ごにんめ


佐和山に来て四日。
三成は相変わらずうちを思い出してくれない。

何故だろう。
他の皆は結構直ぐ思い出してくれたのに。
何が違うのか。

出来るだけ三成と話をしようとはしている。
でも、あの姫さんがちょろちょろと邪魔をするのだ。

大体、三成も三成だ。
何であの姫さんを諌めない?

……三成はあの人が好きなんだろうか…

そんな事を考えながら廊下をとぼとぼと歩く。

「うぎゃっ!」

下を向いて歩いていたせいで、障子が開いたことに気づかず中から出てきた人とぶつかってしまった。

「すいません!」

謝りながら顔をあげると、さらりと揺れる銀髪が目に入る。

「三成…。」

「何だ。」

「あ、いや……そうや、今暇してない?左近達と…」

「三成様?」

みんなでお茶でも。と誘おうとした時、三成の陰からひょっこりと姫さんが顔を出す。

「あら。えっと……夢女様でしたっけ?何かご用ですか?」

「あ、いや…別にないです…」

「そうですか。では三成様、参りましょう?」

そう言って姫さんは三成の腕へと自らの綺麗な腕を回す。
それを見たとたん、一気に頭に血が上った。

「なんなんよもう!ええわ!左近!刑部!もういいから大坂城に帰ろう!!」

うちの後から三成の部屋へ向かっていた左近と刑部がやっと追い付いてきた。
急に怒鳴り声をあげるうちに怪訝な顔をしながら刑部が近付いて来る。

「夢女よ、どうした。」

「どうもこうもないわ!三成はこの姫さんと一緒におるほうがいいみたいやし!うちは邪魔みたいやから大坂城帰る!こんなアホ知らん!」

イライラが止まらない。
城中に響く声で怒鳴り散らし、肩で息をしながら三成を見る。

「好きにしろ。」

プッツーンと何かが切れた気がしたが、そんな事はどうでもいい。

「そっかそっか。そうやんなー。うちの事なんかどうでもやいいやんなー。すっかり忘れてるもんなー。」

「ちょ、夢女ちゃん、落ち着いて…」

うちを宥めようと左近がフォローしようとするが、そんな事もどうでもいい。

「うちが大変な時もこの姫さんと仲良くしてたんやもんな。皆で暮らしてたのも、楽しかったのも……うちの事好きやって言ってたのも全部忘れてるもんな。全部無かった事やもんな!」

泣いてたまるか。
泣いたら負けな気がする。

「何故吠える。貴様の好きにしろと言っているだろう。」

何でって…そんなの決まってる。

「三成の事好きやからに決まってるやろ!あほ!はよ思い出せやぁ!!」

ぽろぽろと涙がこぼれる。
止めどなく頬を伝う。

「三成様、わたくし怖いですわ。早く参りましょう?」

腕をぐいと引き寄せようとする姫さんの手を払い、三成がうちの目の前へ来る。
精一杯の虚勢を張ろうと涙で一杯の目で三成を睨み付ける。

「夢女…。」

更に一歩、三成が近付いてきたと思った時、両腕を背中に回され強く抱き締められた。
首筋に顔を埋める三成の髪がくすぐったい。

「み、三成様!?」

姫さんの叫ぶような声でふと我にかえる。
離れようと三成の体を押すがびくともしない。
これが武将の力かとか考えていると、耳元で三成の小さな声が聞こえた。

「今の言葉は本当か?」

「…え?」

三成の腕の力が弱まり、少し離れてお互いの顔を向かい合わせる。
その顔は凶王の顔つきではなくうちのよく知るいつもの三成だった。

「三成…記お…」

「夢女!今の言葉は本当だな!?」

うちの言葉を遮って叫ぶ。

「今の言葉って…?」

「私を好いていると言っただろう。」

「えっ、すっ、えぇっ!?ちょ、違う!あれはっ…そういうあれやなくてっ!」

あわあわと慌てて弁解しようと必死に頭を働かせる。

「夢女よ、観念しやれ。」

「刑部!?」

力を緩めているとはいえ、依然として身動きがとれないので顔だけを刑部の方へと向ける。

「そろそろ素直になりやれ。」

「夢女ちゃん、三成様の事好きっしょ。」

「そら…家族やし…」

「そうじゃなくて。恋。」

顔が一気に熱くなるのがわかる。

「夢女、そうなのか?では、私の正室に…」

「いやいや、ちょっと待って!だいたい、三成にはその姫さんがおるやんか!うち2番目とか嫌やし!」

「姫?」

三成は怪訝な顔をして後ろを振り返る。
ぽかんと成り行きを見ていた姫さんがはっと気付いたように口を開く。

「そ、そうですわ!わたくしも三成様をお慕いしております!」

「知らん。」

それをバッサリと切り捨てる三成。

「貴様が近江に滞在する間、城で世話をしろと半兵衛様が仰っていたから好きにさせていたまで。私は夢女以外いらん。」

それを聞いてわなわなと震える姫さん。

「な、な…わたくしよりもその汚ならしい、がさつな女を選ぶとおっしゃるの!?」

汚いって…がさつって…まぁ姫さんに比べればなぁ…と軽くへこむ。

「何だと…貴様…夢女を愚弄する気かッ!刹那のうちに居ね、去れ、ち…」

流石に女の子相手にそこまで言っちゃだめだと慌てて三成の口を手で押さえる。
だが、それだけでも充分堪えたらしく、姫さんはプルプルと体を震わせ、涙目になりながら綺麗な着物を翻して廊下を走って行ってしまった。

「ちょっと、三成。いくらなんでもせっかく好意を寄せてくれてる女の子にあの言い方は…」

「そんなものは知らん。それに夢女以外の女などどうでもいい。」

もうと呆れた溜め息を吐きながらも嬉しいようなホッとするような気持ちがわきあがる。

「故に夢女が一番だ。だから私の正室になるな?」

「は?いや、ちょ、待って!そんな事言ってへんから!」

「いや、言った。それに姫さんに対してすっげぇ嫉妬もしてたっしょ。」

「左近、てめぇ覚えとけよ。」

「ヒヒッ…ほれ、夢女よ、観念しやれ。」

自分の感情に素直になっていいのか、この気持ちを受け取っていいのか、頭の中で様々な思いがぐるぐると駆け回る。

「夢女…」

名前を呼ぶ三成の顔を見ると願うようなすがるような眼をしていた。
そんな目を真っ直ぐ向けられたら……

「…正室にはならない。」

「夢女…」

「でも……彼氏にはしたる。」

自分でも嫌になるほどバレバレの虚勢を張る。

「ーッ!夢女!」

息苦しくなるほど強く抱き締められる。

結局は三成に落とされて悔しい気持ちと、想いが繋がったむず痒さを噛み締めながら然り気無く三成の背中に手を回してやった。







「ってかいつまで抱きついてんねん!刑部と左近もそろそろ止めてぇや!」

「いや、三成様を止めるなんてそんな命知らずなことできないっしょ。」

「左様よなぁ。」

「夢女…」

「いや、いい加減にしようや!」





 





豊臣家2トップ
小説トップ
トップページ