忘れても


その連絡を受けた時、まさに頭から冷水をぶっかけられた気がした。
ぐらぐらと地面が揺れるようで、自分が立っているのかすらわからなくなった。

勤務中だが、そんな事はお構い無しに走り出した俺を、隊士の誰も止めようとはしなかった。



夢子ちゃんが事故に遭った。



ただただ彼女の無事を祈りながら、病院へと走った。
普段よりも何倍も急いでいるはずなのに、足は水の中を蹴るように重く遅く感じるのがもどかしい。






「夢子ちゃん!!」

大きな声で彼女の名を呼びながら、部屋の扉を勢いよく開けた。
病院で大声を上げたにもかかわらず、誰も眉をひそめたりしなかったのは、幸いにも誰も同室でなかったからだろう。

息を切らしながら夢子ちゃんが横たわるベッドへと近付くと、彼女はゆっくりとこちらを向いた。
その顔や頭には痛々しく包帯やガーゼが巻かれており、更に心臓が痛くなったが、動く彼女を見て一先ず安心を覚えた。

「良かった…」

はぁと息を吐いて膝を付いた頃、背後の扉が騒がしくなった。

「夢子!」

先程の自分と同じように慌てた様子で部屋に入って来たのは、久しぶりに会う彼女の両親だった。

「お父さん、お母さん…」

「あぁ…良かった、無事で…本当に驚いたのよ!」

目に涙を滲ませながら彼女に近づき抱きしめていた。

「ご無沙汰しています」

彼女の父親と目が合い、深く頭を下げた。

「すいませんでした。大切なお嬢さんを預かっておきながら、こんな事に…」

「いやいや、局長さんには責任ありませんよ。聞けばこの子一人で出かけている時に被害にあったようだし」

「いえ、自分がもっとちゃんとついていれば…」

そう。悔やんでも悔やみきれない。

「そうですよ。お医者様によれば、怪我もかすり傷程度だし、レントゲンも異常無かったと仰っていたわ。そこまで気落ちしないでくださいな」

そう優しく微笑む、やはりどこか彼女と似た彼女の母親に少し心が軽くなった。

「私、事故にあったの?」

「あら、覚えてないの?車に轢かれて病院に運ばれたって。でも幸い傷は軽いってお医者様が仰ってたわ。良かったわね!」

「おいおい、事故に合って良かったわね。はないだろう」

「あら、そうね」

笑う彼女達を見てこちらも少し笑顔になれた。

「夢子ちゃん大丈夫ですか!?」

ばたばたと慌ただしく隊士数人が部屋へとやって来た。
皆一様に息を切らしている。おそらく自分もこんな感じだったんだろう。

「てめぇら、病院では静かにしろ」

皆の後ろから現れたトシが、諌めながら部屋へと分け入って来た。

部屋の面子を見回したトシに「御両親」と紹介すれば、深く頭を下げながら自己紹介をしていた。

「幸いにも傷は軽いって」

俺の落ち着いた様子を見てか、そうかと呟いた。

「お医者様が言うには、もう帰っても大丈夫だそうよ。良かったわね」

「そう、ありがとう。ところで…」

母親に向けて笑顔を浮かべていた彼女が突然不安そうにこちらを向いた。

「あの人達はどちら様?」

そこに居た彼女以外の全員が何を言ったのかわからず、空気が固まった。

「え…な、何言ってるの?真選組の方たちよ?」

「真選組……その人達がどうしてここに?」

再び自分の足元が無くなった気がした。

















「おそらく、事故の衝撃による記憶の混乱でしょう」

そうお医者さんに言われても、私自身は少しもピンとこなかった。
何を忘れてしまっているのかすら解らない。
まるで大掛かりなドッキリでも仕掛けられている気分だった。


「本当に思い出せない?局長さんの事も?」

ベッドに戻ってからも、心配そうに私を見つめる母の事はとてもよく憶えているが、その母が言う局長さんとやらの事はまったく解らないのだ。

ゆっくり首を振れば、部屋にいる誰もがため息を吐いた。
それを見てまるで自分が犯罪を犯したような気分で心苦しくなる。

「局長さんはね、あなたの恋人なのよ?思い出さない?」

その言葉が脳まで届くのにとても時間がかかった。
そう告げた母の顔と、局長さんと呼ばれる真選組の隊服を着た、ごついゴリラのような男の泣きそうな顔…いや、すでに泣いている男の顔を何度も見比べた。

「いやいやいやいや!冗談止めてよ!私のタイプじゃないよ!?お母さん知ってるよね!?」

「ちょっと!夢子!」

諌める母の後ろでショックを受けて泣いている男を凝視する。

私とこの人が…恋人だった?

