人はそれを愛と呼ぶ
11月20日 晴れ
毎日暇だろ、と言ってノートとペンをくれたので、今日から日記を書くことにします。
わたしの名前はユウリです。キバナさんが名前をつけてくれました。
キバナさんと出会ったのは、知らない森の中でした。
わたしはなぜか森の中で倒れていたそうです。たまたま通りかかったキバナさんが、わたしを見つけてくれたのだと言っていました。
お外には怖い怪獣がたくさんいるので、私はお家から出られません。たまに窓からお外を見ると、緑色のドラゴンが飛んでいたり、背中から熱そうな湯気を出している大きな亀さんがいたりします。「ユウリは簡単に食べられちまうぞ」とキバナさんが言っていました。食べられるのは怖いので、お外には絶対に出ません。
11月21日 晴れ
私のお友達はキバナさんと日記さんです。
お友達だから、今日は秘密を教えてあげます。
私はお外に出れないけど、キバナさんはときどきお外に出ています。お庭にいたり、森の前にいたり、窓から見えない遠くの方までお出かけしたりしているみたいです。
キバナさんは大きくて強いので、怪獣に食べられることはありません。怪獣はキバナさんのことが怖いのかな?緑色のドラゴンは、たまにキバナさんを乗せてどこかに飛んでいってしまうけど、夜ごはんの前にはぜったいに戻ってこれるんです。わたしもお空を飛んでみたいな。ちょっとだけキバナさんがうらやましいです。
11月28日 くもり
今日はキバナさんがお菓子をたくさんくれたので、一緒にお店やさんごっこをしました。
キバナさんがお店のひとで、わたしがお客さんでした。どれもおいしそうだったけど、ぜんぶは食べきれないので一番大きなケーキとクッキーだけ買うことにしました。
おまえが好きなものは変わらないなと言われたけど、言っている意味はよくわからなかったです。
キバナさんは、なぜかすこしだけ泣きそうな顔をしていました。
12月4日 あめ
昨日はおひるねの時間が長かったので、夜はなかなか眠れませんでした。
お布団のなかでこっそり起きていたら、キバナさんがお部屋に入ってきたので寝たふりをしてごまかしました。頭をいっぱい撫でられたから、起きているのに気付かれているのかなあと思ったけど、怒られなかったのでよかったです。
キバナさんはお部屋をでるとき、ごめんな、と言っていました。やっぱりよくわかりませんでした。
12月11日 晴れ
今日はキバナさんがお外から帰ってきてから、たくさんお話をしました。キバナさんはお外にいる悪さをするひとたちを退治してくれたそうです。
お外からはいろんなひとの大きな声が聞こえて、ときどきユウリ、ユウリ、と呼ばれてすごく怖かったので、キバナさんが退治してくれてほんとうによかったです。
でも、どうしてわたしの名前を知っていたのかな?怖くてふしぎな1日でした。
12月12日 あめ
やっぱり昨日のことがふしぎだったので、キバナさんに聞いてみたら教えてくれました。
お外には怖い怪獣の他に、悪いひとたちがいるそうです。そのひとたちは怪獣と力を合わせて、こどもをさらいにくると言っていました。わたしに魔法をかけて誘いだそうとしていたのかもしれません。キバナさんがやっつけてくれたので、ほんとうによかったです。
12月13日 おおあめ
昨日からずっと雨がつづいています。キバナさんもお外に出ないようなので、ふたりでたくさんお話しました。
おひるねの前にはとってもすてきなお話も聞かせてもらったんです。わたしとおなじ、ユウリという女王さまとお供のドラゴンのお話です。
今日はもうおやすみの時間だから、またこんど、日記さんにも聞かせてあげます。おやすみなさい。
12月19日 晴れ
ユウリという女王さまは、とっても強くてうつくしい人でした。その強さに人々はあこがれ、女王さまのまわりはいつもにぎやかで心が休まるときはありませんでした。
そんな女王さまのきもちに気付いたお供のドラゴンは、ある日、魔法の鏡を持ってきたのです。
その鏡を一目みると、とたんに記憶がなくなって自分がだれなのかすら分からなくなってしまいます。
女王さまは、ドラゴンにお礼を言って、まよわず鏡をのぞき込みました。魔法で記憶を失った女王さまはその場で気を失ってしまい、ドラゴンに連れ去られて遠い遠いだれも知らない地の果てに旅立ったのでした。
すこし悲しいけれど、すてきな話だと思いました。日記さんはどう思いますか?
12月23日 すごいおおあめ
昨日のお天気がうそみたいに、今日はたくさん雨が降っています。
キバナさんはお外におでかけに行きました。食べものをたくさん準備して、ふたりでピクニックに行くためです。
せっかくだから遠いところに行こうと言ってくれたので、わたしもお気に入りの荷物をまとめました。遠い遠いところに行くから、しばらくここには帰ってこれないかもしれないそうです。
キバナさんはお外にいるドラゴンと仲良くなったそうなので、その子に乗ってお空を飛んでいくと言っていました。
もちろん、日記さんも連れていってあげるつもりです。キバナさんが帰ってくるのがたのしみです。
12月27日 晴れ
日記さん。
キバナさんは、まだ帰ってきていません。
いつもかならず夜ごはんまでに帰ってきてくれるのに。わたしは今日もひとりでごはんを食べました。
でも、もうすぐ棚のなかのパンがなくなってしまいそうです。チーズとお菓子は昨日のごはんでなくなってしまいました。
キバナさん、いつ帰ってきてくれるのかなあ。
12月30日 くもり
今日もわたしはひとりぼっちです。
おなかがすいて、なんだかとっても眠くなってしまう時間がおおくなりました。
目が覚めたら、キバナさんが帰ってきてくれているといいな。はやくピクニックにいきたいです。
1がつ8日 くも
おなか すいた
が 1 ち はレ
キ ん や く
め さ
─────────
現在、行方不明となっている新チャンピオンの少女のものらしき日記はそこで途切れていた。
発見者は捜索部隊の内の一人。ガラル地方の外れの森の中、いつから建っていたのかも分からない古びた洋館の中でその日記帳は見付かった。
キッチンには二人分の食器が保管されており、暖炉のある広間には少女ともう一人の行方不明者である男が仲睦まじく暮らしていたであろう形跡が至る所に残されている。
元ナックルシティジムリーダー、キバナの行方は依然不明。捜査は難航を極めている。
男の罪状は新チャンピオンである少女、ユウリの拉致監禁及び他地方からのポケモンの密輸入。該当ポケモンであるユクシーは既に姿を消しており、当事者の二人の痕跡も何一つ見付からない状況で、事件は既に半ば迷宮入りと化していた。
男は何故、罪を犯したのか。
少女は今、どこに向かっているのだろうか。
その答えは、今や誰も知ること叶わず。
▼ユクシー
分類 ちしきポケモン
ちしきの かみと よばれている
めを あわせた ものの きおくを
けしてしまう ちからを もつという