ふたりめ


左近が出て行ってから少しして、階段上から話し声が聞こえてきた。

「だから夢女ちゃんっすよ!」

「知らぬと言っておろう。」

「刑部さんも覚えてないんすか?あんだけ一緒にいたのに!」

「知らぬ。」

「あーもう!とりあえず一回会ってくださいよ!」

懐かしい声がだんだんと降りてくる。
声がハッキリ聞こえるのに比例して自分の心臓の音もどくんどくんと大きく体に響いていく。


「夢女ちゃん。刑部さん連れて来たけど…刑部さんも覚えてないみたいで…。」

先程の勢いは何処へ行ったのか、しょんぼりとした表情の左近が現れ、続いてふわふわと輿に乗った、全身包帯だらけの姿の刑部が現れた。


1つ、大きく息を吐いて、彼に問う。

「刑部…うち、夢女やけど…わかる?」

「…さてなぁ…夢の中か何処かで出会ったか?…」

包帯の下で警戒した表情を浮かべているのがわかる。
ずんと暗い気持ちが胸を覆っていった。
しかし、それでも刑部に会えただけでも良かった。

そう、目頭が熱くなるのを感じながら、ふとある事に気付いた。

前の世界の時より包帯が厚く巻かれている。
病気が悪化したのか、あの世界での出来事は無かった事になってしまっているのか。
どちらにせよ、彼のその体が心配だった。

「包帯…病気治ってきてたのに…」

そう呟いて刑部の手に触れた。
その瞬間、触れた手を思い切り振り払われ、後ろへと後退られた。

「われに触れるな!」

怒り、憎しみ、私を睨みつけるその目には負の感情が渦巻いていた。

「あ…ご、ごめん…なさい…」

こんな刑部見たこと無い。
自分の浅はかな行動で怒らせてしまった事に自己嫌悪に陥る。

刑部に嫌われた。

払われた手をぎゅうとにぎりしめて俯いた。

「…夢女…?」

名前を呼ばれて視線を刑部にむけると、先程までのどす黒いオーラが消えていた。
その代わり大きく目を見開いた刑部と目があった。

「われ…は…何故…忘れていた…」

「っ!刑部さん!もしかして!?」

「全て思い出した。夢女…すまぬ…」

目を伏せる刑部に近づく。

「刑部…うちもごめん…その…」

「ぬしのせいではなかろ。全て忘れておったわれが悪い。」

「刑部ぅ…」

刑部へむけて手を伸ばす。
先程の強い拒否ではないがやんわりと後ろへ下がられる。

「われは…以前の体とは異なる。われに触れればぬしも不幸になろう。」

「大丈夫。だって刑部と一緒におって、触れて不幸になったことなんか一回も無いもん。」

そう言って再び手を伸ばして刑部に近づく。
今度は拒否されることなく輿を降ろし、抱きとめてくれた。
嬉しくて、嬉しくて、強く刑部の体を抱き締めて大声で泣いた。




 





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