たまに見る夢。
薄暗い自室、灯りは大きな満月で、聞こえるのは荒い息遣いと布すれの音だけ。
組み敷いた彼女の柔らかさと暖かさが妙に印象的で、霞がかった思考の中で彼女への愛おしさだけがどんどん高まっていく。
「夢子ちゃん…愛してる」
ぎゅうと抱き締めて、荒々しく口内を舌でまさぐる様に犯していく。
高まっていく感覚に限界が近い事を感じて、愛おしく彼女を見下ろした。
「夢子ちゃん…」
愛の言葉を続けようとしたその口が止まってしまった。
俺を見つめるその眼は幸せなど探しようもないほど戸惑い、悲しみと憎悪に満ち、強い拒否の色が出ていた。
「信じてたのに…」
彼女の瞳からぼろぼろと涙が溢れて、彼女の髪へ布団へと染み込んでいく。
「近藤さんなんて」
ガラガラと足元から崩れていく。
心臓が潰れてしまいそうなくらい早鐘を打つくせに、全身から血の気が引く感覚が強い。
すまん。そんなつもりじゃあ無かった。悪かった。もうしない。もう二度と夢子ちゃんが嫌がる事はしない。だから。だから……
「大っ嫌い」
そんな事言わないでくれ。
はっと勢いよく起き上がった。
心臓はバクバクと鳴りながらもきゅうと締め付けられるようで、全身じっとりと嫌な汗をかいていた。
もう何度目だろうか。
こうして飛び起きる度に不安になる。
いつかは正夢になるのではないかと。
夢子ちゃんを傷つけてしまうのではないかと。
いつかは自分のもとから離れてしまうのではないかと。
そんな事ないと、持ち前のプラス思考の明るさで不安を吹き飛ばしながら朝の準備を始める。
でも流石に、こう何度も同じような夢を見ていると不安も吹き飛ばしきれない。
ため息をつきながら、食堂へと廊下を歩いていると、彼女の後ろ姿があった。
「夢子ちゃん……」
名前を呼ぼうと口を開くが、思った以上に声が出なかった。
やはり今朝の夢が効いているのだろう。
それでも声は彼女に届いたらしく、振り返って挨拶をしてくれた。
「近藤さん、おはようございます」
その笑顔を見て、何故か涙が出そうになった。
抱き締めたくなる衝動をまだ寝癖の残る頭をかいて誤魔化した。
付き合い始めて随分と月日は経った。
抱き合ったりキスは何度かしているが、どうしてもその先の事は出来なかった。
自分自身性欲は強いし、夢子ちゃんとしたいと思う。
しかし、あの夢を思い出してしまい、怖気付いてしまうのだ。
だから、あの雨の日に言われた事は嬉しくて仕方がなかった。
受け入れてくれるのだと。
それと同時に申し訳ない気持ちになった。
女の子から言わせてしまうなんて、本当に情けない。
だから、せめて段取りだけはしっかりしようと思った。
出張でデートが出来なくなった時も、むしろチャンスだと、トシに夢子ちゃんの同行をお願いした。
もう待たせたくない。待ちたくない。
そうは言ったものの、いざそうなればやっぱり怖気付いてしまうもので。
二組並んだ布団を見て、思わず離そうとしたのを夢子ちゃんが止めてくれた。
真っ赤になりながら、手を震わせながらも懸命に自分の気持ちを伝えてくれている。
あぁ、俺はまた情けない事を……。
夢子ちゃんには、本当の気持ちを話してくれって言っているのに、そのくせ自分はこんなに情けない俺を隠してしまって……。
夢子ちゃんを信じよう。
自分が愛する人を。
話してしまえばなんのことは無い。
お互いに遠慮し過ぎなだけで、想いは同じ。
不安な気持ちも同じ。相手を想う気持ちも同じ。そんな相手を受け入れるのも同じ。
それがとても心地よい。
あぁ、夢子ちゃんを好きになって良かった。
夢子ちゃんに出会えて良かった。
夢子ちゃんが俺を好きになってくれて本当に良かった。
これはきっと、俺のひとりよがりなんかじゃなくて、夢子ちゃんも同じ気持ちだと思った。
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