いくら見ても思い出せない。やはり私を騙しているのか。そうとしか思えなかった。
むしろ、その隣りでその局長さんとやらを慰める真選組の人が恋人と言われた方が、かっこよく感じる分、よっぽど現実味があった。

「俺だよ!?近藤勲!夢子ちゃんの大好きな!!!」

慌てて母の隣に並び、ずいと顔を近づけられても知らないものは知らない。
大好きな、だなんてにわかには信じ難い。
どう見ても私のタイプでは無いのだ。

「とりあえず落ち着け、近藤さん。夢野も事故に会ったばっかりでまだ混乱してんだろ。医者もしばらくすれば思い出すかもって言ってたんだし、今日は一旦帰るぞ」

「嫌だ!俺は夢子ちゃんの傍にいる!」

ズズっと鼻水をすすり、嫌だ嫌だと子供のように駄々をこねているこの人が……?

「アンタが居ても何にもならねぇよ。それより、俺らは俺らのやれる事やりに行くぞ」

「やれる事?」

「夢野を轢いた犯人が署に連行されたみたいだ」

それを聞いて、さっと顔色の変わった局長さんとやらは落ち着いた返事を返し、すっと立ち上がった。
その時、それに呼応するように目つきの悪い人も合わせて、その場にいた真選組の人達皆の雰囲気が変わった気がした。

「そいつには、しーっかり反省してもらわんとなぁ」

静かに笑った彼らは、明らかに危ない感じがした。

「じゃあ、夢子ちゃん、また後でな!」

再び私に顔を向けた時には、直前のすごみは消え、優しく笑顔を浮かべていた。
そして両親へと頭を下げた局長さんを筆頭に、ずらずらと真選組の隊士達は部屋を後にしていった。

彼らの事は何も憶えていないが、妙な安心感と心強さは心の底から湧き上がってきていた。












タクシーが止まった所で母に降りるよう促された。

「さあ、着いたわよ」

お金を払った後、同じように降りてきた母について、真選組屯所の文字が書かれた立派な門をくぐったが、正直気は重かった。

できるだけ事故前と同じ生活をした方が記憶が戻りやすい。

そう医師に言われた為、ここに来る事になったのだ。

ここに住んでいた。
そう言われても全く憶えていない場所で生活するなんて。
両親にそう訴えても、記憶喪失が治るようにと。そして明後日から豪華クルージングツアーに行くらしく、私一人で家に居られても困るらしい。
おそらく後者の理由の方が大きいだろう。

ひょっとして、実際にその場へ行けば何か思い出すかもしれない。
そんな淡い期待も見事に打ち砕かれてしまった。
大きく深呼吸をして、ここまで来たからには仕方ないと腹を括った。



「ごめんください!お邪魔します!」

そう言い終わるか否か、ばたばたと廊下の奥から、あの人が猪の突進のように現れた。

「局長さん、こんにちは。すいませんがまたこの子をお願いしますね」

「いえ、任せていてください!全員で夢子ちゃんを護りますよ!」

「…よろしくお願いします」

そう頭を下げれば、彼は少し眉を下げて笑った。





廊下を歩いて部屋へと案内された。
その途中で出会う、隊士達に何度も声をかけられた。
皆それぞれ私の身を案じてくれたり、明るく話しかけてくれる。
それなのに私はその誰もが解らない。
それがまた申し訳ない。


