勢いよく襖を開けて半兵衛の部屋に入る。
「半兵衛、おはよう!」
「夢女君。体調はもういいのかい?」
「おかげさまですっかり元気。朝から左近とちょっとだけお城の中見たけど、凄いな!楽しかったー!」
「ふふっ、それは良かった。本当にすっかりよくなったみたいだね。…それじゃあ行こうか。秀吉のところに。」
口を一文字に結んでこくりと頷く。
今から秀吉に会いに行く。
おそらく秀吉もうちの事は覚えてないだろう。
でも、大丈夫。
半兵衛がついててくれる。左近と刑部もいる。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら長い廊下を歩く。
「ここだよ。」
一際大きくきらびやかな襖の前で半兵衛が足を止める。
ここに秀吉が…
襖を開けて中へと足を進める半兵衛の後に続く。
幾つ襖を開けただろうか。
その襖を開けた時、空気が変わるのがわかった。
これが威圧感。
「秀吉、話していた子を連れてきたよ。」
「半兵衛か。」
半兵衛の後から部屋に入ると、威圧感の主である大きな人物が目に入る。
半兵衛に促され、畳の上で正座をする。
見上げた目線の先には、以前より少し大きくなったような気がする秀吉がいた。
「この小娘が…」
「そうだよ、秀吉。覚えていないかい?」
「知らぬ。」
表情1つ変えずに答える。
「夢野夢女という名前…聞き覚え…ありませんか…?」
願うように自分の名前を伝える。
それでも。
「知らぬ。」
やっぱり…と落胆する。
でも、3人みたいに話したりすれば思い出してくれるかもしれない。
そう思って口を開こうとした時。
「半兵衛よ、話はそれだけか。ならば我は行くぞ。」
「えっ」
「秀吉ッ!待ってくれ!夢女君の話を聞いてくれないか!」
半兵衛が引き止めるのも無視して秀吉が部屋を出て行こうと立ち上がる。
「お願いします!うちの話を聞いてください!」
膝の上で手を固く握りしめる。
「秀吉!僕からもお願いするよ!」
それでも秀吉は無言で背を向けて歩き出す。
やだ、やだ、このままじゃあ一生思い出して貰えないかもしれない。
大好きな、お父さんのようだったあの背中を思い出す。
「いや、お願い…待って…秀吉ぃっ!!」
立ち上がり、部屋に響く大きな声で叫ぶ。
その時、秀吉の足が止まり、ゆっくりと振り返る。
それまで感じていた威圧感がふっと無くなる。
「夢女…か…?」
目があった秀吉の顔は、先程までの睨むような表情ではなく、うちがよく知っている厳ついけど優しい顔だった。
「我は…」
「秀吉!もしかして、思い出したのかい?」
半兵衛が秀吉の元へ駆け寄る。
「半兵衛、これは…」
「何故だか僕等は夢女君や以前の世界に関する記憶を失っていたようなんだ。」
「何故…それに何故夢女が此処にいるのだ。」
「うちもわからへんねん。気が付いたら大坂城おって、捕まって皆に会っても覚えてへんとか言われるし…でも…秀吉も思い出してくれて良かった。」
ほっとしてへなへなとその場に座り込む。
自分の手を見ると微かに震えている気がした。
良かった。本当に。
大きな手が視界に入る。
見上げると秀吉が座り込んだ私に手を差し伸べていた。
「秀吉…っ!」
その大きな手を掴んで立ち上がり、そのままその手の主に近付く。
やはり前より大きい気がする。
そう感じながら、出来るだけ手を伸ばして抱きついた。
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