねた。
先日の出張ついでの夢野との1泊旅行についてだ。
どうせ答えなど分かりきってはいるが、一応気を回した本人としてはどうだったのか聞いておきたかったのだ。
「いやー。おかげさまで、すっげぇ良かった」
頬を赤らめながら嬉しそうな顔で答えているのを見ると、本当に楽しかったようだ。
先に夢野からお礼も兼ねていろいろと話を聞いていた土方は、二人の表情を照らし合わせ、ほっと笑を零した。
「夢子ちゃんがさ、すっげぇ可愛くって可愛くって」
ニヤニヤと締りのない顔で話す近藤の手は書類を持ちながらも完全に止まってしまっていたが、土方は注意することも無く、それを横目に自身の机に広げられた書類へと筆を走らせていった。
「何か俺ばっか幸せにしてもらって、本当にいいのかなって思うくらい」
それを聞いて、土方はククッと喉を鳴らした。
何故なら、先日の夢野も同じような事を言っていたからである。
お互いが相手のおかげで相手より幸せになっていると感じている。
「いいじゃねぇか」
筆を置いてそちらに向き直れば、近藤が首を傾げていた。
「夢野も楽しんでたみたいだし」
何故知ってるのかと不思議そうな近藤に、本人から聞いたと言えば、意外にえっと驚いた表情になった。
「いやでも、俺、余裕無くて、自分勝手なことばっかりしたんじゃないかって反省してて…」
「別にいいんじゃねぇか?アイツもたくさん行けて良かったみたいだし」
「えっそうなの!?」
「あぁ。言ってたぜ」
それを聞いて更に驚いた表情を浮かべた近藤は、口に手をやり考える仕草でブツブツと何か独り言を呟いていた。
「で、でもさすがに疲れたとか言ってなかった?もう嫌だとか…」
「いや、特には言ってなかったが…まぁ1泊2日じゃあ多少ハードになっても仕方ねぇんじゃねえか?」
「は、ハードって……いや、でもやっぱ初めてなのに2回もしちゃったし…」
それを聞いた土方の頭上に?マークが並んでいった。
初めての旅行というのは解るが、2回したとは何の事だ?
「それに起きてからも1回…やっぱりヤリ過ぎだよね!?夢子ちゃん嫌だとか言ってなかった?もう俺に愛想つかしちゃったり、ドン引きとか…」
締りのなかった顔が今度は泣き出しそうな程歪められていた。
それを見ればますます意味がわからない土方。
「ちょっと待ってくれ、近藤さん。一体何の話だ」
「えっだから、こないだの旅行の話だよね?」
「そうだが…二回とか一回とか何の事だ?俺は夢野に観光名所を巡って、美味いもん食って楽しかったって話しか聞いてねぇぞ?」
「えっ!あ、な、なんだ!そうか!そうだよな!そうそう!そうなんだよ!楽しかったー!」
顔を赤らめながら慌ててそう言う近藤を見て、土方もやっと近藤が何の話をしていたのか合点がついたと同時に呆れた。
「いや、さすがに旅行の話を何十回もしてくる夢野もそんな話は俺にしないだろ…」
「だ、だよな!おかしいと思ったんだよなー!」
がしがしと自身の頭をかく近藤を見て、土方ははぁとため息をこぼした。
「ったく…気ぃつけろよ。夢野もそんな話、他のやつに知られたくねぇだろ」
「うん…すまん」
しゅんと落ち込んでしまった近藤を見て、再度ため息が出るのを、火をつけたタバコの煙と共に飲み込んだ。
「まぁ、なんだ。俺から見ればアイツもすげぇ楽しかったみてぇだし。何回聞いても不満のふの字も出て来ねぇ。近藤さんが 心配するような事は思ってねぇんじゃねぇか」
「うん…そうだといいんだが……なんだか俺ばっかり幸せみたいでさ……」
「心配すんな。夢野も全く同じ事言ってたからよ。本当にアンタら同じなんだな」
土方が笑うと、きょとんとした近藤が続いて嬉しそうに笑った。
周囲から聞く自分達の同じ気持ちにくすぐったくも暖かく満たされた近藤だった
← →
お見合いトップ
小説トップ
トップページ