「夢子ちゃんの母上は忙しいんだな。せっかくだからお茶でもと思ったのだが」

「すみません。明日から旅行に行くとかで…大事な娘が事故に会ったばっかりというのにひどいですよね」

「ははっ。御両親も楽しみにしてたんだろう。それに俺達を信頼してくれているみたいで、俺は嬉しいよ」

「そう…なんですかね」

信頼…しているのだろうか。
この男だらけの家に娘を置いていける程、両親は彼らの事を信頼している?
……私も同じように思っていたのだろうか。



ここ。と案内された部屋に入ると、私物がいくらか置かれており、ここが私の部屋だったのだろうということは容易に想像できた。
それでも、ここは知らない部屋だった。

「……やっぱり思い出せない?」

こくりと頷けば、そうかと呟いた。

「じゃあ、解らない事もあるだろうし、何かあれば誰にでも聞いてくれ」


「あのっ!」

じゃあと手を上げて、部屋を後にしようとした彼を呼び止め、問いかける。

「私と…局長さんは…その…恋人同士だったって…本当ですか……?」

一瞬驚いた後

「本当だ」

と、とても優しい声で答えてくれた彼の表情が今にも泣き出してしまいそうな笑顔で、自分でも不思議な程心が締め付けられた。








部屋を見回して見る。
置かれた私物は、見覚えのあるものから、買った覚えの無いものまで様々だった。

持って来た物を一通り片付けた後、一息ついて、ふと思いついた。

捜し物をしながら、引き出しや押し入れ等、順番に覗いていく。

「…無いか…」

ため息と一緒にぽつりと呟いた。

「捜し物?」

「きゃあああ!」

その声に視線を移せば、さっき出ていったはずの局長さんが押し入れから覗いていた。

「な、な、何してるんですか!?」

「夢子ちゃんが心配で」

「や、や、や、やめてください!!」

驚きすぎて心臓が痛い。

「何か探してたのか?」

私の言葉など意に介していないように、局長さんは、するりと私の隣に並んだ。

「いえ、日記…みたいなのがあればなにか思い出すかな…と思ったんですけど…やっぱり私はそういうタイプじゃなかったみたいですね」

そうがっくりと肩を落とした。

「夢子ちゃん!」

名前を呼ばれて顔をあげれば、両腕を広げた局長さんが。

「……えっと……なんですか?」

「ギュッてしたら元気出るだろ?それに何か思い出すかもしれねぇし!」

「いやいやいやいや!結構です!!無理です!!!」

後退りながら、顔と両手をちぎれんばかりにブンブンと大きく振った。

信じられない!ほとんど会ったばっかりのような、こんな男に抱きつけと言うのか!

大袈裟なほど拒否の反応を見せると、そうかと残念そうに笑う局長さん。
嫌悪感が湧き上がってもおかしくないのに、不思議と私は胸が締め付けられていた。


「ケータイは?」

「え?」

胸を押さえて、この不思議な感情について考えていたのをやめて、彼へと視線を戻した。

「カレンダーとか、メールの履歴とか、画像とか。日記の代わりになったりしてないか?」

そう言われて、机の上に置かれたケータイを見た。

そういえばその辺りはまだ確認していない。

馬鹿なのかと思っていたが、意外と機転がきいているな。とか失礼な事を考えながら、ケータイを手に取ると、まずは画像フォルダを閲覧していく。

やはりと言うべきか、上の方にある新しいものには見覚えが無い。
ゆっくりと進めていく。

「あ、この写真、あの時の」

私よりもかなり背が高い局長さんは、私の肩など余裕で追い越して、一緒に画面を覗き込んでいた。

「ちょ、やめてください!プライバシーの侵害ですよ!」

急いで画面を閉じて、ケータイを後ろ手に回した。

「えー」

「それに、勝手に部屋に入らないでください!」

「夢子ちゃんが心配で…」

「そんなストーカーみたいな事はやめてください!困ります!気持ち悪いです!」

「すまん…」

しゅんと謝る姿に、うっとたじろいでしまう。
私は、彼のこういう姿が苦手だ。
それは何となく解った。

「と、とにかく、ストーカーみたいな事はやめてください!また嫌われますよ!」

局長さんを無事に追い出し、ため息をついてから、さあとゆっくりケータイを取り出して調べていった。











屯所での生活は、始めに心配していた程の事は無く、不思議と困る事は無かった。
感覚が憶えているのだろうか。
それでも記憶は戻らなかった。

それに、怖そうと思っていた彼らがとても優しく不思議と安らいだ。

ただ、困った事が続いていた。



数日経って元々軽かった傷もほとんど治り、包帯もとれた頃、やっと外出許可がおりた。
私を心配した彼らが病院以外の外出を認めなかったのだ。
病院にもパトカーで2,3人を連れて行くという何とも落ち着かないものだった。

