ゴリラの人柄


「えっと…これで全部かな。」

両手に大量の買い物袋を持ちながら、私は町を歩いていた。
毎日あれだけ沢山の隊士の食事を作っていれば食材の買い物も大仕事である。
雑用を始めて二週間がたち、仕事に慣れはしたものの、疲れるものは疲れる。
はぁとため息をつきながら屯所への帰路を歩いていると、見覚えのある人物が前から歩いてきた。

「近藤さん。」

「お嬢ちゃん買い物?スッゲー荷物だな。手伝うよ。」

「いや、大丈夫ですよ。私の仕事ですし、局長にこんな雑用させられません。」

「なーに言ってんの。女の子は男に甘えればいいんだって。ほら、貸して。」

そう言って私から大きな荷物を奪うと軽々と持って歩き始めてしまった。
私が慌てて礼を言うと、近藤さんはいつもの笑顔を私に向ける。


この二週間でいくつか解ったことがある。
この男は見た目はゴリラだが隊士達にえらく慕われていること。
それはこいつが驚くほどお人好しであること、信頼できる人物であることが大きいだろう。
不定期で出掛けていく時があるが、なんでも想い人をストーキングしに出掛けているらしい。
それを容認する隊士達も意味が解らない。
それでも局長の座に着いているこいつはそれだけ人望があるのだろう。
ゴリラではあるが私もそれは認めている。

今も歩幅の違う私を気遣って歩く速度を落としてくれている。
買い物の帰りに"偶然"会って荷物を持ってくれるのもこれが初めてではない。

横に並ぼうと歩を早めたその時。

「ちょっと待て。貴様、真選組局長の近藤勲だな。」

ガラの悪そうな輩が4人、近藤さんの前に立ち並ぶ。

ヤバイ。
攘夷浪士か?
私の事を知っているのは一部の奴等だが少しでも真選組に怪しまれるのは避けたい。

巻き込まれないよう何処かへ隠れようかとキョロキョロしていると、近藤さんに荷物を渡された。

「ごめん、ちょっと荷物持っててくれるかな。」

荷物を受け取り視線を戻すと、目の前が近藤さんの背中でいっぱいになっていた。
距離を取ろうと後ろに下がろうとした時、勝負は呆気なく終わった。


これがあのゴリラなのか。
こんなに強かったのか。


「お嬢ちゃん、大丈夫だった?」

そう言って近藤さんは手を差し出してきた。
男の人の大きな手。


私が今
近藤さんを真っ直ぐ見れないのは夕陽が眩しいから。

心臓が煩いのは急に襲われて驚いたから。

繋いだ手が嬉しいのは冬の寒さが辛いから。

顔が熱いのは夕陽に照らされたから。

でもこのふわふわとした気持ちは何なのかわからない。




 





潜入トップ
小説トップ
トップページ