短いビトユウ


「ねえ、もしも私が先立ったらどうする?」
ああ、また"もしも"の話だ。彼女は、仮定の話をするのが好きだった。
もしもあの時ふたりが出会っていなかったら。
もしもあの時ふたりの気持ちが重ならなかったら。
そんな話をよく持ち掛けて、僕に甘い答えを期待している。恋人らしく、彼女が求める歯の浮くような台詞の一つでも言ってやれば満足するのだろうが、生憎と僕はそんな器量など持ち合わせてはいない。
「……別に、どうもしませんよ。生きとし生けるものとして死は避けられないものですし、残された側は割り切って進むしかないでしょう。気分の浮き沈みは大なり小なりあるでしょうけど」
そう答える僕を見て、彼女は「ビートくんらしいなぁ」と笑っていた。
「じゃあ、僕にどうしてほしいんですか?」
彼女がどんな答えを期待していたのか。ふと気になって、逆に問い掛けた答えは———ああ、一体何と言っていたんだっけ。何故だか思い出せない。
思い出が生み出す幻覚が瞬きの間に消え去ってしまえば。テーブルを挟んだ向こう側、彼女のお気に入りの椅子。そこに座る存在は、もうこの世にはいないのだ。
「白状しますね。あの時は、僕、嘘を吐いたんだ」
彼女がいない世界で、息をする理由なんて見付からない。本当は、こう言ってあげたかったんだ。あなたを一人ぼっちにはさせないと。黄泉の旅路にお供させてくれと。