今日も心配そうに見送る彼らを置いて、1人で買い出しに出かけた。
自分に必要な日用品や、ついでに夕飯の買い出しを少し。
両手に荷物を抱えて、さぁ帰ろうかと店を出たところで、声がかけられた。

「夢子ちゃん偶然!今帰り?」

「…またですか?局長さん」

嬉しそうに頭をかく局長さんを見上げて、ため息を吐いた。
私が出かけると、いつの間にか現れる。
毎回だ。
出かけた時だけではない。屯所内でいてもだ。

「仕事中じゃないんですか?」

「夢子ちゃんの周りを重点的に護ってるところ」

本当に私はこんなストーカーと付き合っていたのか?と不思議で仕方ないが、実際にメール等の履歴から認めざるを得なかった。

「…そろそろ本当に止めてください。落ち着かないです。局長さんの仕事をしてください」

毎回のようにそう伝えるが、まったく届いていないのだろう。ニコニコと楽しそうに私の両手から荷物を取ってしまった。

もう…とため息をつくが、そこまで嫌な気分ではなかった。









「夢野と近藤さんの馴れ初め?」

キチンと正座をして、目の前の副長さんへと長く抱えていた疑問をぶつけた。

「近藤さんから聞いた方がいいんじゃねぇか?」

「それは…」

私と局長さんの関係を聞いた時に浮かべる表情がとても悲しそうで、それを見ると私の心もざわめく。それが辛い。

「……わかった。……そうだな……元々は見合いだ」

「お見合い……?」

意外なその言葉に驚いた。
私がお見合いを?

「じゃあ、もしかして政略結婚とかだったりするんですか?」

「まあ…初めはそうだったかもな」

やっぱり。私の好みのタイプと全然違う彼が恋人だなんて信じられなかった。
お見合い、政略結婚、そう言われるとしっくりくる部分がある。

「でも、誰の目から見てもアンタらは好き同士で幸せそうだったぞ」

そう笑う副長さんを見るとふわふわと妙な気分になった。










好き同士。

副長さんに言われたその言葉がずっとぐるぐると回っていた。
解るような解らないような。


「よいしょ」

天気が良い今日は布団を干すのにうってつけだった。

考え事をしながら、黙々と布団を運んでいく。

「ぅわっ!」

見えない足元に縁側で躓いてしまった。
倒れる衝撃にぎゅうと目を瞑った。

「ふぅ…危なかった」

その声に目を開けば、市中見廻りに行ったはずなのに、布団ごと私を抱きとめる局長さんの姿があった。

「な…んで…ここに…?」

「夢子ちゃんの周りを重点的に警備中」

にかりと嬉しそうにそう言った。

その瞬間、頭の中で何かが浮かんだ。
布団の中で嬉しそうに笑う彼。
どくどくと心臓が高鳴る。
なんだろうか。この気持ちは。

「大丈夫?」

「あ、は、はい。すいません、ありがとう…ございます…」

高鳴る胸を押さえながら、局長さんにお礼を伝えると、笑顔を向けて布団を部屋へと運んでくれた。

「無理しないように」

頬に貼られた絆創膏を優しく撫でる。
その手がとても優しかった。

「じゃあ、本当にいってきます」

そう言って頭をぽんと撫でた手を振って背を向けた。
それがとても寂しく、思わず手を伸ばして引き止めてしまった。

「何?」

「あ……いえ…いってらっしゃい」

彼はとても驚いた後、嬉しそうに、とても嬉しそうに笑った。









天気予報の通り、空は遠くまで晴れ渡っていた。


「明日、一緒にでかけませんか」

そう声をかけてから、いや、そうしようと決めてから今日までソワソワと落ち着かない日を過ごしていた。

恋人同士だったという局長さんと一緒に過ごしてみたい。
何か思い出すかもしれないという期待もあったが、正直なところ、それよりも彼の事が気になっていた。
全然タイプではない彼が時折見せる表情が、仕草が、声がたまにとてつもなく苦しくて悲しくて切なくて嬉しくて幸せで。
自分でも解らない感情をどうにかしたかった。
いつもより気合いを入れてオシャレをしたのは、きっとそんな気持ちのせいなのだろう。





