周りを見回しながら街中を巡回していた。
目の端に見覚えのある姿を見つけ、小走りで駆け寄って行く。
「夢子ちゃん。奇遇だな!」
そう声をかけながら肩に手を乗せると、とても驚いた顔の夢子ちゃんが振り返り俺を見上げた。
「こ、近藤さんッ!どうしたんですか!?」
「俺は見廻りしてたところ。夢子ちゃんは?」
はぁとため息を吐きながら「買い出しに来てました」と言う夢子ちゃんの手元には荷物が二つぶら下がっていた。
「まだ何か買うのかい?」
「いえ、今から帰るところですよ」
「そっか。じゃあ一緒に帰ろう」
「えっ!?」
持っている荷物に手を伸ばすと、でも、あの…と彼女は慌てた。
「お仕事は…?」
「夢子ちゃんの警護に変更」
そう伝えれば彼女は更に目を見開いて俺を見つめた後、下を向いて黙りこくってしまった。
あぁ、また引かれてしまったかな。
そう思うが、今更な事とそのまま荷物を奪い歩き出した時、後ろから小さな声が聞こえた気がした。
やっと2人きりになれたと、嬉しく浮かれたようにいろいろと話しかけた。
天気の事、屯所での事、自身の事、彼女の事……。
話しかけただけ返事をもらえるのだが、特に楽しそうでもなく、何か無理をさせているような違和感のある返事が多いように感じた。
やはり嫌われているのか、警戒しているのか。
何か彼女が楽しめる話題は………
「あ、あの店…」
目に止まったのは、"大人気!数量限定フルーツ大福!"の大きな看板だった。
「最近新しくできたお店ですね。…フルーツ大福……」
「美味そうだな」
「美味しそうですよね!あんなに大きなフルーツが入ってる……」
目を輝かせながら返ってきたその言葉は今日一番の彼女の心からの言葉に感じた。
「じゃあ、ちょっとあそこで休憩しようか!」
その反応が嬉しくて、彼女を誘った。
「えっ!?でもまだ仕事中ですし…荷物も……えっと……」
「大丈夫!ほら、荷物持って歩き疲れただろ?美味いもの食って休むだけだし!それにフルーツ大福って気になるよな!夢子ちゃん!」
少し強引に誘い過ぎたかなと思いながらも彼女を見ると、少し嬉しそうに「はい」と言葉を返してくれた。
それがまた堪らなく可愛くて嬉しい。
「よし、じゃあ行こう!」
きっとこういうものが好きなんだろう。
夢子ちゃんが嬉しそうに食べる姿が観たいと、彼女の手を引いて店へと入って行った。
「いらっしゃいませー」
少し広めの店内でも、空席を探す程には繁盛しているようだった。
きっと美味いのだろうと期待が持てそうだが、一抹の不安が過ぎった。
「あの、表の看板に書いてたフルーツ大福ってまだありますか?」
「申し訳ありません。本日分は全て完売しておりまして…」
やっぱり。と肩を落として夢子ちゃんを見れば、彼女も同じように下を向いていた。
せっかく楽しみにしていただろうに。
「えっと…フルーツ大福は売り切れだけど、他のものはあるみたいだし…それでもいいかな?」
そう話しかけても返事は無く、下を向いたままで反応が無かった。
「夢子ちゃん?」
余程ショックだったのか?と繋いだままの手をクイと引っ張ってみた。
「あ、はい!な、何ですか!?」
「いや、フルーツ大福売り切れみたいだけど、どうする?それでもいい?」
「だ、大丈夫です!!」
その返事を聞き、ほっと安心して、先程から待っていてくれていた店員に案内を促した。
その時、聞きなれた音楽が自身のポケットから流れてきた。
その元であるケータイを取り出し、ディスプレイを確認して通話ボタンを押した。
心配そうに見つめる夢子ちゃんを横に見ながら返事を返し、通話を切った。
「夢子ちゃん……すまん。悪いが急いで行かにゃならんくなってしまった」
「そうですか………残念ですが仕方ないですね」
一瞬悲しそうな顔をしたように見えた夢子ちゃんだったが、すぐにいつもの笑顔を俺に向けた。
やっぱりそれ程乗り気ではなかったのだろうか。
楽しみだったのは自分だけだった事にガッカリとしながらも、むしろ彼女がガッカリしなかったのなら良かったじゃないかとプラス思考へと変えた。
「じゃあ、すまんがここで……」
「いえ、大丈夫ですよ。屯所まであと少しですし」
いつもの笑顔で手を出した夢子ちゃんに持っていた荷物を渡し、その手で頭をかいた。
「それじゃ…」
「はい。気をつけて、行ってらっしゃい」
にっこりと笑って見送ってくれた夢子ちゃんに後ろ髪を引かれながら、呼び出し先へと向かった。
呼び出し相手のトシと屯所の廊下を歩いて自室へと向かっていた。
日はもうとっくに暮れ、疲労が身体を覆っていた。
先程まで関わっていた事件についてトシと話しながら歩いていると、何やら食堂が騒がしかった。
何事かと騒ぐ輪の中心へと入り込むと、皆一様に大福を食べていた。
「何してんだ?」
「局長、これすっごい美味いですよ!」
もぐもぐと幸せそうな顔で大福を頬張る山崎が、これ。と食べかけの大福を見せてくる。
その大福は、昼間に彼女と見つけたフルーツ大福にとてもよく似ていて見るからに美味そうだった。
「どうしたんだ?これ」
「夢子からの差し入れでさァ。さっきまでせっせと作ってやしたぜ」
皆と同じく大福を頬張りながら総悟が答えた。
夢子ちゃんからの差し入れ…!?しかも手作り!?
そんなの知らなかった!何で早く教えてくれねぇんだ!俺にもくれ!
と、群がる奴らを押し退けてその輪の中心へと向かったが、そこにあったのはただの大皿1枚だけであった。
「なっ!1つも残ってねぇ!」
「残念でしたね、近藤さん。こんなにうまいのになァ」
そう言いながら見せつけるように最後の一口を頬張る総悟。
悪意の塊でしかないと思った。
「俺にも残しといてくれたっていいだろ!」
涙目になりながら皆に訴えるが「早い者勝ちでしょう」「これは手が止まんなかったよなぁ」「めちゃくちゃ美味かったなぁ」と全然響いていなかった。
むしろ「局長はまた今度夢子さんに作ってもらえばいいでしょう」という言葉が自身に刺さった。
そう気軽に言えればこんなに必死になりはしないのに。
がっくりと項垂れながら、自室へと足を向けた。
帰宅直後も疲れて足は重かったのに、今は沈んだ気持ちがそのまま足にのしかかり、その数倍重くなってしまった。
廊下を曲がったところ、部屋の前に何かが置かれているのが目に止まった。
訝しげにずりずりと近寄り見てみると、それは皿に乗せられた大福だった。
これは、もしかして
慌てて皿を持ち上げると、ヒラリと紙が落ちた。
拾い上げて目を通す。
゛お疲れ様です。お店の味には劣ると思いますが、よろしければどうぞ。゛
差出人の名前は無かったが、少し丸みのある可愛らしい文字で書かれていること、店のこと、皿に乗っているのが先程食べ損ねたはずのフルーツ大福な事。
ー夢子ちゃんッ!
気持ちも気遣いも彼女の手作りが食べられる事もいろんなことが嬉しくて、彼女に対する気持ちが更に高まるのを感じながら、大福を一口頬張る。
「うん。最高に美味い」
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