土方さんにバレた


屯所で暮らすようになって三週間程が過ぎた。

真選組の隊士達とも普通に挨拶をかわせる程度の仲にはなれたが、でも、所詮はその程度。
ボロが出ないように関わりは最低限に抑えていた。



「山崎さん、おかえりなさい。」

「夢子ちゃん、ただいま。ちょうど良かった、副長が呼んでたよ。」

「土方さんが?」

何だろう?と首を傾げながら、彼の部屋へと足を進めた。







土方さんがいる部屋の前で足を止めた。

「土方さん。夢子です。」

中からの返事を確認して襖を開けると、部屋には隊服に身を包んだ土方さんがあぐらをかいて煙草を吸っていた。

「話って何ですか?」

「まぁ、そこに座れよ。」

土方さんに促されて向かいの座布団に正座し、彼の纏う雰囲気に萎縮しながらも、彼からの言葉を待った。

「…近藤さんとはうまくいってんのか?」

「え?まぁ、そうですね。良くしてもらってますよ。」

「そうか。まぁ、二人を見てたらわかるか。」

三週間の間、本当に夢かと思うような毎日だった。
近藤さんは私を気にかけてくれるし、とっても優しい。
少なからず好意を持ってくれているのではないかと自惚れる程である。
…それが例え身代りだとしても幸せだった。

「えっと…お話はそれだけですか?」

「いや、そうじゃなくてだな…」

口篭りながら、私を見る土方さん。
珍しいなと思いながら、意味がわからず首を傾げた。

「……アンタ…一体どういうつもりだ?」

「どういうって…」

「何でそうやってずっと志村妙の"マネ"してんだ?」

その名前を聞いた途端、すうっと身体中の体温が下がり、頭が真っ白になった。
バレている。
私がずっとお妙さんのマネをしているのを…
どくんどくんと自分の心臓の音がいやに耳につく。

「なん…の…事ですか…」

必死に絞り出した言葉は掠れ、震えていた。

「アンタ、何かいっつも無理してんだろ。」

「いや、マネとか無理とか…これが私の素で…」

「誤魔化さなくていい。俺はアンタが屯所に来る前から知ってたんだよ。」

「え!?」

「アンタ、一年ぐらい前から近藤さんの周りうろちょろしてただろ。」

体温はどんどん下がっているのに、変な汗が止まらない。
指先が、唇が、震える。

「あ、や、人違いじゃ…」

「確かに髪色や雰囲気が違うが、顔くらい覚えてんだよ。それにその簪、いつも見かけてた奴と一緒なんだよ。誤魔化すならその簪は外しとくべきだったな。」

「これはっ!」

急に声を荒げた私に土方さんは眉を寄せる。

「これは…近藤さんが私にくれた大事な宝物なんです。」

「は?」

「…バレているなら仕方ないです、正直にお話しします。」

深呼吸をして真っ直ぐ土方さんを見る。
そして一年程前の出来事を話しだした。




 





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