プロのストーカー


近藤さんがその席に座って、そろそろ三時間が経とうとしている。
一向に帰る気配が無く、むしろ笑顔で片手を挙げて私を呼んでいる。
それも何度目だろうか。
私はコーヒーの入ったポットを持って近藤さんの席へと向かった。

「お待たせしました。おかわりですか?」

「うん!コーヒーのおかわりと、夢子ちゃんをテイクアウトで」

「申し訳ございません。当店はテイクアウトはしておりません」

「えー」

近藤さんが飲み干したコーヒーのカップへと湯気をたてるコーヒーを注いだ。

「近藤さん、いつまでいるつもりですか?」

「夢子ちゃんの仕事が終わるまで」

「……私が上がるまで後五時間以上あるんですけど……」

呆れてそう言えば、待つからいいよ。なんて笑顔で返されてしまった。

私は近藤さんのストーカー根性を侮っていたのかもしれない。



こうなったのも、父の友人が経営するこのカフェでひと月程お手伝いという形でアルバイトをする事になったからだ。

普段は屯所の雑用や給仕のお手伝いをしていたので、近藤さんと土方さんに相談すると、土方さんからはあっさりと許可を貰えたのだが、問題は近藤さんだった。
寂しいと難色を示したのだ。

私も近藤さんが嫌がる事はしたくない。
しかし、その父の友人とは幼少の頃からとても良くしてもらっており、出来れば今回助けたいという気持ちも強かった。

土方さんに、子供みたいな事を言うなと一喝された近藤さんは、しぶしぶといった感じで許可を出してくれた。

とても申し訳なくて「お暇な時にでも店に来てください」と言えば「必ず行く!」とがっつくような言葉が返ってきたのだった。



そう。
確かに「店に来てください」とは言った。
だがしかし、隊服姿で何時間もそこに座っている近藤さんはどう見ても暇な時ではないように見える。

「お仕事はどうしたんですか?」

「今が仕事真っ最中!夢子ちゃんの警護を重点的に!」


……つまりサボり中だと。


「近藤さん、駄目ですよ。気持ちは嬉しいですが、仕事はちゃんとしてください。真選組の隊服を着ているという事は、あなたは今、真選組の看板を背負っているんですよ?何時間もここにいれば、サボっていると思われます。心無い言葉を言う人も出てくるでしょう。私はそれが嫌です」

真剣にそう一気に言えば、私をまっすぐ見上げている近藤さんの眉がしゅんと下がってしまった。
近藤さんを悲しませてしまった事にズキリと心が痛む。

「そうだよな、悪い。俺、仕事に戻るわ」

そう言ってガタッと椅子から立ち上がり、かけていた刀を腰に差した。

間違った事は言っていないと思いながらも、生意気な事言って近藤さんに嫌われてしまったのではないかと不安が心を埋めていく。


「邪魔してすまんかった」

テーブルに代金を置いて出口へと向かう近藤さんの背中がとても遠く感じて、思わず引き止めてしまいたくなるのを、手を握って誤魔化した。

「あ。ちなみに、終わったら一緒に帰ろう。少し遅れるかもしれないから、お店で待っててくれないか?」

くるっと振り返った近藤さんはいつも通りの暖かい笑顔だった。

「あっ…」

「え、それも駄目?夜道は危ないし。…あ、ちゃんと仕事は終わらせてから来るよ?」

「駄目じゃないです!待ってます!」

慌ててそう返事をすれば、ニカッと笑って手を振って出ていってしまった。

おかげで、早く上がりの時間になれと何度も何度も時計を睨みつける事になってしまったのだった。










それから数日後。
仕事をサボって来ないで。確かにそう言った。
お暇な時に。確かにそう言った。

そう言いましたよ。

だから近藤さんはせっかくの休日を何時間もコーヒーを飲んで過ごしていた。

そう言ったことを少し後悔。


「あの…せっかくの休日なんですし、ゆっくり休んだり、近藤さんがやりたい事やってくださっていいんですよ?」

って言えば、これが俺のやりたい事だからって笑顔で私が作ったサンドイッチを頬張りながら、本日10杯目になる今入れたばかりのコーヒーに口をつけた。

本当に私は近藤さんのストーカー根性を舐めきっていたと思う。




 





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