いつもは軽い足取りで、少し早足になってしまう帰り道も、今日は真逆だった。
決して帰るのが嫌なわけではない。
むしろ早く帰りたくて堪らないはずなのに、沈んだ心は身体をも重く沈ませてしまっていた。
いつも通り屯所の門をくぐり、玄関に入っていく。
「ただいま戻りました」
その一言を言い終わるが先か、奥からドタドタと走る音が近づいてきた。
「夢子ちゃん、おかえり!」
いつもの太陽のような笑顔が私を出迎えてくれるだけで、沈んだ私はふわりと浮き上がる。
「近藤さん、ただいまです」
「今日は少し遅かったな」
「すみません…」
「いや、謝ることはないんだが…どうした?疲れたか?」
「いえ…」
草履を脱いで顔を上げると、近藤さんが心配そうに顔をのぞき込んでいた。
「俺には何でも言ってくれ」
きゅうと嬉しく幸せに満たされる。
両手を伸ばして近藤さんの背中へ腕をまわせば、優しく受け入れてくれる大きな身体がとても暖かい。
「…今日、お仕事で失敗しちゃいました」
そうか。とぽつりと低く優しい声色で返事をしながら、ぎゅうと抱き締め返してくれた。
「近藤さん…」
自分がやりたいと無理を言ったのだから、アルバイトの事は、近藤さんに愚痴ったりしないようにしよう。
そう思っていたのに。
そんな自分の意思の弱さにも呆れる。
はぁとため息を吐いて、自分の中の鬱々とした気持ちも、この空気も吹き飛ばしてしまおうと思った。
「私、頑張ってます。だから、いい子って褒めてくれませんか?」
冗談ぽく明るい声でそう言うと、近藤さんは優しく笑って頭を撫でた。
「夢子ちゃんはいつもよく頑張ってるよ。一生懸命なのも俺はちゃーんと見てるから」
「はい…」
「失敗して落ち込んでるのも、夢子ちゃんが責任感が強いからだな」
「……」
「そんな夢子ちゃんが俺は大好きだ」
じわりと心が溶けるような気持ちになった。
「近藤さんは、エスパーか何かですか?」
「え」
「不思議な程、私が欲しい言葉をくれるから」
そう言えば、近藤さんは私を見下ろしてニヤリと笑った。
「夢子ちゃんの事は夢子ちゃん以上によく知ってるからな!俺の愛の深さとしつこさをなめてもらっちゃあ困る」
また私は、この人のストーカー根性を侮っていたのかもしれない。
「じゃあ、今私がして欲しい事はわかりますか?」
精一杯背伸びをして、近藤さんの首へと腕を伸ばす。
それを見てフッと笑うと、軽々と私を抱き抱えてしまった。
「甘えん坊なお姫さんだ」
「近藤さんは、甘えられるのは嫌いですか?」
「いいや、大歓迎です」
くすくすと楽しそうに笑い合い、自室へと向かった。
こんなに素直に甘えられるのなら、たまにはこんな風に沈むのも悪くないな、なんて。
そんな風に思える程、一瞬にして私を浮かれされるあなたは、私の最高のストーカーなんだろうなと思った。
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