それでも潜入


「おはようございます。」

朝陽が昇りきった頃、屯所を訪れた。
門の前でジミー…山崎さんに迎えられ、私がこれから使う部屋に通される。

「部屋は好きに使ってくれて構わないから。準備が出来たら広間まで来てくれる?場所はさっき教えた通りだから。」

六畳程だろうか、意外と広く感じる部屋には机だけがある。
私は急いで用意を済ませ、広間へと向かった。








「あんたが噂の近藤さんに惚れた女ですかィ?」

広間へ向かう途中、廊下で声をかけられた。
振り返ると自分と其ほど歳が変わらなさそうな男がいた。

「…お嬢と申します。今日から働く事になりました。よろしくお願いします。」

自分であのゴリラに惚れたと宣言するのは癪に障るのでわざと濁して答えた。
男は無遠慮にじろじろと見てくる。

「近藤さんに惚れただなんてどんだけヤベェヤツかと思ったけど、案外普通の小娘なんだな。ナァ、一体あの近藤さんの何処に惚れたんでィ?」

何処に惚れたかとか寧ろ私が聞きたいよ!
と内心ツッコミをいれつつ

「えっと…ゴリ…近藤さんの良いとこですか…男らしい見た目…ですか?」

「今、ゴリラって言いかけなかったか?それになんで疑問形なんだよ。」

「何言ってるんですか!そんなこと無いですよ。何ですかゴリラって。意味わかんないですよ。言いがかりはやめてください。」

「そーだぞ、総悟。お嬢ちゃんは俺のためにわざわざここまで来てくれたんだぞ。ガハハハハ!」

「ぎゃーーーー!」

油断した。
慌てて誤魔化しているところに突然ゴリラが私の後ろに現れ肩に手を置いたのだ。

「どうしたのお嬢ちゃん!ゴリラでも見つけたような悲鳴あげて。」

正しくそうだよ!
と内心ツッコミを入れつつ、なんとかごまかす。

「や、急にゴ…近藤さんが現れたんでビックリして……。あの、その、手を……。」

私の肩からよけろ!
はたき潰すぞ!
と言う言葉を飲み込んでもじもじしておいた。
ゴリ…近藤さんは慌てて手を引っ込め、誤魔化すように男の紹介を始めた。
男は沖田総悟。一番隊の隊長だという。
なるほど。土方と同じく要注意人物のようだ。

仕事があるからと二人に挨拶をして山崎さんのもとへと向かった。




 





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