頭の後ろで髪の擦れる音が聞こえる。時々引っ張られる髪の毛が、痛い。
だが、自分の髪を不器用に扱う手の主を考えると、悪い気はしなかった。


「量が多い」
「これでも梳いているんだぞ」
「そりゃ分かるけど」


言いながら髪を編み込むが、絡まって上手くいかないらしい。
しかし諦める気はないのか、解いては編み込み、解いては編み込みを繰り返している。
二回に一回はスムーズにいくのだが、最後髪を結うとき失敗する。後ろからもどかしそうな声が聞こえる。

自分でやった方が何倍も短い時間で済むのだが、触れる手が心地よくてやめさせる気は起きなかった。


「だめ、上手くいかない」


かなりの時間悪戦苦闘していたようだが、ななしはとうとう白旗をあげた。
ぱっと両手を離したため、途中まで編み込まれていた髪がはらりと解けた。

タシャは苦笑し、後ろ手に自分の髪をまとめ、器用に三つ編みにしていく。
ななしの手が離れていったのは少し名残惜しかったが、その場から離れるまではしなかったので、いくらか寂しさはない。

ななしは慣れた手付きで結われていく髪を、じっと見ていた。


「こんなに大変なこと、一人で毎朝やってるなんて信じられない」
「まあ慣れだろうな」


綺麗な三つ編みが出来上がった。
最後にリボンをつけようとすると、それを制され、ななしの手がリボンをさらっていった。リボンだけでもつけたいらしい。
さすがに一人でつけさせるのは不安なので、毛先を押さえて結びやすいようにする。
そっとリボンを結ぶ手は、労わるようだった。


「私、タシャの髪好き」


髪だけか、と言おうとすると、首に腕が回された。
後ろから抱きつき、タシャの髪に鼻をうずめる。
それがくすぐったくて、小さく笑う。頭の上で不機嫌な声色が降ってきた。
それが可笑しくて、笑い声が口から出てしまった。


「甘えてるつもりなんだけど」
「それが分かるから可笑しいんだろう」


はあ、とため息をつかれた。恋しそうに擦り寄るななしがとても愛おしい。


「……三つ編み練習するわ」


上手くなったら、毎朝、タシャの髪を三つ編みにするの。と続いた言葉に、タシャは不覚にも赤くなった。
それは毎朝自分の部屋に来るということだろうか。
後ろにいるななしに自分の顔は見えないだろうが、タシャは恥ずかしくて顔を片手で隠した。

それが逆にいけなかったのか、ななしは笑った。
「照れてるの?」と嬉しそうな声で言われるが、タシャはちっとも面白くない。
話を逸らそうと、内心慌てて聞いた。


「そういえば、誰で練習するんだ?」
「……エルザかな」


びっくりして身じろぎすると、また笑い声が聞こえた。

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