さわやまへ


やっと馬から降りて地面に足をつこうとするがうまく立てず、ふらりとへたり込んでしまった。

「う…うえぇ…やっと着いた…お尻痛いし、脳ミソぐらぐらする…」

「お疲れ。」

「同じだけ馬に乗ってたのに何で左近は何ともないんよ!」

「そう怒るな。ほれ、見やれ。佐和山の城に着いた。」

刑部に言われ、顔をあげる。

「うへぇー立派やなぁ。」

ゲームで見たのとはまた違う、本物の城だった。

ここに三成がいる。















「まだ着かへんのー?」

城の中に入ったはいいが、今度は三成の部屋までが遠い。

「まぁまぁ、もうすぐだって。」

自分と同じだけ行動しているハズの左近だが、少しも疲れを見せずに二人の前をずんずん歩く。
ふと、いくつ目かの廊下の角を曲がった時、左近が足を止めた。

「あっ!三成様!」

どきんと心臓がはねる。

三成に会うため、わざわざ佐和山の城まで来たが、こんなに急に出会うなんて、心の準備が…

うちの心境なんて知らない左近は、三成の名前を呼びながら廊下を駆けて行く。
そんな左近を早鐘を打つ心臓を落ち着けながら刑部と早歩きで追いかける。

三成まであと10メートル。
左近の陰にちらりとその姿が見える。
あと数メートル。

三成の睨むような鋭い眼差しと目が合う。

「あ、あの…」

「誰だ、貴様は。」

目の鋭さを変えず、真っ直ぐうちに問う。
やっぱり。
左近が心配そうにこちらを振り返った。

大丈夫。
うちにはこうやって心配してくれる人がおる。
左近と刑部がついててくれてる。
秀吉も半兵衛も待っててくれてる。
この世界に来たばっかりのときとは違う。
うちは一人じゃない。

左近に笑顔をむけ、三成に視線を戻す。

「夢野夢女です。この名前に聞き覚えはありませんか?」

「知らん。」

バッサリ切り捨てるような言いぐさ。
心にぐさりと来るがもう馴れたものだ。

「左近、この女は何だ。何故勝手に城内に入れる。」

「やっぱり三成様も覚えてないんすね。」

左近はうちよりも落胆した顔で肩を下げていた。

「三成よ、こやつは夢女といってな、しばらくの間此処で預かる事になったのよ。」

「此処でだと?誰が決めた。」

三成の眉間のシワがより深くなる。

「…賢人よ。」

「半兵衛様が…?……まぁいい。」

話を切り上げて歩を進めようと足を踏み出した三成の前に立ちはだかる。

「あのっ!後ででもいいんで、少しお話しよろしいですか?」

出来るだけ交流を持たないと。
何がきっかけで思い出すかわからないから。

その思いを知らない三成は凶王のオーラを纏いながら話す。

「そこをどけ。貴様なんぞに興味はない。」

うっ…突き刺さるなぁ。
でも負けてはなるかと食い下がろうとした時。

「三成様〜。」

パタパタと可愛らしい足音が三成の後ろから近付いて来る。

豪華な着物を身に纏い、艶やかな黒髪を綺麗に束ねた小柄な女性が三成の隣に立つ。

「あっ申し訳ございません。お話し中でしたか?」

綺麗な人。
思わず見とれてしまう。

「えっ、いや…」

「そうですか。ねぇ三成様、見てください。お庭にこんなに綺麗な花が咲いておりましたよ。」

その綺麗な人は可愛らしい小さな花数本を両手で持って三成の方へと差し出していた。
三成へむけられた笑顔は女の自分でも見とれるほど綺麗なものだった。

「えっと…三成…その方は…?」

「貴様には関係ない。」

そう。と答える顔がひきつるのがわかる。
そうか。
うちが大変な目に遭っているとき、三成はこのかわいこちゃんと仲良くしてたと。
前の世界で散々うちに迫ってきてたのも遊びだったのかと。
そうか。

「夢女ちゃん落ち着いて。この方はこの地方の大名の娘さんで…」

「いいねん、左近。べっつにそんな事気にしてないから。」

「いや、超怒りのオーラがでてるっしょ。」

そう言われて左近をキッと睨み付ける。
三成の方へ視線を戻し、出来るだけ笑顔を作るが、顔がひきつるのが自分でもよくわかる。

「では、そういう事なんでしばらくの間お世話になります。行こう!左近!刑部!!」

くるっと踵を返してもと来た廊下を歩く。
おろおろとしながらも左近はうちについて来た。
その後ろで、刑部が肩を震わせていたのをうちは知らない。






 





豊臣家2トップ
小説トップ
トップページ