「何処か行きたいところある?」

「いえ、局長さんにお任せします」

ん、と返事を返す局長さんはいつも通り少し悲し気に見える。

「じゃあ行こうか」

そう言って自然に手を繋がれて、歩き出した。
一瞬で全身の熱が上がる。

「あ、あの」

「ん?」

「て、手…」

「あ、す、スマン!」

局長さんが慌てて手を離した。
自分で言ったことなのに、何故か物凄く切なくて名残惜しく感じてしまった。

「あ………いえ、やっぱり繋いでもらっていいですか?」

眉を下げて嬉しそうに手を繋いでくれた。
この大きな手がとても愛おしく感じた。






「それで、ここは前に一緒に雨宿りをした場所で……」

いくつかの場所を2人で回るが、やはりと言うべきか特に思い出す事は無かった。
心がスッキリするよりも、むしろその真逆でモヤモヤとするばかりだった。
何も思い出せないからではない。
局長さんから聞く、私との思い出の話、デートの場所、それらを聞くと何ともいえず心がざわめくのだ。

「その時に夢子ちゃんが言ってくれたんだけど、憶えてない?」

今日何度目かわからない問いかけに小さく首を横に振る。
そうか。と悲しそうに返すのも何度目か。

「じゃあ、次は公園に行ってみようか。その公園は春に2人で…」

「局長さんは」

立ち止まって話を遮った。

「私が記憶を取り戻した方がいいんですよね」

「え?そりゃあもちろん」

そんな事解っている。だからこそ今日付き合ってくれたのだ。

「もし、私の記憶が戻らなかったらどうですか?」

「どうって…そんなの、戻るまでいくらでも付き合うよ」

そう真っ直ぐ見つめながら力強く言い切った局長さん。
きっと普通は嬉しい言葉なのだろう。
でも、今の私には辛かった。

「……局長さんは、記憶が無い私じゃなくて、記憶がある私がいいんですね」

「え……」

「私は、また1番にはなれないんですね」

流れる涙を見られたくなくて、逃げ出そうと勢いよく顔を背けた時、頭の中でカツーンと何かが落ちる音がした。

そうだ。

あの時も同じ。

この人から逃げようとしたんだ。


あっと思った時には、彼の暖かくて優しくて力強い腕にぎゅうと抱きしめられた。

「違うんだ。記憶が戻らない夢子ちゃんが辛そうだったから、俺、早く思い出させてやりたくて………いや、早く大好きな夢子ちゃんが、また俺を好きになって欲しくて…つい焦って……記憶があっても無くても夢子ちゃんは夢子ちゃんで……ああ、もう、上手く言えないっ!」

うぅっと唸りながら、抱きしめる腕に力を込めながらぐりぐりと顔を埋めるから、くすぐったくなる。

「いいえ、近藤さんの気持ちはちゃんと伝わってきましたよ。私こそ、わがまま言ってごめんなさい」

「そんな、わがままなん……て……え?今、近藤さんって」

「おかげさまで、無事思い出せました」

にこりと笑顔をむければ、そこには笑顔で涙を流す近藤さんが。

「良かった…本当に良かった。俺、忘れられたまま嫌われて、一生夢子ちゃんと一緒に居られないかと…」

「ふふっ。それは無いです」

「どうして?」

「私、近藤さんの事忘れてしまっても、過去の私に嫉妬する程、また近藤さんに恋をしてしまってましたから」

「夢子ちゃん……っ!」

照れながらも更に近藤さんに強く抱きつくと、お返しにと更に抱き締め返してくれる。
久しぶりの感覚がとても嬉しい。









例え思い出せなくなっても、心はずっと近藤さんを思い続けている。
何度でもあなたに恋をするみたいです。




 





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