今日は屯所での仕事は休みだが、私は朝から作ったクッキーを持って屯所へ向かっている。
別に深い意味は無い。
ただ、暇だっただけで。
いや、調査はまだ終わっていないので暇ではないのだが。
いや、むしろ今から屯所内の調査に行く訳だから。
決して近藤さんにクッキーを渡したい訳じゃないからと誰に言い訳するわけでもなく一人屯所への道を歩いていると、数人の人だかりが出来ているのが見えた。
別段興味はなかったので通りすぎようと思ったが、その中に見覚えのある人物がいた。
「山崎さん。何かあったんですか?」
「お嬢ちゃん…局長を呼びに来たんだけど…ちょっとね。いつもの事だよ。」
「近藤さん?」
人だかりの中心を見る。
近藤さんがいた。
女の人に踏まれながら。
「近藤さん。本当いい加減にしてください。次、勝手にうちの道場に侵入したらぶち殺しますから。」
「お妙さん!ちょっと待って!」
散々ボコボコに踏みつけた後、後ろも振り返らずに去っていく女の人を必死に呼び止めようとする近藤さん。
「…山崎さん。あの人は…」
「あぁ、近藤さんが毎日の様に飽きもせずストーキングしてる相手…あっ。」
山崎さんはしまったという顔をしながら己の口を塞いだ。
あの人が近藤さんの好きな人…。
人だかりもぱらぱらと居なくなり始め、私も立ち去ろうとした時、ゆっくりと起き上がった近藤さんと目が合った。
「え、お嬢ちゃん!?いや、これには事情があってね!別にストーカーとかそんな…」
近藤さんに好きな人がいるのはわかっていたこと。
でも実際、目の当たりにすると…。
「こんにちは、近藤さん。偶然ですね。私は急いでいるので、失礼します。」
「え、あぁ、うん。…え?」
にっこり笑顔をうかべながら早口で一方的に喋るとさっさと山崎さんのもとへ戻り、持っていた包みを山崎さんに押し付けて来た道を戻る。
ドロリとした感情が何かわからない。
それが何か考えないように走って家へと帰った。
自分のアパートに着くと、部屋の前に誰かが立っているのが見えた。
「風間…」
扉にもたれながら煙草をふかしている男は私を真選組屯所に送り込んだ人物だ。
「よう。なかなか報告が来ねぇからわざわざこっちから出向いて来てやったぜ。で、どうだ?成果は。」
「…まだ……思っていた以上に警備が厳しくて…。」
「ハァ?テメェこんだけ時間かけてまだだと?」
「……。」
「…まぁいい。とりあえず今の段階で解っている範囲でいい。報告しろ。」
報告書を渡す為に風間を部屋に招き入れたせいで煙草の臭いが部屋に充満していた。
アイツが帰った後もそれは消えず、空気を入れ替えるため窓を開けて月を眺めた。
私は何故わざと2週間前に製作した古い報告書を渡したのだろうか。
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