彼が私を呼び出すのは、決まって荒れている時だ。
指定されたホテルの部屋をノックすると、短く「入れ」と命令された。その声は今日もピリピリと荒々しさを孕んでいて。今この扉を開ければ、手酷い仕打ちを受けることは分かっている。前回会った時に噛み付かれた肩の痕はまだ青紫の痣となって残っていたし、感じた痛みも身体が覚えている。
泣いて痛いやめてと叫べば叫ぶ程に彼の興奮は増していく。静かに耐えていると苛立ちも露わに泣け、喚け、と痛みを与えられてしまう。繰り返される乱暴の末に私が学んだのは、ただ逆らわずその荒れ狂った欲望を前にして彼の気が済むまで屈服することだった。
扉の前で逡巡していると、先程よりも少し苛立ちを含んだ声音で「早く入れよ」と命令された。ここで彼を怒らせるのは得策とは言えない。すぐにドアノブを回して中に入ると、ベッドに腰掛けてこちらを見る彼と目が合った。柔らかく垂れた目元は優しげな形をしていても、その涼しげな色の奥には激しい苛立ちと歪んだ欲望が燃えているのが分かる。
「よぉ、オリーヴ」
「…何日か振りね。今日は一体どうしたの?」
呼ばれた理由なんて分かっている。それでも言葉にして尋ねてみると、彼は面倒臭そうに眉を潜めてから黙って手招きをするだけ。一度その手の中に入ってしまえば、彼が満足するまで解放されることはない。痛いのよ、苦しいのよ、分かっているのになぜ逃げないの?もう一人の自分の問い掛けを無視して恐る恐る近付くと、すぐに伸びてきた逞しい両腕に絡め取られて私の体は抱擁の檻に閉じ込められた。
ベッドに腰掛けたままの彼と、その腕の中でただ佇むことしかできない私。高低差の関係で私の腹部に顔を埋めるような形になっている彼は、普段とどこか違って幼い子供のようにも見える。先程まで感じていた怒りも、欲望も、どこかに形を潜めてしまったのか。そのまま何も言わない彼の後頭部をそっと撫でながら、もう一度「どうしたの」と問い掛けると、私の腹部を吐息で擽りながら小さく「…ユウリが、」と語り始めた。
嗚呼。また、ね。
またあの子の名前を呼ぶのね。また、あの子の話を聞かせるのね。繰り返し繰り返し、